058 エステルの悩み2
「つつつ……え?」
朝、目が覚めたエステルは頭を押さえながら体を起こすと、隣に人がいたのでマジマジと見ている。
「で、殿下……キャーーー!!」
数秒後、エステルがソプラノ歌手かってくらい澄んだ悲鳴をあげるものだから、隣で寝ていたフィリップも跳び起きた。
「な、なに!?」
「なに!? じゃありませんことよ! わたくしの部屋でなにをしていますの!?」
「あ~……えっちゃんか。ここ、僕の部屋だよ」
「え……」
フィリップに指摘されて周りを見渡すと、間違いなくエステルの部屋ではない。
「どうしてわたくしはここに……」
「覚えてないの? 昨夜は大変だったんだよ~」
フィリップから語られる昨夜の真相。エステルが立ったまま寝てフィリップが押し返していたら、けっこうな騒ぎだったので屋敷中の者が集まって来たのだ。
その中には辺境伯夫婦もいたので、フィリップがエステルの大きな胸を揉んでいる姿もバッチリと見られてしまった。
それでと言うわけではなく、一部始終を見ていたウッラから報告を聞いたホーコンは、「娘の初めてを見守ろう」とか解散を言い渡して去って行ったので、フィリップもどうしていいかわからず。
なので、ひとまずエステルをベッドに寝かせて起きるのを待っていたらしいが、外から物音が聞こえていたので、フィリップも手を出せずにベッドに飛び込んでそのまま朝を迎えたらしい。
ただし、エステルに言っていないことはある。胸を揉んだことと、寝ているエステルの胸を
「まったく記憶にありませんわ……」
「酒くさかったから、そのせいかもね。どれだけ飲んだの?」
「確か……」
昨夜のことを思い出すエステル。その内容はフィリップへの愚痴ばかりだったので、言うわけにはいかない。
「思い出せませんわ……」
「まぁ、思い出せないならそれでいいんじゃない?」
「ですわね……でも、いちおう聞きますけど、殿下は寝ているわたくしに何もしていませんの?」
「うん。何も……いたっ! なんで!?」
「それはそれでムカつきますわ!」
よかれと思って何もしていないと言ったのに、エステルに叩かれまくるフィリップ。なので両手を握って引き寄せ、流れで抱き締めて小声で喋る。
「大きな声を出さないでね?」
「え、ええ……」
エステルが頷くと、フィリップは静かにベッドから抜け出してドアに向かう。そうして一気にドアを開けると、雪崩の如く……
「お父様、お母様! あと、イーダまで何をしていますの!? メイドや執事もいるじゃいですか!?」
3人ほどドアに耳をつけていたので倒れ込み、その他は奇麗に整列してる。全員、エステルの悲鳴を聞いて集まって来たけど、中で何が行われているか聞き耳を立てていたメンバーだ。
「というわけで、手を出したくても出せなかったんだ。ゴメンね~」
「全員、出て行け~~~!!」
その集団を見て恥ずかしくなったエステルは、「ですわ」設定を忘れて全員を部屋から追い出すのであった。
「なんで僕まで……」
この中で唯一のエステルの味方だと思っていたフィリップも追い出されたので、ブツブツ言っているのであったとさ。
エステルを怒らせてしまったので、一同解散……とはいかず、フィリップは寝坊したからもうお昼になっていたので、食堂に集結。
「てか、マジで見張り立てないでくれない? 事が始まったら呼びに来てもらうつもりなの??」
「いや、それは……申し訳ありません……」
フィリップのマジ説教に、あの巨体のホーコンも小さく見える。さらにフィリップは「娘のあえぎ声を聞きたい変態」というレッテルを貼っていたので、どんどん小さくなっていた。辺境伯夫人は、優雅にお茶してる。
「あとイーダ……何がしたいの?」
「あの……なんかノリで……」
「そんな子だったっけ??」
「殿下と出会ってから変わったみたいな??」
イーダへのマジ説教は、不発。確かにフィリップが改造処置をしたのだから、それ以上ツッコめなくなった。ホーコンも復活して関係を聞いて来たから、学院時代の数少ない友達と嘘をつかないといけなかったからってのもある。
それからフィリップは自分の部屋に近付くなと全員に命令して食事を終えたら、エステルの食事を運ぶ。点数稼ぎがしたいみたいだ。
しかし、エステルの部屋にはエステルはおらず。もしかしてまだ自分の部屋にいるのかとワゴンをカラカラ押して入ったら、マクラが飛んで来た。まだ、誰の顔も見たくないらしい。
フィリップは機嫌を取ろうと「あ~んしてあげる」とか言ってみたけど、激怒されたので食事を置いて逃げ出すしかなかった。
フィリップは「僕の城が……」とか自分の家じゃないのにブツブツ歩き、どこか寝る場所はないかとウロウロしていたら、イーダとバッティング。
何やらコソコソやっていたと思ったら、2人して辺境伯邸から姿を消したのであった……
その夜、食事の席でフィリップとイーダは暗い顔をしていたのでホーコンたちに心配されていたが、どちらも大丈夫と作り笑いをして食事を終える。
そしてまたフィリップは食事をエステルの元へ運んだら、昼食は平らげていたのでワゴンを取り換えて部屋を出る。
そうして歩いていたらウッラが「自分の仕事」とか言って奪い取られていた。あと、イーダとのことも聞かれていたけど、フィリップはお茶を濁して自室に戻った。
部屋に入り備え付けのお風呂でシャワーを浴びたフィリップは、ベッドで寝ているエステルの隣に潜り込んだ。
「まだ怒ってるの? いいかげん機嫌直してよ~」
「う~ん!」
エステルは不機嫌にフィリップを押したが、フィリップは強引に近付いてエステルの顔の真ん前に自分の顔を置く。
「恥ずかしかったんだよね? 辺境伯には、部屋には誰も近付くなと怒っておいたから」
フィリップがエステルの頭を優しく撫でると、エステルはようやく口を開く。
「それも嫌でしたけど、殿下がわたくしに何もしないのも嫌でしたの……わたくしに興味がないのですの?」
「興味がないわけないでしょ。えっちゃんが隣で寝てるから、ぜんぜん寝付けなかったんだから」
「……本当ですの?」
「これだけは本当。それに寝ているえっちゃんにそんなことしたら、傷付くと思って。これから死ぬまで一緒にいるんだから、えっちゃんに嫌われたくないんだよ」
「死ぬまで一緒……」
エステルは頬を赤く染めて嬉しそうな顔になった。
「……抱いて」
「え?」
「二度も言わせないでくださいませ」
突然のエステルの言葉に、フィリップも悩む。
「それが本心ならいくらでもするよ。準備は大丈夫? 後悔しない??」
「どうしてそんなこと言うのですの……」
「いや、えっちゃんを落とすには、もう少し時間が掛かると思っていたから……ただ抱き合って眠ったり、腕枕で眠ったり、ゆっくりと信頼を築いて行こうと思っていたんだよ」
「そ、そうだったのですの……」
「もういいなら、狼さんになっちゃうぞ。がお~」
フィリップが茶化すようにエステルの首に手を回そうとしたら、ビクッとして手を弾かれた。
「あっ! いまのは違うのですわ!!」
エステルは自分でも驚いて言い訳をしているけど、フィリップは何やら考えている。
「う~ん……やっぱり……」
「だから、殿下が嫌いなわけではないのですの……」
「違う違う。そういうことを考えていたんじゃないよ」
「では、何を……」
「ひょっとしてえっちゃんって、男性恐怖症じゃない? もしくは、男性を信用することができないとか??」
「え……」
フィリップの質問にエステルは答えられないので、自分で喋り続ける。
「兄貴たち4人に囲まれて、酷いフラれかたしたもんね。そんなことされたら、誰でも傷付くに決まってる。よくあの場で泣き崩れずに立ち去れたよ……頑張ったね」
「うっうぅ……」
エステルは断罪の日を思い出して、フィリップの胸に顔を埋めた。
「えっちゃんのペースでいいんだ。ゆっくりと、愛を育んで行こう」
「うう、うう……」
声を抑えて泣くエステル。しかしフィリップの言葉には頷いてくれたので、優しく抱き締めるフィリップであった……
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