22.お化け屋敷にて
「ここが櫻木学院か」
約束通り、俺は沙那の文化祭にやってきた。昼すぎぐらいに中で落ち合うことになっている。周りは友達同士や恋人同士、親世代も多いので一人で正門の前に立つと変な目で見られてないか心配になる。
「なんかうちの高校よりもキラキラしてるなぁ……」
お城のような正門。入口からずらっと続く花壇。創立者の銅像。なんせ俺のとこ違って私立だもんな。親からしたら、こういう装飾に学費を使われるのはどうなんだろうか。生徒は嬉しいだろうな。明るくてウェイウェイした雰囲気が櫻木学院の人気の秘訣でもある。
「桐龍とか、横にいたあのモデル体型の美女もここに通ってるわけだよなぁ」
解釈一致。勉強<<<アオハル! って感じで楽しんでるのが目に浮かぶ。
沙那はどんな感じで過ごしてるんだろうか。結構気になってきた。
「よし。早く沙那のクラスの出し物を見に行こう」
1年B組は教室での出店って言ってたっけ。俺は校内地図を見ながら、沙那のクラスへ向かった。
♢
…………沙那のクラスの出し物って、
「お化け屋敷かよおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!!!」
え、聞いてないんだけど。沙那さん、お店は当日のお楽しみとか言ってたけどさ……。イヤなんだけど。怖いって。俺がこういうの苦手だって知ってただろバカ!
「ひっ!!!!!!」
……なんだ、自分の足音か。
自滅じゃん。怖さの自給自足じゃん。こんな真っ暗闇の中、一人で進んでいけっての? なんでこんなにイヤなものが楽しい出し物として認められてるのかわからん。金くれ。カネクレームコロッケ。
とかぶーたれてると、後ろから怖い男の声が。
「うらああああああああっ!!!!!」
「ごめんなさいマジでごめんなさいマジでマジで!!!!!」
ちらっと振り返ると……学ランを着たリーゼントの男!
「あり金全部出さんかいコラァっ!!!」
「いやお化けじゃないんかーーいッ! お化けなんかよりよっぽど怖いけど!!!!!」
このヒュードロロ的な音楽と洋館風の装飾はなんなんだよ。コンセプトがぐちゃぐちゃじゃねえか……。
大声を出して少しホッとして歩いていくと、キョンシーの顔面にはお札じゃなく39点(ギリギリ赤点)のテストが貼られてるし。カッパ役の子には『将来こうなりますよ』って頭を指してハゲることを示唆されるし。普通にモニターで交通事故の映像が流れてるし……。
「え、怖かったらなんでもいい的なことですか?????」
…………かなり異色のホラーハウスだな。天才かくそバカの実行委員がいるな?
「てか沙那はどこにいるんだよ。ここまでまだ見かけてないぞ……?」
懐中電灯でくまなく周囲を探す。もう出口の灯りが近づいてきた。
勝手にキャスト担当だと思ってたけど、まさか受付担当とかじゃないだろうな。マジで何も言われてないからありえるぞ……。
なんて思いながら、最後のエリア――墓地らしきゾーンに差し掛かったときだ。
「う、うおわ~~~~~~~っ!」
斜め前のお墓の背後から聞き馴染みのある甲高い声とともに、見覚えのあるフォルムの人が立ちあがった。
「……ぶふっ」
いや棒読みすぎただろ。もはや日本語教室の生徒に教えるレベルではっきりくっくり発音してたんだが? 『うおわ』って何を教えてるんだよ。
「えいえいえい」
「ちょっと! まぶしいよみっちー! じゃなくて、うおわ~~~~~っ!!!」
懐中電灯でチカチカ光線を当ててやると、一瞬包帯ぐるぐるのミイラさんが素に戻りましたがヤバいと焦ってすぐに演技に戻りました。
演技が棒読みなのも相まって、必死に頑張ってる感がちょっといじらしくて可愛い。根が素直だから、与えられた仕事は必死にやりたいんだろう。だったらなおさら、俺はからかいたくなってしまう。だって面白いもん。
「じっ」
とりあえず物珍しそうに凝視していると、ひたひたひた、と手を下に向けながらこちらに歩いてくる沙那ミイラ。足を引きずってる感じは上手い。えらい!
「た、食べちゃうぞ~~~~……」
「ミイラが何を食べるんだよ。あんた死んでんだろ?」
やべ、素でツッコんじゃった。ただこれは沙那の設定ミスだ。多分、怖い生き物は全部人間を食べると思ってる。ミイラは生き物でもないか。死に物。
そして沙那ミイラが、俺の真横に来て。
「がお~~~~~~~っ!!!!」
ぴと、と肩に触れながら可愛い大声を出した。今度はアマゾンの風が吹きました。設定破綻もいいところだ。あ、ここは元から破綻したおしてたか……。
「う、うわ~~~~」
沙那が棒読みならこっちも棒読みで対抗だ。わざとらしすぎる驚きを装って、逆に沙那で遊んでやる。親に遊んでもらってる子どもみたいなイメージになるだろ。
「……よしっ」
「え?」
「みっちーをめっちゃ怖がらせられてるっ! この調子でもっともっと!!」
……真正面から受け止められて喜ばれました。じゃあマジでお子様じゃねーか! なんでこれで手応え感じれるんだよっ!!
沙那は俺の肩をとうとうがっちり掴みながら、
「よしよしよし! がおっ! よしよしよし! がおっ!!!!」
無邪気な喜びとミイラ設定ガン無視の百獣の王ボイスを交互に唱える。
いやもう目をつむって聴いたら、ライオンをあやしてるときの声なんですが⁈
「わーいっ! みっちーがいっぱい怖がってくれた! ふっふ~♪ 頑張って練習したかいがあるよ! やっぱりみっちーは昔から怖がりだし――」
「怖がってないです」
「きゃあんッッッ!!!!!」
はしゃいでいた沙那に食い気味で言いつつ顔を急激に向けると、驚いて尻もちをつかれた。……そんなにビビるとは思わなかった。
「い、いたたたぁ……」
プリンとしたお尻をさすさす。自分、ミイラに勝ちました! って、言ってる場合じゃないか。さすがに驚かせすぎたな。……え? なんか客とキャストの立ち位置が入れ替わってるんだけど?
「こけるとは思わないじゃん。はい、立ってミイラ沙那」
「うぅ……お仕事失敗しちゃったかなぁ……」
「…………頑張ってはいたな」
これフォローになってんのかな、とか思いながら手を差し出す。包帯で巻かれた柔らかい沙那の手が俺のを掴んできた。
そして冷静になって沙那のミイラ姿を見て思うこと。
かっ、かわえぇ…………。正直女の子のコスプレ姿はたまんないぐらい好き。嫌いなやついる? いねえよなぁ⁈(性欲モリモリのマイキー)
「楽しんでは、くれた?」
「うん、すっごく面白かったよ」
途中からはネタ枠的な意味で。
「楽しんでくれたならよし! 私もクラスのためにせーいっぱい頑張りましたのでっ!!」
どん、と胸を張る沙那だった。こういう真っすぐなところが沙那の一番ステキなところだ。
「ねえねえ、似合ってる⁈ 私のミイラコス! こんなの文化祭ぐらいでしか見られないでしょ⁈」
と、完全に素で喋り出す。おまけに手まで掴まれている。後ろからお客さんが来る気配もないし別にちょっとぐらい喋ってもいいだろう。
「い、良いと思うぞ……」
思わず斜に構えてしまった。だってこんなの見るタイプの暴力だ。可愛すぎる。ところどころ包帯がはだけてるし、服が破けた衣装だから白い肩が見えてるし……。
「なーにーそのビミョーな反応? もっと褒めてくれていいんだよ~?」
「面と向かって褒めるのも恥ずかしいわ」
「ぶぅ~。みっちーはこういうのが1番好きだと思ってたのになぁ~」
腰に手を当てながら少し不満げな沙那。俺の趣味バレバレじゃねえか。え、まさか俺が来るのに合わせてコスプレまで寄せてくれたりしたのか……?
いやいやそんなわけ。いくら仲良しでもそんな面倒なことはしないだろう。
「せっかくみっちーの趣味に合わせて、役の立候補までしたのに~」
「ぶっ⁈」
当たってんのかいおい。出血大サービスだな⁈
「……趣味ですよ、はい。めっちゃ似合ってる」
ここまできたら言い逃れ出来ない。恥ずかしいけどしっかり褒めておこう。
「うししっ! やっぱりねっ! みっちーって案外おスケベさんなところがあるから、コスプレとかだいこうぶつだよねっ!」
「おいバカ! 大声で言うことじゃねえ!」
「あはは、ごめんって! 褒められたのが嬉しくってつい!」
「ったく、そんなこと急に言われたらビビるよ……」
「人を怖がらせる出し物だもんね!」
「もっと正統派でビビらせれる??????」
あぁ、ありがとうございます……。ミイラ沙那は正直新鮮で、眼福でしかないですわ……。
「沙那ちゃーん! ちょっとキョンシーの子がいなくなっちゃったんだけど、ヘルプ入れたりできないかなぁ~?」
「あ、は~いっ! 私に任せてっ!!!!」
同級生の女子に呼ばれて、沙那はテコテコと走っていった。クラスのために必死に頑張る沙那。きっと愛されキャラなんだろうな、というのが今の会話一発で伝わってきた。
「文化祭おデートするの、もうちょっとだけ待っててね? お仕事が終わったら一緒に行こうよっ!」
「りょうかい。ちょっと時間つぶしてるわ」
「あ、キョンシーの私も見に来てくれて欲しいかもっ! はい、もう一周はいりまーすっ!」
と、入口へと沙那に背を押される俺だった。うん、楽しい文化祭ですね。
この後は、軽く沙那と出店を回って……桐龍とのデート見学だ。ワクワク。
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