第39話 『悪役』と反省

 ……何故俺は、フルル先生に膝枕されているんだろうか?


 訓練場という人がいっぱいいる中で膝枕されているという状況が死ぬほど恥ずかしい、唯一の救いはシアン姫とユノが戦っているからみんなの視線がこっちに来ていない事だけだ。


「あの……フルル先生?」

「ん?なんだい?」

「なぜ膝枕を?」


 俺の質問にフルル先生はいたずらっぽい笑みを浮かべる。


「おしおき」

「はぁ……?」

「おや、納得していないようだね」

「まぁ。自分で言うのもなんですが、お仕置きにはなっていないように思えます」

「ふふっ、後で分かるさ。それより……」


 ぺちっ、と軽く頭を叩かれる。痛くないけど、続けてぺちぺちしてくるもんだから怒っているのだけは分かった。


「君はもっと自分に自信を持った方が良い。弱さを認めるのは良いことだと思うけどさ、たまには立ち止まって自分がしてきた努力を認めてあげなよ」

「…………」

「努力なんてものは、結果が出なければ続かないものさ。悔しさを感じることも、足りないものを数えることも、強くなるためには必要なことなんだと思う」


 だけど、それだけを見て自分がやってきたことを無視してると心が病んでいくぜ、タイタン君。そう言ってフルル先生のぺちぺちしていた手は頭を撫でる手に変わった。ママ……


「そう、ですかね」

「心の病気は《ハイキュア》じゃ治らないんだ。自分がなんとかするしかない……ボクは先生だぜ?言うこと聞いとけよ、少年」

「……先生って、そういう時だけ大人っぽく見えますね」


 ボクは大人だよっ!とむくれるフルル先生。でも確かにそうだよな……それを言われてハッとしたから、フルル先生には感謝しかない。


 《パラライズ》込みでの戦闘だったら絶対に勝てた。これは俺の中で絶対的な自信だ……あまり自分を責めすぎると、この事すら忘れてしまうところだった。


 そうなれば思考が固まって、それこそ主人公ハルトに勝てなくなってしまう。もっと自分を認めて、そして驕らない……タイタンに近付いていたと思っていたけど、まだまだだったな。


「まったくもう、失礼しちゃうよ。……気持ちは晴れたかい?」

「えぇ、ありがとうございますフルル先生」

「君は理想を叶えるために無茶をしすぎる。もっと自分をいたわりたまえ」

「はい」


 先生からの説教は終わりだ、とフルル先生は言う。俺が起き上がろうと頭を持ち上る……と、何故か上からフルル先生に押さえつけられた。先生?


「ニヒヒ、言ったろ?これはおしおきだって」


 いたずらっぽく先生が笑った、フルル先生の手をのけて無理矢理起きれはするけど流石にそれは申し訳ない。というかお仕置きってさっきの事じゃ……


 俺が疑問に思っている中、フルル先生はそれよりシアン王女様とユノ君の試合を見ようじゃないかと言ってきた。えぇ、このままですか?さっきからフルル先生の匂いに包まれてるみたいで謎の安心感と気恥ずかしさが加速していってるんですけど。


「はぁ!」

「……ッシ!」


 シアン姫のレイピアが鋭くユノに向かって突き出される。それをユノが冷静に躱してナイフをお返しとばかりに投げた。


「ねぇタイタン君、どっちが勝つと思う?」

「え?」

「ちょっとした暇つぶしだよ」


 俺が悶々もんもんとしているとフルル先生がそう聞いてきたので、俺は素直な予想を述べる。


「ユノ……でしょうね。シアン姫の方が攻撃力は高いと思いますが、それをすばしっこいユノに当てる技術はまだありません」

「ほうほう、それで?」

「レイピアは突きの連続技によって攻めていく武器です。ユノもその次から次へと繰り出される攻撃の数に攻めあぐねていますが、耐えていると……」


 話している瞬間に状況が動き出す。ユノが投げたナイフを弾いたシアン姫にユノが突っ込んだ!

 シアン姫はレイピアの間合いを潰されると思って焦ったのか、慌てて《刺突一閃》の構えに入る。


「ああいう風に焦って剣技を使って連続攻撃が途切れたときがユノの攻め時です」

「ん。引っかかった」

「なっ……!」


 ユノが急に立ち止まり、横にずれる。《刺突一閃》を発動してしまったシアン姫は止まることが出来ず、潰されると思っていたレイピアの間合いを逆に自ら潰してしまう形になった。


 そしてユノが持っていたナイフでシアン姫の懐に潜り、前から首筋にナイフを当てる……ユノの勝ちだ。


 というか凄いなユノ。自主練で言ったこと全部一度でこなしてやがる、とんでもない吸収力だ。


 しかもそれだけじゃない、俺がやった『誘い』も早速使ってきた……マジで俺そのうち殺されるんじゃないか?


「ユノの勝ち」

「くっ……誘われましたね」

「ん。ナイフ相手にレイピアの間合い潰しちゃダメ」

精進しょうじんします……」


 うおおおおおおおおお!と湧くオーディエンス周りの生徒達。生徒達から見たら今の攻防はレベルの高いものに見えたのだろう、口々に『シアン姫凄かった!』とか『ユノちゃんってそんなに強かったの!?』とか言っている。


 その中で……


「何が起きたか速すぎて分からなかったぜ!すげー!」

「まじレベル高すぎ!俺たちには無理だな」


 といった声が聞こえてきて俺の目がにごる。あぁ、俺を貶してきたやつらってこの程度なのか……と俺が思っていると、フルル先生がまた俺の頭をペシリと叩いてきた。


「こら、そんな目をしないの。君は彼らとは違って、文字通りの死線をくぐり抜けてきたんだ。死への実感とか、強くならなければならない想いの強さとか……彼らとは違うんだよ、タイタン君」

「先生……」

「そう腐らないことだ、周りは気にするんじゃない。少なくとも二人、今の君の想いに追いつこうとしている子達がいるんだから。ね?」


 近付いてきたユノとシアン姫の方に目を向けつつ、優しい笑みを浮かべるフルル先生。そう、だよな……そうだ、周りは気にするな。俺は今、シアン姫とユノがいるんだから。


 って、先生?あの二人なんか怒ってません?ねぇ、先生!離して!

 シアン姫が笑ってるのに笑ってないんだよ!?ユノが無表情なのに怒りのオーラをビシバシ放ってるんだよ!?


「にっしっし、おしおきの時間だぜタイタン君」


 そうフルル先生は優しい笑みをいたずらっぽく変えて言った……

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