第88話 『悪役』と休暇……?
久しぶりの休暇……いや、フルル先生の基準に当てはめればこの世界に来て初めての休暇か。
いつも通りに目を覚まし、制服に手をかけたところで訓練場に行かないことを思い出す。
「じゃあ魔物狩りでも……って、これも駄目なんだっけか」
しまった、本当に休日にやることが無い。先週の俺、何していたっけ……私服に着替えつつ俺は先週の休日を思い出してみる。
朝起きて、武器買って丈の合わないズボンを間違って買って。フルル先生と一緒に《ポイズン》の新しい使い方を考えて……終わり。
休日らしいことと言えば服を買ったことぐらいか?でも先週に引き続き服を買いに行くってのも金がかかる。
そんなにファッションを気にしないし、買ったところで週のほとんどは制服で過ごすわけだしな……
シミターを腰に引っ提げて寮を出る。出たはいいが、俺の足はそのまま入り口で止まってしまった。
「何をすればいいんだ……」
「ん。そう思って来た」
「ユノ……」
「タイタンの私生活は、謎」
そんな俺の前にユノが現れる、半分目が開いてない状態で。『ユノはご主人様だから』と、寝ぼけたことを言っていたのでとりあえず頭にチョップをかまして目覚めさせる。
「痛い」
「今日は朝練は無いぞ」
「ん。しってる」
だから今日は制服じゃない、とくるりと一回転しながらユノが私服姿をアピールする。白のカッターシャツに黒のショートパンツ……ゲームのスチルでは見たことが無い格好だ、眼福眼福。
そんなことを一人思っているとむすっとした顔で俺の方を見てくるユノ。まだ完全には開いていない目で膨れていると本当にジト目でこちらを見られている気分になる。
「…………」
「どうした?」
「……別に」
「『似合ってる』や『可愛い』といった感想が欲しいならシアン姫あたりに聞きに行ってこい」
「じゃあ、思ってはいる?」
ユノが一歩近づいてそう聞いてきたので俺はユノの横を無言で通り抜けて街の外へと歩き始めた。何が悲しくて主人公みたいなキラキラしたセリフを吐かねばならんのだ、恥ずかしくて口から砂糖が出る。
執拗に俺から言質を取ろうと「どう? どう?」と周りをぐるぐる回りながらユノがしつこく聞いてくる……ここで両足に《パラライズ》かけてその場から動けなくしてやろうか。
「言わないと……命令して言わせる」
「フルル先生に怒られるぞ」
「嫌なら、言う」
「……動きやすそうだな」
率直な感想を言うともう一声、とさらに距離を詰めてくるユノ。なんだよもう一声って、回避率に補正掛かりそうだなとか言えばいいのか。
まあ、ユノも一般的な女の子だから『綺麗』や『可愛い』といった言葉が欲しいのだろう。俺みたいなやつからでも聞きたくなるというのは分からんが……まあ、男には分からない女心というやつか、と俺は納得する。
「あー、月並みな言葉だが似合っている……これ以上の言葉を聞きたいならシアン姫にでも頼んで貴族のパーティーに行け」
「……そこでなら、もっと聞ける?」
「貴族の男はパーティーのためにおしゃれしてきた女性に対して、自身が持てる言葉全てを使って褒めるのが礼儀だ」
「ん。分かった」
ユノはそう頷くと、とてとてとどこかへと行ってしまった。貴族嫌いなユノが貴族のパーティーに行くわけがないから諦めたのだろう……女性を手放しで褒めるなど
というか結局あいつは何しにここに来たんだ……?私服褒めて貰いに来ただけなのか、と俺が呆れているとユノが猛スピードで帰ってきた。
「……忘れてた。タイタンについていく」
「忘れたままでもよかったんだぞ」
「ん、だめ。ついてく」
ガシィッと腕を掴むユノ、離すものかとしがみつくようにしているせいで大きい胸で俺の腕が埋もれている。
腕を引き抜こうにも片腕だけだと小柄なユノにも力で及ばない、この貧弱ステータスが……っ!
俺は抵抗することを諦め、肩を落とす。自慢げに鼻を鳴らしているユノの顔を見てデコピンでもかましてやろうかと腕を伸ばしたが、首輪がそれを阻止するように俺の身体から自由を奪った。
「っち、案外厄介だなこの首輪」
「……しばらくタイタンはお休みだから、このまま」
訓練で攻撃できるように命令すれば普段と変わらないと先生が言ってた、と歩きながらユノが説明しているのを聞きつつ俺も並んで学園の敷地から出る。
休日という事もあってか目の前に伸びる大通りには平日以上の活気があり、行商人や吟遊詩人など普段は見られない奴らがちらほらといる。
そういえば、ゲームで休日は普通は街で売られていない貴重な素材や武器を売ってるところがあったな。
どれもこれも値が張るものだったが最終ダンジョンをクリアしないと手に入らない素材もたまに売ってて、序盤から俺Tueeeee!をするために一年生の休日を全て素材発掘に費やしたプレイヤーもいたとかいないとか。
「確率0.033%の壁は厚かった……」
「……確率?」
「なんでもない、過去のことだ」
隣のユノがこてんと首をかしげながら聞いてきたのをそう流し、俺はボーっと街並みを見る。
……やることが無い。武器屋でも見に行くか?レベルアップしたとはいえ、最終的なステータスで考えると1年生の3学期のタイミングで攻撃力が足りなくて詰む。
そうならないために自身の強化を――
「ん、どこ行く?」
「まずは露店だな、出来るだけ自分の手札を増やしておきたいから爆弾やポーションといったものがないか――」
「……ダメ。先生から『戦闘を考えるような行動は止めて』って言われてる」
露店に行こうとした俺の足を踏んで止めるユノ。もっと他に止め方無かったのか……それにしても。
「どうしてもだめか?」
「ん。どうしてもだめ」
「武器屋とか――」
俺が提案を言い切る前に首をぶんぶん横に振るユノ。自身の首を指さしながら無言の『首輪使うぞ』アピールをしてきたので大人しく諦めることにした。
「そうなると、俺なにもすることないんだが」
「……しかたない。ユノについてくる」
外に出たのにやることが無いという俺の姿を見てガックシと肩を落としたユノは、俺の手を引いてそう言ってくる。
「……食べ歩き、する」
――――――――――――――――――
【後書きという名の謝罪】
みなさま!申し訳ありませんでしたああああああ!(初手謝罪)
お待たせして申し訳ありません、というか待たせすぎですね私!?難産、というよりは忙しかったのと単純にやる気を失っておりました……
タイタン、初めての休暇ということで。今まで戦闘ばかりしてきた彼が初めて戦闘以外のことを考えるという回です。
今回の街の案内人はユノ。というか街の案内人として適役がユノしかいないとかいう話はポッケにないないしときましょう。
不定期ではありますがこうして続ける意思はあるよー!という更新でした。
作品のフォローなどでいつでも見れるようにしていただけると幸いです!ではまた、近いうちに更新しますので!
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