25.沙那の想い
※今回は沙那視点でお送りいたします。
「なにやってんだ、わたしっ……!」
みっちーと一旦バイバイした後、私は誰もいない校舎の片隅でうずくまっていた。
「あんなにその場の気分に任せて勝手なことをして……みっちーにドン引かれちゃったよね。きっと……」
今も心臓がドコドコと、とんでもないぐらい早く鳴っている。発症は、混雑していた校庭の真ん中で、みっちーと手を繋ごうとした瞬間だ。
ビリビリと体に電気のようなものが走って、なぜかその手を掴むことができなかった。今までの人生で何度も、ずうっと握ってきた大きな手を。
私は男の子にめっぽう弱い。もちろん、びっちさん的に『目がない』ってことではなく。男の子と、ちゃんと関わるのが恥ずかしくて苦手だ。幼稚園のころから中学校まではまともに関わってこなかったし、彼氏なんてもちろん櫂斗くんがはじめて。
そんな消極的な人生の中で唯一緊張せずにおしゃべりして、わがままを言える男の子――市川道貴くん。気づけば仲が良かったぐらいのノリで、彼に『恥ずかしさ』という感情は感じなかった。家族のようなものだ。
「でも、今日ははずかしかった。うぅ、すっごくはずかしかったよぉ……」
体育座りの姿勢で、膝に頭を押し当てる。
――急に恥ずかしがるだなんて、距離を感じる。俺のことがキライになった?
みっちーはそんな感じのことを言っていた。そんなの、ありえない。みっちーは私にとって大切な人で、一番付き合いの長い男の子だ。これは胸を張って言える。
「…………みっちーがお友達じゃなくて、男の子になっちゃった」
好きなのに、いや、好きだからこそ胸がバクバクうるさくなる。相手に触れるのが怖くなって、何を思われているのか不安になる。
私はこの感覚に覚えがあった。そう、人生で経験するのは2回目のあの甘酸っぱい気持ち。
「あんなことされたら、そりゃ……ね」
いつこの感情が芽生えたのかは、覚えていない。グラデーションのように、気づけば私の心の中はピンク色に変わっていた。
みっちーは、傷ついた私をぎゅうっと抱きしめてくれた。
どれだけ甘えてもイヤな顔一つせず、受け入れてくれた。
一緒に笑ってくれた。櫂斗くんの件を自分のことのように怒ってくれた。ピンチから守ってくれた。
「もうお手上げだよ、みっちー」
私はチョロい。だって今まで男の子になんてろくに触れてこなかったから。
幼なじみというがっちりした友情関係がある人だって、気づけば男の子・異性という目で見てしまっていた。あぁ、なんてはれんちなんだろう……。
「…………」
みっちーが残していった、バナナのクレープをじいっと見る。まだ三分の一ぐらいは残っている。
みっちーの前で間接ちゅーをするのは、すっごく恥ずかしかった。でも今ここには……。
「だれも、いない、もんね……っ」
はむ、っと歯型の付いた部分からバナナを一口。みっちーが美味しそうに口をつけていたところから。
「あまい……っ」
砂糖の量がおかしかったのか、ってぐらい甘い。でもおかしくなっちゃったのは私のほうだ。
「あまい、あまいよみっちーっ……!」
少し顔が火照りつつ、鼻息をふんふんしながらクレープにぱくぱくかぶりつく。
そう、この甘さは櫂斗くんを好きになったときのと同じ……っ!
「しゅ、しゅきだ……。わたし、みっちーのことが男の子としてだいすきだ……っ」
ぷるぷると体を震わせながら、一人で呟く。
私はこれから、櫂斗くんと文化祭デートをしなきゃならない。クリスマスの復讐計画に向けての前フリとして。
私をあんなに傷つけてくれた怒りもあるが、それ以上にもうこの計画を終えてきっぱり櫂斗くんのことを忘れ去りたい。
初恋の人への恨みを全部消化して、次の恋に進みたい。その相手はもう決まっている。
だから、私は頑張る。櫂斗くんを忘れることも、今はまだ『幼なじみ』としてしか見てくれていない大好きな人を振り向かせることも。
神様、悪い子でごめんなさい。
でも……許してくれますよね? あんなに辛い思いをしたんだもん。めいっぱいの幸せが欲しいです。そのためならなんでもします。なんでもできます。
――恋する女の子は、ちょっとわがままになっちゃうものなんです。
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