29.出発前に
いよいよやってきたクリスマス当日。沙那と俺の家の前に集合し、作戦を決行することになった。
……昨日のことは、お互いに努めて触れないようにしている感じ。あくまで自然を装う。まさかプレゼントを買いに行った帰りに、それを渡そうとしている人に出くわしてしまうなんてな。
ま、沙那は本当に自分の服を買いに行っていてたまたま出会ったという可能性もあるが。
とにかく、文化祭で沙那が俺との過度な接触を避けるようになってから互いに変な意識をしてしまっているのは明白。2人で出かけること、今となってはすごくドキドキしてしまう。
――その気持ちの正体は……。
きっと、俺も自覚してる。それを見ないようにしてるだけ。怖いからだ。失敗したときが。
「はぁ。ほんっとに櫂斗くんはどんだけおバカなの⁈」
沙那が珍しく呆れたような素振りを見せる。無理もない。だって本日12月25日、クリスマス当日。
桐龍櫂斗が選択したのは彼女(仮)の沙那ではなく同級生のあの女の人だったのだから。
「バカすぎるな。恋人って主張するならクリスマスは一緒に過ごすのが当然だもん」
「そうだよっ! もう私にバレてもいいってことなのかな?」
桐龍は沙那に謝罪もして、恋人同士としてしっかりしていこうと決意表明をしたばかりなのに……。これはお粗末がすぎる。確かにバレてもいいと思われてるとかじゃないと説明がつかない。
「舐められてますね……くやしぃ……」
「まあまあ。もう桐龍のことはどうでもいいんでしょ?」
「それはそうっ! だからこうしてどんどんと怒りのげーじを溜めているわけなので!」
ふるると体を強張らせていた沙那が、ふうっと息を吐いた。
あれ、というかこんなにやる気はまんまんなんだけど今から俺たちって……?
「て、ていうか沙那さん?」
「ん~?」
「俺らって今からどこに行けばいいわけ?」
頼りない声で訊く。
「桐龍を盛大にフッてやるには、まず浮気の現場に突入する必要があるわけで。ただ俺らはどこに行けば桐龍と会えるかなんて聞いてなくないか……?」
マズいぞ、その辺は全然ちゃんと考えられてなかった。いきなり計画が頓挫するピンチってこと? 変な汗が額の上からじゅわあっと流れ出てきた。
「櫂斗くんが、女の人とどこにデート行くかってことだよね?」
聖夜に彼女を差し置いて出かけるような奴――つまり桐龍が、正しい目的地を教えてくれるなんてことはありえないもんな。え、マジでどこへ行けばいい? 桐龍の家の前とかで張っとく?
すると沙那は、胸の上あたりに手を添えながら顔の全パーツを中心にぎゅっと集める。
「えっと、えっとね……」
「おいおいヤバくね……?」
めっちゃ不安そうな顔だ。これは……マジで無計画でご破算になっちゃうパターンなのか……?
だが沙那はチャンネルを切り替えたように得意げに表情を変え、スマホを俺の前に突き出してくる。
「じゃじゃーんっ! これを見てよみっちーっ!」
「え、これってまさか……!」
「そっ! 櫂斗くんのデート相手、
少年探偵みたいな誇らしさをたずさえ、えっへんと胸を張る沙那。
ナイス! マジでナイスだぞ!!!!
「学校でね、直接会って事情をお話したんだ! がんばったんだよ!」
「ほうほう!」
緊張しがちな沙那が初対面の年上にわざわざ喋りに行く……それだけですごい労力を使ったんだなと感心してしまう。
「つまり桐龍の二股がバレてないって思ってるのは、本人だけってこと?」
「いえーす! その辺の説明も全部させていただきましたっ!」
なるほど、これは話が早い。つまるところ今日の奏さんと桐龍のデートすらも罠であり、桐龍包囲網が完成してしまっていると。
「だから奏さんが教えてくれた……ここ! フレンチレストランを出てから公園でゆったりしてるときに私たちが押し掛けることになってるの!」
「チルタイムならぬ、散るタイムってとこか……」
「ソ、ソダネー」
伝わってなかった!
まあいいんだ、俺のクソオヤジギャグは。これで今日一日の導線が確定した。
冬の薄い日差しに照らされながら、沙那と俺はニヤニヤと笑い合った。
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