【2章】反撃の幼なじみ
12.桐龍櫂斗、忘却大作戦!
「もうっ! 私はぷんぷんだよっ!」
「桐龍があそこまでクソ男だとは俺も思ってなかったな……」
「あんなヒドい人、もうし~らないっ、ふんっ!」
プイッと横を向く沙那。怒り方はかわいらしいが、かなりおかんむり。
「怒って当然だよ。沙那が傷ついていることなんて知らないで、自分の性欲を満たすことに夢中。あれはおサルさんです」
「うきっ、うききっ!」
バカにするようにサルのマネをする沙那。
「言葉責めみたいなことでもするつもりだったのかね」
「ことばぜめ~……?」
「世の中には悪口とかを言われることで逆にテンションが上がっちゃう人がいるんですよ……」
「なにそれいみわかんな~い! 褒められるほうがいいに決まってるよぉ!」
こういうところにはウブが残っていて可愛いな。俺は罵倒されるのも悪くないが……。うわ、ナチュラルに
「モテモテの人はそういうてくにっく(?)みたいなのも使うんだぁ!」
「まあ全部、『顔がいいから』で通ってしまうところはある。俺が責める側になったとしても……」
「みっちーはそんなことしないじゃん! とってもやさしいもんっ!」
『良い人』よりクズがちやほやされる風潮、俺はめっちゃ腹立つ。なんだよ世の中。理不尽だろ。まあ桐龍もこのやり方で、他の女の子には刺さってきたんだろうな。でもお生憎さま。ガバガバな男になびくのも、またガバガバで奔放な女の子なわけだ。
「はぁあ! あんな人に必死になってホントに最悪、ばっかみたい!」
そう、沙那みたいな純朴ピュアには刺さらない。
あ、でもこの人さっき……。
「男ウケしそうな女の子に必死に寄せてでも、付き合いたかった彼氏なのにな?」
「そ、それは……」
煽るように言うと、核心を突かれたように沙那が頬をぶくぅっと膨らませる。
「きいーっ! あんな女の子もーどのお顔、みっちーには見られたくなかったのにぃ……!」
ぽかぽかぽか、と肩を叩かれる。恋は盲目。あれだけウブだった沙那でさえ、大人の階段を無理やり上らせてしまうぐらいには。
「めっちゃ悪い顔してたぞ。桐龍に負けないぐらいにはね」
「みっちーのいじわるぅ! おバカ! 歩くの遅い! ちょっと小食~っ!」
悪口を言い慣れてないから加減をしすぎている。ノーダメだ。それもまた沙那っぽくていい。
「はやく忘れて! ほら、私はずっとちっちゃいときのままの純粋な沙那ちゃん!」
「……好きな男にはたまに色目もつかう沙那ちゃん」
「ち~が~う~よぉ~!!!!!」
なんか今の沙那は一段とイジりがいがあるな。反応がポップで楽しい。
「そ、そんないじわるばっかりしてると、女の子に一生あんな顔見せてもらえないよ!」
「ぎ……っ」
急にイタいところを突くな……。いつかは自分にメロメロになってくれる女の子がそばにいて欲しいものですはい。
「とにかく、ふくしゅー! 付き合ってくれるよね?」
ニコっと天真爛漫な笑みなのだが、今はちょっと……怖く見える。沙那の瞳の奥に燃え滾る、桐龍への敵意。
ま、喜んでくれることなら付き合いますけどね。よっ、ベスト幼なじみ賞! 年末の表彰式用にドレスを卸しに行かないとな。
♢
沙那に連れられて来たのは、俺らの街から電車で30分ほどの繁華街。
規模はかなり大きめで、飲食店・居酒屋・ゲームセンター・ショッピング施設などがズラッと立ち並ぶなんでもござれのエリアだ。
複数の路線が交わる駅の前に立ち、雑踏に揉まれながら俺たちは話す。
「ここはねぇ、櫂斗くんとよく来てたんだぁ~。好きだししょっちゅう来るんだってさ!」
「その思い出を塗り替えたいと?」
「いえっす。さっすがみっちー、話が早いねぇ」
イヤな男との記憶を、俺で塗り替える。なるほど沙那のやりたいことはわからなくもない。
『復讐』とは言っても、殴ったり暴言を吐いたり直接的に危害を加えるわけじゃない。
「なんか絶妙にほんわかしてて、ちょうどいいレベルの復讐だな」
「ちょっとぉ~! バカにしてるでしょ~!!」
沙那が腰に手を当て、ぷくっと頬を膨らませながら俺を見る。
「櫂斗くんなんて頭の中から消してやるんだもんっ! 楽しくない思い出なんて、私にはいらないよーだ」
「いいじゃん。『目には目を歯には歯を』的な仕返しだと、後が怖いし。沙那の気が晴れるならこれがベストだよ」
「……うぅ~?」
「沙那には意味わかんなかったなごめーん」
煽るように言う。ちょっとムズい言い回し、沙那にはわかんないよなぁ。ごめんごめん持ち前の偏差値50が炸裂してるわ。
「…………うぅ、手には手をっ!」
「⁈」
「手、つなぎながら行こっ!!」
と、意味のわからないきっかけで手を繋がれた。なんだそれ。ハンムラビが鼻の下伸ばしながら、法典の角でぶん殴ってくるんじゃね?
「どきどきするでしょ? 女の子の手なんてなかなか味わえないもんね~!」
「うるせぇ。沙那は女の子とかじゃないから」
「はぁ~? こんなにかわいいのにぃ?」
「俺からすると意識しないよ、ってことです」
沙那の手がモチモチすぎて、ほんのちょっとだけドキドキするけどな。ちょっとだけ。
「なんか変な感じするなぁ」
「ねぇ~! みっちーとはこういうとこ来たことないもんね」
握られた手をフリフリと振りながら、意気揚々と歓楽街のど真ん中を歩いていく。【激安! ビール一杯300円!】とか書いている居酒屋を横目にしながらだが、300円のドリンクは普通に高いだろ。自販機のコーラなら3本は買えるぞ。アルコールが好きな大人って、めちゃめちゃ出費が多そうだ……。
「俺らのガラじゃないよな。もっと地味な遊びが合ってるよ」
「仕方ないよぉ、これが櫂斗くんの趣味だったんだし」
すんごいアウェイに来た気分だ。周りの人らは服や髪に色が多いし、声が大きい。
「ほんっと、私たちには合ってないね」
「沙那?」
含みのある言い方をするから沙那のほうを見ると……?
――沙那が、震えていた。
ポイ捨てされたゴミ。騒ぐ大学生のような集団。
きっと怖いんだ。うるさくてごちゃごちゃしたこの街が。
「櫂斗くんは、こういう街にも自然になじんでたけど……」
沙那が少し不安そうにもらす。桐龍とならこういう街を歩いても不自然じゃなかった。
それに対し俺は……やっぱりちょっと不安だよな。服もダサいし、パッとしないし、なによりケンカをしたら瞬殺されそう。
あぁ……! でもムカつく! このまま不安にさせてたら、なんか俺が負けてるみたいじゃん!
「だ、大丈夫」
「ん~~?」
「手、離さないから安心して」
「どきゅんっ!!!!!」
安心させようとキャラじゃない見栄を張ると、沙那が心臓のあたりを抑えた。いや、別にナルシストにモテようとしたわけじゃ……。
「もしかして私のことをオトすチャンスだと思ってるんじゃ……?」
「な、なわけ! 沙那が不安って言うからだろ!」
「あははぁ、そうだよね~私のためだもんね~」
言うと、沙那は安心したように舌をペロっと出し――。
「でも、こうしてるとホントのカップルになったみたいだね!」
と、俺が握ったよりもさらに強く、俺の手を握り返す。
あ、前言撤回。ちょっとしかドキドキしないとか言ってたけど、俺の心臓が急に早鐘を打ち出しました。
「みっちーとこの街を歩けてよかったなぁ、うんうん」
……俺もこういう街は新鮮で案外ワクワクする。
こうして、沙那のちょっと可愛くてささやかな復讐が始まった。
でも忘れてはいけない。ここは桐龍櫂斗にとってごようたしの生活圏だということを。
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2章スタートしましたっ!
いよいよ桐龍櫂斗に敵対心を抱き出した沙那。道貴と甘えたがりの沙那の関係に少しでもドキっとした! 2人を応援したい! という方は☆×3をいただけますと幸いです。
カクコン8にも挑戦中です。応援してくださるとありがたいです!
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