第一章 20億と異世界冒険 その3
既に泣きべそ状態だが現れた巨大な人魚ニーナは、話すために岸に顔を近付ける。
「なんですか、ニーナに何か用事でも?」
ニーナは長く美しい金髪の美女で、年の頃は二十歳ぐらい、瞳はブルー、肌は色白、そして見事なプロポーション。まあ下半身は魚類だけどな。胸には緑色系のボーダーの水着を付けている。下半身の鱗はグリーン系で美しい輝きを放つ。
なにやら優希とは仲が良く水着はプレゼントらしい。って優希さん、そんなドデカサイズどこで作ったんだよ。異世界で手に入れたのかもしれないけど、発注された職人は驚いただろうな。
「ぶははははっ、これだけ近付くと、やっぱ顔デケーな、迫力あるぜ。渋谷のモヤイ像かよ」
マルコシアスが笑いながら言うと、ニーナはムカっとしてマルコシアスをデコピンで叩き飛ばした。そりゃ女の子に顔デカいとか言ったらブチ切れますわ。
「んだゴラっ‼ やってくれたなコノヤロー、魚の分際で俺様に喧嘩売るなんて百万世紀早いんだよ。刺身にして食ってやる‼」
怒れるマルコシアスはニーナへと一直線に飛び掛かる。だが俺がタイミングよく頭を叩いたら、「ぐえっ⁉」と声を出し地面に落ちた。
「はしゃぐんじゃねぇよ。話が進まないだろ。クソ犬っころが」
見下した目でサマエルが言う。
「どいつもこいつもやってくれるな。てかこんな魚もどき食っていいだろ。俺様がわざわざ食えるかどうか確かめてやるって言ってんだぜ」
立ち上がったマルコシアスは牙を剥き出した鬼の形相で、今にも飛び掛かりそうだ。
「誰も頼んでないし、人魚は愛でるものやろ」
呆れ口調で返すが、こいつほんまなんでも食おうとするから怖いわ。
「バカヤロー‼ あの魚の下半身が白身か赤身か気にならねぇのかよ」
「ならんわ」
「どんだけ好奇心ねぇんだよ、どこに置き忘れてきた。絶対食べれるっての、チャレンジしようぜ」
マルコシアスが力説するとニーナが大声で「食べれませんから‼」と必死にツッコミを入れる。
「分かってるっての、誰が食べるかっ。それよりニーナ、今から異世界に行きたいんだけど」
おバカなやり取りを終了させ本題に入る。
「ニーナの住んでた世界だよね。いいよ、じゃあ送ってあげる。でもね、ニーナは誰かを送るだけしかできないよ。帰りはどうするの?」
「それは問題ない。移動魔法を使えるから。それに次からはニーナに頼まなくても、向こうの世界に魔法陣をセットしておけば、また好きな時に行ける」
女神の力レベルの特殊な移動魔法を使える魔法書を持っていて、自分の部屋に魔法陣をセットしてあるから、異世界からでも好きなタイミングで戻ってこれる。ただレアな魔法書でも並行宇宙の移動は簡単じゃない。今の俺には無理。優希ですら難しいはずだ。
「すごーい、流石天才魔導師だね」
「無職だけどな」✖2
「やかましいわっ」
「でもいいなぁ、自由に移動できて。ニーナは元の世界に帰れないから……」
なにやら訳ありなんだろうが、っていうかここに居る奴らはみんな訳ありか。てか聞きませんよ、帰れない理由とか。絶対に話が長くなるのは分かってるし。とか考えてたらニーナが別の事を話しだしたので、結局ここでニーナの訳ありを知ることはなかった。
「あっ⁉ そういえば、ユウキちゃんが集めてる魔法書だけど、向こうの世界にもあるかもしれないよ」
「どういうこと?」
「向こうには、こっちの世界の魔力ある人間が女神によって大勢召喚されてて、勇者とか冒険者やってるんだよ。理由が分からないけど世界に歪みができて、魔王がいっぱい現れてるみたい」
「うほっ、魔王のバーゲンセールかよ、楽しそうで最高じゃねぇか。全員俺様がぶっ飛ばしてやんよ」
テンションの上がったマルコシアスは尻尾をブンブンと振って指をポキポキ鳴らしているが、面倒だから魔王なんかと戦わないからな。スルーが得策だ。
「おいちょっと待て。勇者と冒険者の違いってなんだ」
サマエルが話に割って入る。
「冒険者は基本的に自由人で、魔王や魔人が造ったモンスターを退治しながら、ダンジョンやタワーの攻略をしたり、アイテムを手に入れて商売したりしてるの。勇者は魔王討伐を目指す人たちだよ」
「なんだ、そんな程度の違いか。テンプレな答えを返しやがって」
サマエルはしかめ面で吐き捨てるように言った。
「なるほどね。じゃあ俺は冒険者よりだな」
「いや違う、お前は
マルコシアスが絶妙なタイミングで言い放つ。
「ぶははははっ、勇者、冒険者、無職者、なんだかランクが上がった感じでいいんじゃないか。良かったな、哲斗」
サマエルは大笑いしてから言った。
「くだらねぇこと言ってんじゃねぇよ、って者を付けるな者を」
こいつらどんだけ無職ネタ好きやねん、マジうぜぇわ。
「あの……話を進めていいですか」
「あぁ、続き頼むわ」
「でね、その召喚された人たちが、魔法書を持っていってる可能性があるの。それと、禁書とされる強力な魔法書は、色々な世界に封印されたって話もあるよ」
禁書ねぇ……グリモワールとかレメゲトンならいいけど、本物でも役に立たない魔法書も多いからな。
「情報サンキュー、向こうで探してみるよ」
と言ったけど、普通に嘘です。他の魔法書なんて俺には関係ない。関わり合いたくねぇんだわ。いやマジで。優希の命令以外では動く気なし。だって魔法書が増えればそれだけ厄介事も増えるからな。
「で、悪いけど、さっそく頼めるかな」
「うん、じゃあ始めるよ」
ニーナは少し岸から離れる。
ニーナは水上に上半身を出し両手を広げる。すると全身がオーラを纏ったように輝き、長い金色の髪はフワッと浮かび上がった。更に瞳には魔法陣が現れ魔力が飛躍的に大きくなり、広げた両の手の間の水面に、移動時に使われる魔法陣が作られ光り輝く。
「さあ、ここに飛び込んで」
「よっしゃー、行くぜ‼」
ニーナが言った後、なんの躊躇いもなく湖に作られた魔法陣にジャンプした。それに悪魔二人も続いた。
着地と同時に魔法陣に吸い込まれた俺たちは、違う世界に行くときに通る変てこな異空間の中にいた。
幾つもの空間の歪みと、白と黒の四角形が交互に羅列された格子模様の不思議な異空間は、自由に動く事ができず、無重力空間に放り出されたようだ。
ニーナが魔法陣を作り出した時、出口となる魔法陣があっちの世界のとある湖にも現れていた。
その魔法陣の中から俺は、エレベーターで上がるように頭の先からゆっくりと姿を現す。
いとも簡単に異世界への移動が完了したが、俺はその場に片膝をついた。
「ふぅー、一瞬だけど酔ったわ。歪み酷、異空間の完成度低すぎやろ」
「おーい、哲斗、早くこっち来ないと魔法陣消えたら落ちるぞ。そこも湖の上だしな」
マルコシアスが言う。既に悪魔二人は岸にいた。
立ち上がるとその場より助走もせず岸へとジャンプする。岸までは八メートルはあり、人間では軽く跳んだだけで辿り着く距離ではない。しかし魔力覚醒により身体能力が超人レベルなので楽々地面に着地できた。
辺りを見渡すと、そこは様々な植物で覆われた広大なジャングルだった。空は晴れていて気温も高く、Tシャツ一枚で問題ない。
「さてと……時間的には正午過ぎって感じか。まずはこの世界の情報集めだな。地図が欲しいよな」
そう言うとマルコシアスが返す。
「なに言ってんだ。手当たりしだいにモンスター狩りだろ。ガンガンいこうぜ以外に何があんだよ。ザコ相手でも必殺技と最強呪文でMP無駄遣いが楽しいんだろが」
「まあ稼ぐ額が二十億だし、ガンガンいこうぜは間違ってはないけど、極力この世界を荒らしたくないんだよ。俺たちは女神に召喚された訳じゃないからな。こっちで冒険してる奴らがいるわけだし、人があまり来ない狩場を探そう」
既に歩き出していたが、方向など決めず適当である。
「確かに俺たちはこの世界にとってイレギュラーな存在だ。そもそも泥棒しにきたようなものだからな」
横を飛んでいるサマエルが言った。
「泥棒とか人聞きの悪い言い方やめてくれるかな。悲しくなるから……」
「うへへへへっ、無職で泥棒とかクソだなクソ。圧倒的底辺」
マルコシアスが大笑いしながら言うと、サマエルが「お前はクソ以下だけどな」と返した。
「んだらっ‼ 上等だ、決着付けてやんよクソパンダ‼」
髪を逆立て怒るマルコシアスだが、俺とサマエルは無視して進んでいく。
「ってコラーーーーっ‼ 放置プレイすんじゃねぇーーっ‼」
おバカの相手してたら日が暮れるので、その叫びも無視して先を急ぐ。
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