018 報告
「後悔してますの?」
盗賊を皆殺しにしたフィリップがしばらく立ち尽くしていたら、馬に乗ったエステルから声をかけられた。
「ちょっとはね。兵士を辞めさせられていなかったら、こいつらも死ぬことはなかったのかもな~って……」
「元兵士が徒党を組んでいたわけですか。皇帝陛下とルイーゼは、なんて罪作りな……」
「だね……って、どこから見てたの!?」
いまさらエステルと喋っていたと気付いたフィリップが取り乱すと……
「盗賊がおよそ半分ぐらい倒れたところからですわ。エリクは、剣の腕も凄まじいのですわね」
エステルは悪気なくこういう始末。
「待っててって言ったのに~」
ほとんど見られていたと知ったフィリップは、情けない声を出すしかできないのであった。
血を水魔法で洗い流して暖かい風魔法で全身を乾かしたフィリップは、エステルから質問攻めにあっていたが、答えたくないから事後処理の話を急がせた。
この場所はギリギリ、アルマル領なので放置しても問題ないと言いたいところだが、死体を放っておくと獣が集まってしまうから街道を使う人の危険が増す。
なので地面に、辺境伯の名前、盗賊を倒した辺境伯に仕える騎士の名前、半日後には処理を開始すると書いてから馬を飛ばした。
それから辺境伯領に入り、一番近くの宿場町に寄った2人はエステルの指示の元、各種手配を急ぐ。アルマル領への書状、早馬で先行させる兵士、盗賊の処理をする多くの兵士の手配。
フィリップは暇なもの。町に入ろうとするお姉さんに声を掛けて雑談。お姉さんも並んでいては逃げ出せないので話を合わせていたけど、年齢を聞いて驚いていた。子供だと思っていたみたい。
そんなことをしていたら、諸々の手配が終わったエステルが戻って来て、フィリップの首根っこを掴んでさらって行った。自分は働いていたのにフィリップが遊んでいることが許せなかったみたいだ。
馬に跨がりまたぶっ飛ばせば、太陽が落ちた頃に辺境伯邸に到着。従者に馬を預け、軽く砂埃を落としたら、さっそく当主のホーコンに報告。
まずは急ぎの盗賊の報告をして、アルマル領の領主に一筆書かせる。これは、勅令書の内容が重すぎるから、忘れないうちにエステルがやらせていた。
そしてお待ちかねの……
「やってられるか~~~~~~!!」
勅令書は、クシャクシャに丸めて投げ捨てるホーコン。内容が内容だけに、誰もそのことは
2人とは違い、エステルは冷静に丸められた勅令書を拾い、シワを伸ばしてからホーコンの前にそっと置いた。
「やるやらないではなく、やらなくてはならないのですわ」
「わかっておる! わかっておるが、この怒りは抑えられんぞ!!」
「それは領地を持つ全ての者がそうですわ。特に、本当に勅令書を受け取った者は大変でしょうね」
「怒っている場合ではないかもしれんな……」
勅令書を受け取った順に大混乱が発生しているのは目に見えるので、ホーコンも哀れんだ顔になった。その時、フィリップが立ち上がる。
「お先、お風呂とごはんもらうね」
「「はぁ~~~……」」
「じゃ、またあとで~」
何かいいことを言うと期待したホーコンとエステルは同時に長いため息。それは肯定ではなく失望のため息なのに、フィリップは肯定と変換して部屋から出て行くのであった。
「エリクはずっとあの調子なのか?」
フィリップが退室すると、ホーコンは呆れながらエステルを見た。
「ええ。ずっとふざけていましたわ」
「それでよく、勅令書を手に入れた上に盗賊退治なんてできたものだな」
「あの方は、見た目はアレですけど、中身はかなり有能ですのよ。剣、魔法、知能……どれを取っても超一流でしたわ」
「ほう……お前がそこまで言うのは皇帝陛下ぐらいだったな」
「もしかすると、皇帝陛下を凌駕しているかも……」
「何があったか全て聞かせてくれ」
食事も忘れて、数日共にしたフィリップの行動を、エステルは全て報告するのであった。
「あとは毎晩ゴソゴソと聞こえていましたが、何をしているか聞いても教えてくれませんでしたわ」
「あ、うん。それは言えないな」
「お父様はわかるのですか?」
「聞いて後悔するなよ……」
娘に男の性を教えるガサツなホーコン。そのおかげで、エステルに少し嫌われるホーコンであったとさ。
お風呂に入って食堂に顔を出したフィリップは、エステルたちが現れないことを特に気にせず食事を始めたら、ウッラとたわいない会話をして就寝する。
そして翌日は、朝食の席でエステルたちと共にしたから何を話し合っていたか聞いていたけど答えてくれず。ホーコンから1時間後に庭に来るように言われて、フィリップはノコノコと現れた。
「訓練中?」
ホーコンが剣を振っていたのでフィリップはしばらく眺めてから声をかけたら、ホーコンは振り返って汗を拭う。
「いや~。ここ最近、書類仕事ばかりで体が鈍っていましてな。運動していたのです」
「へ~。辺境伯となると、当主でもそこまで剣を振れるんだ」
「ええ。時間があれば鍛錬するようにしてますからな。まだまだ息子に負けてられません」
「大変だね~……ん?」
ホーコンがいきなり鞘付きの剣を投げ渡して来たので、フィリップも首を傾げている。
「お相手願えませんか?」
「僕と??」
「20人以上と大立ち回りしたと聞いてますよ。その剣、是非とも拝見したくなりましてな」
「僕となんか楽しめないよ」
「まあまあ。そう言わず、やりあいましょう!」
ホーコンは喋りながら一気に距離を詰め、フィリップに向けて剣を振り下ろす。その剣を、フィリップは鞘から少し抜いた剣で受け止めた。
「わはははは。私の剣を一歩も引かず受けますか!」
「笑ってるよ……ひょっとして辺境伯って戦闘狂??」
「まあまあ。楽しみましょうや!!」
ホーコンはその大きな体を使ってフィリップを押したら簡単に吹っ飛んだが、これはフィリップが距離を取るために跳んだだけ。その時間を使って、フィリップは剣を完全に抜いた。
「ちょっとだけ遊んでやるよ」
「それはありがたい!!」
こうしてフィリップVSホーコンの試合が始まるのであった……
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