第59話 『悪役』と新スタイル
フルル先生を連れて、『風吹く丘』へ。
「こうやってモンスターを狩りに行くのは何年ぶりかなぁ、といってもボクは
「それも立派にモンスター狩りに貢献してるんじゃないですかね」
その道中、フルル先生と雑談をしている俺。フルル先生は普段見ない背丈以上の両手杖をプラプラさせながら歩いていた。
フルル先生の歩幅が小さいから俺もそれに合わせて歩く速度を落とす、シアン姫とヒサメの『投資』のお陰でいつものように急がなくてもよくなったからな。今日はのんびり狩り出来る。
それにしても……とフルル先生は俺の腰に下げられた《シミター》を見た。
「その、《シミター》って武器?が君に合ってるのは分かったけどさ。そもそも片手剣にこだわる必要はあったのかい?」
「……と言いますと?」
フルル先生が『気に障ったらごめんね?』とワンクッション置いて話し始める。
「学生時代に結構な人が最初の武器が合わない!って言って武器を変えてたのをボクは見ててさ。ほら、剣よりもリーチの長い槍とか一発の威力が大きい斧とかあるだろう?」
「まあ、確かにそうですね」
「君のような『強さ』というものを追いかけている子が、片手剣にこだわっている理由を聞いてみたいんだよ。聞く限りその武器は癖が強いんだろ?そこまでして片手剣を使うのは、何か特別な思い入れがあるのかなってさ」
フルル先生がそう俺の目を見ながら聞いてくる。確かにゲームにおける回避型の後衛が本来持つべきものはショートソード……より更に小回りの利く短剣、もしくは打撃武器のメイスが最強とはプレイヤー間で周知されていた。
俺も最初はそう思っていた、スライムにダメージすら与えられない片手剣なんて持ってる意味あるのかよって。でも……
「意地と、合理性ですかね」
「ふぅむ……?」
「単純に理屈と気持ちの問題なんですよ。槍や斧はそもそも体術を
ただそれだけなんです、と俺は笑ってフルル先生にそう返した。タイタンと話したあの日、俺が『悪役』として生きると決めたあの日から……俺は片手剣を使い続けることを信条とした。
実際にその決まりを守るように、俺はその日から軽々しく剣を投げ捨てる事はしなくなったしな。
それがタイタンという15年の人生を『否定』しないという、俺なりの意地。タイタンの努力は
俺の言葉に深く考え込むフルル先生、別にそんな難しく考えなくても良いんですよ?才能のない剣を振り続けてたら才能ある奴に勝てるってのを証明したいだけですから。
「君は……なんというか、ちぐはぐな子だね」
「?」
考え込んで下を向いていた頭を上げたフルル先生が、そういって俺に困ったような笑顔を向ける。ちぐはぐ?
「強さを求めてる一方で、人生の積み重ねというものを大事にしている。何か急いでいるようで、余裕を感じるというか……ごめん、上手く言葉が見つからないや」
「先生……」
「でも分かったこともあるぜ?君はボクが一番好きなタイプだ」
自分のアイデンティティを捨てない人は他人の個性を尊重できる人だからね、とフルル先生は俺の数歩先に出て振り返りながら笑った。
「なんというか、シアン王女様やユノ君が君に付いていこうとしている理由が分かった気がするよ。ヒサメ王女はまだ分かんないけど……少なくとも君を嫌ってないことは見てて分かるし」
「……そうでしょうか?」
「自身のアイデンティティを理解して尊重してくれているんだ、ほんと……あの
なんでも自分の型にはめようとするの、ボクは一番嫌いなんだ!と自由人らしい理由でぷんすか怒ってるフルル先生に、思わず俺は噴き出してしまう。
「プッ……ははっ、確かにそうですね。俺も嫌いですよ」
「だろう!?初対面でガキだぜ?彼の治療は《キュア》以上使ってやらないって決めてるんだボク!」
「治療しようとしてるだけ優しいですよフルル先生は」
一応先生だからどんなに嫌な生徒だったとしても仕事はしないといけないんだよタイタン君……とがっくし肩を落として呟くフルル先生。大人って大変だなぁ。
「っと、お出ましだぜ。どれだけケガしてもボクが付いてるから、いっぱい練習してきな」
「っ、はい!」
近くの茂みからブルカウの角がにょきっと飛び出す、俺はシミターを抜いてフルル先生を庇うように前に立った。
一応俺より強いと言ってもフルル先生の職業は
――ブルウウゥッ!
「……っ、はぁ!」
後ろ足を二回蹴る……突進攻撃の予備動作!今回は後ろにフルル先生がいるから、右に流す!ブルカウの右の角に、強引にシミターを合わせるように横振りすると……滑らかにブルカウの突進角度が右にずれていった!
ブルカウ の 《突進》!▼
ミス! タイタン には 当たらなかった!▼
ぐっ……重い、けど。ロングソード以上にスムーズに受け流せる!あとは昨日練習したとおりに手首で右に流れたシミターの剣先を回して……袈裟斬りッ!
タイタン の 攻撃!▼
ブルカウ に 10 のダメージ!▼
――ブルウウウゥ!
「ダメージが通った!?」
浅い切り口だが、確かにブルカウの鮮血が飛んだ!シミターで斬ったブルカウの背中に赤い血の線が入っている、痛がりながらも俺が近付いてこないように角をブンブン振り回しているが俺はそれ以上に片手剣でダメージが入ったことに驚いて固まっていた。
「タイタン君、来るよっ!」
「……ハッ!」
フルル先生の鋭く注意されて固まっていた身体が動き出す、ブルカウは完全に怒りの視線を俺に向けて後ろ足で荒ただしく地面を蹴っていた。
そうだ、まだやりきれてないんだ……俺はシミターを構えなおす。新スタイル、必ずモノにしてやる!
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