遠足準備⑦
(よし、計画は成功だ)
今、僕の目の前では篠原さんが夏樹に数学の問題を教えている。
途中、委員長が自分から篠原さんがいる方に話しかけに来るという想定外の事態が起きたが概ね計画通りに進んだことを確信した俺はようやく胸を撫で下ろした。
(これで苦手意識が消えるとはいかなくても、少しはマシになったはずだ)
篠原さんが夏樹に数学の問題を教え終わると、ちょうど竹本先生が教室に入ってきたので僕たちはそれぞれの席に戻ることにした。
※
「金木くん、ちょっと待って」
昼休みになり購買にパンを買いに行こうと購買に向かっている最中、篠原さんに後ろから呼び止められた。
「どうしたの、篠原さん?」
「あうっ……」
僕が振り返ると、篠原さん突然はうつむいてしまった。
(下を向いてもじもじしてどうしたんだろう?)
“まさか告白でもされるんじゃないか”とありもしないことを考えながら篠原さんが喋り始めるのを待っているとしばらくの沈黙の後、ようやくつぶやくようにして喋り始めた。
「……ありがと」
「どういたしまして。これで来る気にはなった?」
「うん」
(本当に頑張ってよかった)
篠原さんが周りの人に勘違いされて敬遠されてるのを見ているのは篠原さんの優しい一面を知っている僕にとってあまり喜ばしいことじゃなかったし、みんなにも篠原さんのことを知ってほしいと思ってたから、こうして認識を改める機会を作れたことをとても嬉しく思う。
そして結果的に篠原さんが喜んでくれたなら頑張った甲斐があるというものだ。
「それならよかった。どう、みんなとも話せそう?」
「うん。私1人じゃ難しいかもしれないけど、あなたと一緒なら……」
「大丈夫だよ。篠原さんならきっと1人でもみんなと話せるはずだよ!!」
「そうかしら……」
「篠原さんならできるはずだよ。それじゃあ、俺は購買にパン買いに行ってくるから、またね」
本当は篠原さんともっと話したいところだが、これには僕の集中力がかかっているのでどうしても譲わけにはいかない。
(育ち盛りの男子高校生に昼飯抜きは辛い……)
そうして篠原さんと別れた僕は購買のパンが売り切れる前に急いで食堂に向かった。
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これにて遠足準備編は終わりです。
次からは遠足編に入れると思います。
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