第72話 『悪役』と覚悟

 手数が足りない、火力が足りない、ジリジリと減っていく魔力と少しずつ大きくなっていく頭痛を努めて無視しつつ打開の一手を考える。


 スタミナは大丈夫、戦況は俺とユノが頑張っている限りは拮抗状態だ。だが絶望的に救護テントにいる生徒達のレベルが低くて押し返せねぇ……っ!


「ッチ、いよいよヤバいぞ」

「ん。ユノも疲れてきた」


 ユノが小さく肩を上下させながらゴブリンの喉元からナイフを引き抜いて言う。ユノの方はスタミナが限界か、つーかハルト野蛮人とかいるだろあの中!?もっと気張れよ主人公!


「ぜぇ、ぜぇ……無理、ちょっと休憩」

「頑張ったねハルト君っ、みんな!ハルト君が復帰するまで保つよ!」

「「おうっ!」」


 休んでやがった。もはや呆れて声も出ない、いや……俺たちが今まで走れていたことが異常なんだ。俺は未だに減る気配のないスライムとゴブリンの海をかき分けながら、この異常な光景から生き延びる方法を考える。


 もちろん、今目の前にいる連中をほったらかしてシアン姫達を連れて脱出するだけなら可能だ。だが、その選択肢をとれば民を想うシアン姫と生徒想いのフルル先生の好感度はダダ下がりだ……


 それに、「頑張ったけど無理だった」という言い訳はもうしたくねぇ!反射的に助けるために動いてしまったが、一度決めた以上は絶対にやりぬいてやる!

 となれば……やはり、ここまでモンスターが集まってしまった原因を発見して取り除くしかないな。俺は隣にいるユノにシアン姫のもとに戻るよう提案する。


「ユノ、一旦このまま回ってシアン姫達の元に戻るぞ」

「なにか良い案浮かんだ?」

「いや……だが、戦況が均衡した今なら戻って作戦を考えるだけの時間は稼げる。このまま駆けずり回ってじり貧になっていくよりも、少しでも可能性のある方法を模索したい」


 ん、りょーかい。と頷いたユノを連れて、元居た場所に戻る……と、そこには大量のドロップ品に囲まれながらゴブリンやスライムを一撃で切り捨てているシアン姫とヒサメがそこにはいた。


 フルル先生も持っていた杖でゴブリンの頭をかち割っている。ヒサメとシアン姫の死角を的確につぶすように立ち回り、杖を振り下ろした勢いで前に泳いだ身体をそのまま流しつつ次の敵に向かっているフルル先生。


 体の後ろに残った|杖≪鈍器≫を、円を描くように振り上げながら次の敵に振り下ろす……シアン姫とヒサメの死角で戦っているから見えないし、実力を隠すのも合わせて相当の実力者であることを示していた。


 先生の強さを再確認したところで、俺はシアン姫達を囲んでいるモンスターをパラライズで身動きが取れないようにしながらユノと共に合流する。


「みんなっ!」

「おっ、タイタン君!首尾はどうだい?」

「最悪一歩手前でギリギリ止められている……といった感じでしょうか」


 俺がフルル先生の質問に今の状況を素直に伝えると、顔をしかめっ面にする先生。かわいいけど、今はそれに萌えている暇はないな。

 ヒサメとシアン姫も目の前の敵が動かなくなったので一旦戦うのをやめ、俺たちの方によって来る。荒く息を吐いており、こっちの方も中々連戦が続いて疲弊しているようだ……


「あまりにもおかしすぎるぞ、森中の魔物が救護所に寄っているように思える」

「ええ……私たちを狙ってくるモンスターもいましたが、大多数のモンスターは向こうの救護テントを狙っているように思えます」


 ヒサメとシアン姫は口々に違和感を声に出す。確かに……俺とユノがモンスターの大軍をかき分けながらか知り舞われたのは俺たちにヘイトが向かなかったことが大きい。


 パラライズをかけても、切り捨てても、モンスターたちは俺たちを狙うことなく救護テントを目掛けて走っている……もしかして、救護テントに何かあるのか?


 脳内にある『学園カグラザカ』のアイテムの記憶を掘り起こす。モンスターを呼ぶアイテムやモンスターの好物食材といったアイテムのフレーバーテキストを頭になかで高速で処理していき……一つのアイテムにたどり着く。


《魔物呼びのこう》:モンスターが好きなにおいを焚いてモンスターを呼び寄せるお香。人間からは無臭だがモンスターからは甘い匂いがすると好評。


 もしかして、誰かが《魔物呼びの香》を救護テント内で焚きやがったか!?確かお香の時間は30分だったはずだが……俺たちがたどり着いてから1時間は経っている。


 追い炊きしたか、それとも匂いが濃すぎるのか?くっそ、速く確認しに行きたいが俺たちが確認しに行くすべがない。このモンスターの壁をこじ開けるには、あまりにも人数が足りなさすぎる!


 このモンスターの無限地獄を止めるにはそのこうの効力が切れるまで殲滅し続けるか、香自体をぶっ壊さなきゃならない。


 シアン姫やフルル先生に、《魔物呼びの香》というアイテムの存在を伝えて、俺がどうすればいいでしょうか?と質問しつつ頭を悩ませていると、話を聞いていたヒサメがふと手を上げる。


「もはやタイタン殿に何故そういった物の知識があるのかを質問するのは野暮であるから聞かぬが……そのお香に、魔物は寄るのかの?」

「ああ、服や髪に匂いがついていたらわからないが基本的にはそうだと思う」

「では、救護テントの中にそんな危ないものを持ち込んだ輩が存在している、ということかの?」


 それは、そうだろうな……なんのためかは分からないが、ロクな代物じゃない。だが、お香を救護テントに放ったまま生徒たちがあの場から逃げ切ればモンスターたちは生徒たちよりも救護テントを狙うだろう。


 『学園カグラザカ』では作中、どうしても勝てないモンスターが出た時や今のようなモンスターハザードが起こったイベント時に《魔物呼びの香》でモンスターをそっちに誘導する場面がある。今はそんな状態に近いといえるだろう。


 だから俺たちがしなければならないのは生徒たちが逃げられる道をこじ開けること。けが人も含めて、安全に逃げられることが条件になる……


 犯人捜しはいったん置いておこう、そういって殺気を生徒たちの方に放っているヒサメをなだめつつ俺は正面突破をみんなに提案する。


「相当数なモンスターを倒しているから中の生徒たちも少しは成長していってる、なら俺の魔力が残っているうちに正面から突っ込んで道を作りたい」

「えっと……つまり、私とヒサメ様は救護テントの方に向かって敵を切り伏せていく感じでしょうか?」

「そうですね、俺が両側から来る敵をパラライズで押しとどめます。フルル先生、最悪の場合は……使いますよ」


「仕方ないね、力をセーブして死ぬよりは何倍だって良い。ボクが責任を取る、だから全力を出しなさい」

「ほう?タイタン殿の本気、しかと見届けたいのぉ!」

「本気出さなくてもすむなら、ユノはそっちの方がいい」


 口々に賛成の意を示してくれるみんな、よし。この包囲網に、風穴を開けるぞ!俺たちはモンスターの大軍に、真正面から突っ込んでいった。



――――――

【後書き】


 お久しぶりです!サルです!腱鞘炎からすこしだけ復帰しました。ので、更新します!

 まだ本調子にはなっていないので毎日更新にはできないのですが、復帰していくのでゆっくりお楽しみください!

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