ざらつく心 苛つくんだ
「あの、なんでヤクザなんですか?」
「ストレート来たねぇ。まあ生まれたときからそうだからね。所謂家業だから」
「家業ですか? じゃあ、あれですか? お父さん組長ですか?」
「アハハ、組長かぁ。そうだな、そうなるなあ」
「生粋のヤクザかぁ。なんか凄いなぁ。東映ヤクザ映画の世界ですよね」
社長は腹を抱え笑っている。
「恭介君は面白いねぇ。うんうん素直なんだね」
俺は更に突っ込む。
「日本で何番目位の組なんですか?」
社長は一瞬真顔になると、
「この世界は複雑だからね。説明為ても良く判らないと思うよ。それにうちは、随分前から真面目に不動産投資の会社を経営為ているんだよ。決して地上げ屋じゃないからね。アハハ」
「へぇ、そんなんですか? じゃあ足を洗いたいとか思ったことありますか?」
「あるよ。特に最近はずっと考えているん。親父から兄貴に代替わり為ていてるから、そんなに煩くないし」
「でも……その時は指をどうとかするんでしょ?」
「それは大昔か、映画の世界だね。今はそれぞれ違うから。すんなりやめさせてくれる場合もあるんだよ。僕の場合は、実の兄に持分の半分渡す事で、話しもうついてるんだ」
「うーん。でも……オーナーさんと、お店はどうなるんですか? ご夫婦なんですよね」
「よく知ってるね。それ八代君かな? そうだね。オーナーとは、まだ夫婦だよ。まだね。でももう、あれだよ。夫婦って言うより大家と店子の関係だな。店の権利は彼女に渡していて。もう何回か離婚話は出しているんだけど、別れたくれないって言うんだ。本当困っているよ」
「何回もって。だいたいなんで困るんですか? 贅沢ですよ社長。あんな綺麗な人に惚れられているんですから」
「惚れられてる? アハハハハハ。ないない。心細いだけだよ。離婚しても大切な仲間なんだけどね。兎に角出来るだけ早く決着しを付けたいって思ってる」
「勿体ないですよ! 心細いってだけですかね~オーナーさんの気持ち大切にしないと」
「まあそうだね。色々あったしな。彼此二十年位一緒に頑張ってきたんだ。絆はあるさ。でも僕、本当に今、本気の本気で別れたいと思っているんだ」
「理由は?」
「理由? 実はね、物凄く好きな人がいてね。如何しても告白したいんだけど。だけど結婚為たままでは出来ないだろ? ふたりに不誠実になるし」
「でも……受け入れられるとは限らないですよね。それでも別れるんですか?」
「それはそうだろ? オーナーは担保では無いんだから。それに相手だって、僕が結婚しているのに告白したら、どれだけいい加減な男だと思うか。そう思わない?
僕だったら嫌だよ」
確かに、いちいち最もだとは思うが……社長にここまで言わせる人って見てみたい気もするけど。
「それに僕にとって、これが最後の人になると思うからさ。だから余計にちゃんと為たいんだよ」
だんだん聞きたく無いという想いが脳を支配始める。息苦しくなっきた。体が熱くなって来る。
俺は、自分の苛つく思考を敢えて茶化すように大袈裟に相槌を打つ。
「そんなんすか。そりゃすげぇなぁ。大、大、大恋愛の予感って奴ですね。なんか俺までドキドキ為てきますよ。おっ、社長作りますか? はいはい~」
差し出されたグラスを受け取ろうとしたとその時、社長は俺の手にそっと触れた。
そして、
「綺麗だ」と呟いた。
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