071 ハルム王国の侵攻2
「僕は帝国第二皇子フィリップ! ヴァルタル将軍に一騎討ちを申し込む! いざ、尋常に勝負だ~~~!!」
「マズイぞ! 将軍を守れ~~~!!」
フィリップがテントを斬り裂いて現れた瞬間、ハルム軍上層部はヴァルタル将軍を囲むように守りを堅め、近くにいた兵士がフィリップに飛び掛かったけど吹っ飛ばされた。
「将軍、我々で時間を稼ぎます。その間に撤退命令を早く!」
参謀が慌てて逃がそうとしたが、ヴァルタルは二本の剣を抜きながら前に出た。
「いや、いい。時間稼ぎは俺がしてやる。お前たちで兵士を逃がせ」
「将軍……」
「早く行け!!」
「「「「「はっ!!」」」」」
お涙ちょうだいのやり取りは、フィリップとしては避けたい状況。なので、フィリップはヴァルタルの周りにいた参謀たちを瞬く間に殴り倒した。
「僕は帝国第二皇子フィリップ! ヴァルタル将軍に一騎討ちを申し込む! いざ、尋常に勝負だ~~~!!」
「て、撤退もさせてくれないのか……この人でなしが!!」
「チッ……もういいや」
ヴァルタルに怒鳴られたフィリップは、レイピアを肩に担いで今までのセリフをやめた。
「もういい? 貴様はいったい何がしたいんだ!?」
「最初から言ってるでしょ~。一騎討ちだよ。それで引き分けにして、この戦争を無かったことにしてあげようとしてたんだよ」
「戦争を無かったことにだと……」
「ボローズの話は知ってるよね? どう伝わっているか知らないけど、真相は、僕がある程度ボコボコにして死者ゼロで終わらせたんだよ。そっちはもう撤退の意思はあるみたいだけど、僕のお願いを聞かないことには撤退なんてさせない。皆殺しだ」
自分のシナリオから外れているので、フィリップは不機嫌な顔で脅している。
「お願いとはなんだ?」
「え~! もうちょっと粘らないの~??」
「いや、聞いてから考えようと思ってな」
「せめて一騎討ちだけしない? このままじゃあ、僕1人で完全勝利になっちゃうんだよ~」
「それでよくないか??」
「よくない!!」
フィリップがゴネまくるので、ヴァルタルは渋々一騎討ちを受けるのであったとさ。
「あ、そう? うちが攻め込むと思ったんだ~」
「ゼェーゼェー……」
「ないない。勘違いだよ~」
「ゼェーゼェー……」
「というわけで、お互いわかり合ったから、戦は無し。話し合いで決着だ~!!」
一騎討ちはハルム兵に囲まれてやったのだが、機嫌の悪いフィリップがヴァルタルに「まだやれる!」とか言って攻撃させまくったので喋ることもできず。なので強引に締めたけど、ハルム兵は全員首を傾げている。
これのどこが話し合いなのかと……
しかし終わったことには変わりないので、息も絶え絶えのヴァルタルが撤退を指示して、ハルム兵は首を傾げながら荷物をまとめて帰って行く。
その中を、フィリップは無事なテントにヴァルタルを連れ込み、無理難題。ハルム王の前に連れて行くことを脅して約束させたら、ヴァルタルを担いでエステルたちの前に連れて行く。
「帰るってさ。ね?」
「ああ……」
「前より雑ですわね」
「だって~。僕のシナリオ通り動いてくれないし、王様は王都にいるって言うんだよ~? 1日で帰れないよ~」
フィリップが文句タラタラなので、エステルはクリストフェルにヴァルタルと話をさせて自分は愚痴を聞く。そのヴァルタルたちはと言うと……
「もうな、心が折れた。これが終わったら隠居する。ホーコンによろしく言っておいてくれ」
「は、はあ……何があったか、掻い摘まんだ説明でいいんでしてくれません? 妹に聞けと言われてるんですよ」
「あのガキ、無茶苦茶だぞ。本当に第二皇子なのか?」
「はあ……」
こちらも愚痴。その愚痴は、フィリップの愚痴が終わるまで続くのであったとさ。
それからヴァルタルを背負ったフィリップはダッシュでハルム王国の王都に向かい、ヴァルタルが吐きそうと言う度に止まり、なんとか日のある内に辿り着く。
「僕は帝国第二皇子フィリップ! ハルム王に一騎討ちを申し込む! いざ、尋常に勝負だ~~~!!」
そして門の前で叫び、町中で大立ち回りを繰り広げ、ゆっくりと進んでハルム王の前に立つのであった。
「僕は帝国第二皇子フィリップ! ハルム王に一騎討ちを申し込む! いざ、尋常に勝負だ~~~!!」
そこでも、兵士をぶっ飛ばしていつものセリフを言ったら、褐色の肌にツヤがない細身の老人、ハルム王はヴァルタルに助けを求める。
「このガキはなんなのじゃ!? 戦はどうなったのじゃ!?」
「陛下、これがボローズ王国が兵を引いた真相です。フィリップ皇子ただ1人に、ボローズ王国も我々も、まったく太刀打ちできなかったのです」
「そ、そんな……我々は、帝国に蹂躙されるのか……」
「いえ、フィリップ皇子は、戦を無かったことにしたいそうです。ボローズ王国も、公式発表でそう言っていたでしょう?」
「な、何がしたいんじゃ??」
「それは本人に聞いてくれますか? たぶん、一騎討ちするまで話さないと思いますけど……」
「イヤじゃ! イヤじゃイヤじゃ!!」
こうして駄々をこねるハルム王もフィリップに心をバッキに折られて、様々な条件が書かれた密約書にサインさせられるのであった。
「あ、そうだ。この国一番の美人を抱ける娼館って知らない? 久し振りにはっちゃけたいんだよね~。5人ぐらい買っちゃおっかな~? ムフフ」
それと、ハルム王行き付けのVIP専用娼館の紹介状にも……
「あやつ……いくつなんじゃ??」
「さあ? 詳しくは……」
「大物に育ちそうじゃな……」
「はあ……」
いまさらフィリップの幼い姿に疑問を抱き、子供に娼館の紹介状を渡してよかったのかと思うハルム王とヴァルタルであったとさ。
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