第85話 『悪役』と煽り
今日の講義も終わり、昼食を食べ午後。今日は身体思い通りに動かないんだから魔物狩り禁止っ!とフルル先生に言われ、訓練場で一人剣を振っている。
そういえば、この時間帯の訓練場って見たことなかったな……俺は剣を振る手を止めて周りを見る。
途端にびくっ!と身体を震わせて俺から蜘蛛の子を散らすように逃げる生徒たち、もはや何かのコントだろ。
生徒たちが午後の暇な時間を訓練に当てている……が、明らかにふざけている。自主練をまともにしているのはちらほらといるが、生徒に邪魔されて動きにくそうだ。
彼らは今ふざけて振っている剣や撃っている魔法が『人を殺せる』と分かってやっているのだろうか?いや、分かってやってたらただのサイコパスだな……俺に近づかないだけ俺の訓練に差し障りないから楽だしこのままでいいか。
「スー……ふぅ」
一息つき、集中する。周りの雑音が遠く離れていく感覚と共に、脳裏に浮かべるのはヒサメ……ではなくシアン姫を襲った賊。
今の俺にとってヒサメとやりあえば負ける、だからまずは賊からだ。十中八九負けるが、1か2の勝率しかない戦いこそやる意味がある。
目を閉じる、賊は弓矢を構える。距離は30メートル先……戦闘開始!
賊が弓を引き絞り放つ!俺はそれを突撃しながら最小限の動きで躱す!
「うわあああああこっち来たぞ!」
「おい目を閉じるな危ないだろ!」
くっ、右にずらした重心が予想より大きくて身体が引き戻しきれない。俺はそのまま不完全な体勢のまま賊に剣を振るうが賊は避けられていることを予想しているかのように弓自体を投げて、俺が弓を切り払う間に腰に提げていたナイフを抜く時間を稼ぐ。
「ッチ……」
「おいあいつ舌打ちしたぞ」
「何もしてないのに!」
失敗だ、弓を投げられても斬り上げてそのままの勢いで一回転しつつ賊の身体も切り払ってやろうとしたが重心が傾いて不完全な状態で振ってしまったために二撃目が賊の身体に届かない。
ならばとばかりに迎撃に移る。今の俺には細やか動きが出来ないので懐に入っての乱撃戦は不利……ならば相手のリーチの短さを利用して突きや払いをするために伸びきった腕に対してカウンターを狙う!
ナイフを突き出す賊、俺はその動きを躱し……反撃とばかりに剣を振り下ろすがいない!?
俺の予想位置の少し手前に賊はいた、突き出した勢いでナイフだけ飛ばしてきたのか!ナイフは叩き落したが、俺のシミターは完全に振り下ろしきっている。
その隙を見逃さないはずのない賊は、もう一本のナイフを取り出して猛追する。なめるなよ……ッ!俺が何のためにシミターを選んだと思ってやがる!?
後の先を取るために振り下ろしたシミターの勢いそのままにさらに一回転!速さと重さを加速させた一撃で身体ごと叩き切ってやる!
……が、空ぶる。そして賊のナイフは俺の心臓を一突きし俺は死んだ。
状況終了。だめだ、最後の一撃が速すぎる……予想より速く到達地点を過ぎ去ってしまったためにまだ賊がそこまで来ていなかったのだ。
良くて服を浅く斬る程度、悪かったら空振りして死亡だ。
だめだ、攻撃にまで転じられない。まずは躱す事だけを念頭に置くべきか……?
「おい、タイタン!」
「んぁ?」
集中を解いた瞬間に俺を呼ぶ声が、目を開けてみると剣戟の音は止み目の前には……ハルトが。
周りの生徒はみんな手を止めて俺の方を見ている、怒りと恐怖?何故だ?
ハルトは大げさに手を振りながら俺に対して声を荒げる。
「いくら嫌われているからってストレス発散のために他人を攻撃するな!」
「はぁ?」
「そもそも嫌われているのはお前の行動が原因だろ!自分のせいなのに暴れるな!」
そうだそうだとギャーギャー言っている周りの生徒全員の口をパラライズしてやりたい。まあ、首輪のせいで使えないけど。
つか嫌われてるのは俺が転生する前の悪評をこいつが意図的に流したからだろ、学園で俺が嫌われている責任は3対7だ。ちなみに7がハルト。
あ、というか丁度いい。お前が必要だったんだよハルトよ、倒れないかつ本気で俺と戦ってくれる相手。それでいて『賊より弱い』やつ。俺はあくまで悪役らしく振舞いつつハルトに剣を抜くように誘導する。
なぜかって?こいつに頼みごとをするのが死ぬほど腹立つからだ。
「だったら黙らせてみるがいい、貴様らが弱いから奪われるのだ。貴様らが弱いゆえに周りを囲んで騒ぐしか出来ぬのだ、分かるか?力ではなく脳も弱いから分からぬよなぁ?」
「あぁ?お前みたいなクズのいう事なんてわからねぇし分かりたくもねぇよ……ッ!」
背中に背負っていた大剣を引き抜くハルト、あーあー乗せられやすい事。俺も抜いていたシミターをそのままハルトの方に向ける。
殺気、怒気、憎しみ……良い、良いぞ。やはり『命がかかった真剣勝負』じゃないと、活路は見いだせない。
「やっちまえハルト―!」
「悪人をやっつけてー!」
「あぁ、こいつはここで倒す!」
なんか、ラスボスみたいな立ち位置になってるな俺。まあいいか、俺を強くしてくれるのならラスボスだって構わない……さあ、俺の身体のチューニング相手、せいぜい頑張ってくれよ。
俺は獰猛な笑みを浮かべながらハルトを睨みつけるのであった。
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