ざらつく心 偶然か引き寄せか?

何気なく入り口付近をはじめとして見ているとウエイターがお冷やを継ぎに来た。

「お冷や失礼致します。あのお客様はどなたかとお待ち合わせでらっしゃいますか?」

「いや……別に、誰とも待ち合わせしてませんけど、それが何か?」

「いえ、失礼致しました。ごゅっくりお過ごしくださいませ」

カラン~誰も入って来ない。 

「うん、うん、そう……よろしくね」

お~俺が見ても判る、仕立ての良いスーツを着こなした細面の男性が入ってきた。

「いらっしゃいませ。おや、こんな時間に珍しい。今日はどうされました?」

カウンターからマスターらしき男性が出てきた。

「いや~あんまり喉乾いたから、アイスコーヒー貰おうかと思ってさ」

「さあ、こちらにどうぞ」

俺はその男性を目で追っていた。

えっ! あの、あの社長だっ! その男性もこちらに気付いた。

目が合った。拙い。でも、でもだ。一回だけ、それも一瞬だからな。俺の事覚えているわけ無いと高をくくっていた。

それより竹に報告しようとラインを送ろとしていた時だった。

「あれ? この間八代君と、来てくれた恭介君? でしょ?」

はぁ? 名前呼び? 一応名刺には佐々木恭介って印刷されてますよね! なんて言えるわけ無い。

「はい! 気づか無くてすみませんでした! その節は大変お世話になりました」

「ここいい?」

「はい! どうぞどうぞ」

「マスター、こっちにお願いね」

「はい、了解しました」

「なんか嬉しいな。会いたいと思っていたから」

えっ……あの日調子乗りすぎたのか? 店の物壊してないし、女の子にも失礼は無かったはず……なんだなんだ怖いよ……。

「あの~俺たち……なにか……」

「違う、違う。恭介君が格好良かったから。今度ゆっくり話したいと思っただけ」

「よかった~どんでもなく焦りましたって、俺が格好良いってあり得ませんよ。社長の方が数百倍格好良いです」

これは本音だ。

「アハハ、本当? 嬉しいなぁ」

そんなに見つめられると目のやり場に困るんだけど。

「ねえ、今夜またここに来られない? 無理じゃなかったら」

「今晩ですか? 八代達に……」

「いや……恭介君ひとりでは来られないの?」

「俺ひとり? ですか? あっ、いや……大丈夫です」

「良かった。じゃライン交換して貰えるかな。ここに来たら連絡貰いたいから」

「はい! 喜んで!」

社長はラインを交換すると先に店を出て行った。

俺もそろそろ帰社する時間だ。

レジに立つと、

「お会計は済んでおりますので」

「えっ! そうですか……はぁ……すいません」

「有難うございました」

店を出ると一気に汗が噴き出した。

「あち~」

社長からラインが来た。

「今夜楽しみに為ています。それから八代君達には内緒でお願いしますね。色々あるので」

「了解しました。後ご馳走様でした。では夜連絡させて頂きます」

何だか不思議な気持ちだ。まさかヤクザさんと友達になったのか俺?。

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