第5話 『悪役』と弟

 タイタン の 石ころぽいぽい!▼


 スライム に 2 のダメージ!▼


 スライム を 倒した!▼


 はぁ……はぁ……勝った、勝ったぞ俺。結局石ころ足りなくなって、拾っては投げ拾っては投げの繰り返しだった……


「まっじ疲れた、もう無理。つーかこれだけやっても経験値5しか入んねぇからレベルアップしないのマジで謎、バグ、はよ修正しろ運営」


 地面に寝転がって文句を垂らす俺。戦闘時間からしたら10分程度だと思うけど、10分間命のやりとりしてたと思うと肉体的なものの前に精神的な疲労がデカい。


 だが、苦労してスライムを倒したのはデカい。『学園カグラザカ』では全てのモンスターが魔道書をドロップするようになっており、スライムからはポイズンと呼ばれるデバフの魔法を覚えられる『ポイズンの魔道書』を落とすのだ!


 ポイズン、相手に確率で毒の状態異常を付与するデバフ魔法。これがあれば戦闘はかなり有利になる、だって毒付与して逃げ続ければいつかモンスターが倒せるからな。


「文句言うのもこれぐらいにして……落ちてっかなぁ、落ちてたら嬉しいんだけど」


 俺は立ち上がってスライムが消滅した場所を見ると……そこには一冊の緑の本が。魔道書だ!


「マジ!?俺一発でツモった!?めっちゃ運良いじゃん俺、1パーセント引き当てるとか豪運過ぎるぜ全くよぉ!」


 俺はウキウキしながらその本のタイトルを見る……そこに書かれていたのは、『キュアの魔道書』。


 つ、使えねぇ……!俺はがっくりと肩を落とす。そうだった、これも落とすんだったわスライムって……


 ちくしょー、すっかり忘れてたぜ。一応ゲーム中、魔道書に書かれているフレーバーテキストに『貴重な物で欲しがる人は少なくない』って書かれていたから持って帰るけどさ?


「ん?いや、ワンチャン現実だし俺キュア使えるんじゃね?」


 さすがにこんな分厚いのを敵がわんさか居る迷いの森の中で魔道書を読む気は無いので、持ってきたリュックサックに入れる。


 NPCでのタイタンはデバフの付与魔法ばかり覚えてたけど、もしかしたらそれをこの魔道書が解決してくれるんじゃないか?


「うおおおお!やる気出てきたぁ!スライムをあと1匹倒したらレベルアップしてSTRも上がるからガンガン倒してやるぜ!」


 ビバ!『学園カグラザカ』!本来はエロのシーンとかを楽しむエロゲのはずだが知るか!そんなの主人公に任せとけ、俺は強くなるのに忙しいんだよ!?


 俺はまたスライムが出るまで石ころを拾い集めるのだった……地味にこれが大変なんだよ?手頃な石っていうのが中々見つからなくてさぁ。





 夜。あの後頑張って粘りに粘って『迷いの森』で5俺は、ヘトヘトになりながら屋敷に帰ってきた。


 もう疲れすぎて門番からの『みすぼらしい、いやタイタンにはお似合いの姿か(笑)』という失笑や、使用人達の『服をあんなに泥だらけにして……誰が洗濯すると思ってるのよ』という嫌みも気にしない。


 それより石ころ投げすぎて肩とか腕が痛いんだ……魔道書でるまで帰れまテン!とかテンション上がって言ってた俺を殴ってやりたい、STR貧弱だからダメージ入んないけど!


 結局、目当ての『ポイズンの魔道書』を手に入れることは出来なかった。『キュアの魔道書』2冊目が出てきて心が折れたんだよ……


 明日も『迷いの森』には行こうとしてるけどさ、ロングソードでもダメージ入るようになったのは確認したし。少しは楽になる……はず!


「おやぁ?屋敷にみすぼらしい貧民が紛れ込んだと思ったらお兄様ではありませんかぁ!」

「っ……オルフか」


 俺が確かな成長を感じてやる気を出していると、後ろから冷や水をぶっかけられるように皮肉交じりのオルフの声が。


 いきなりテンションが下がる、くっそ……ゲームでも今までのタイタンの記憶からでもオルフには良い印象はない。


 傲慢で腹黒、主人公の前ではいい顔をする爽やかな青年だが、裏では……


「どうして黙ってるんですかぁ?あ!この前僕に負けてしまったから、無駄な努力でもしちゃったんですねぇ!?……バカで雑魚のくせに粋がってんじゃねぇよ」

「……チッ」


 こんな感じに陰湿なやつなんだよ。俺は思わず嫌悪感をむき出しにしてしまう。その態度がお気に召したのかさらにオルフはご機嫌に俺を煽りはじめた。


「弱い雑魚が何をしても弱いままなんだよ!この世は才能が全て、てめぇみたいなゴミが!努力しても!何もかわらねぇんだよ!」

「…………」


 あーあー、レベル1で粋がってるオルフ君可愛く……ねぇな。STR24もある野郎にかわいげがあるとでも?俺は気にせず帰ろうとすると、身体が無意識にオルフの方を向いていた。あれ?


「貴様は何が分かる……ッ!」

「は?」

「貴様には!何が分かると言ったのだ!」


 それは、魂の叫びだった。俺じゃない、タイタンが抱えていた気持ち……オルフの『努力をしても何も変わらない』という言葉に反応して無意識に口が動く。


「努力しても弟に才能で負ける兄の気持ちが!スライム一匹に死にそうになる俺の気持ちが!貴様に分かるか!?」

「は……はっ!負け犬の遠吠えですか!?結局は自分が弱い事を棚に上げて、私に怒鳴り散らすだけ!弱い!雑魚!ゴミ!」


 いきなり勢いよく反論した俺にビビりつつも煽りを止めないオルフ。まあ、反論と言ってもただ自分の無力さをわめき散らしてるだけだけどね……


 俺はオルフをその場に残し自室に帰る。タイタン君、君の想いは俺には伝わってるよ!悪役なんて関係ない、ちゃんと最強にしてあげるからね……ッ!

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