第19話 破邪の指輪

『特別』

・妖刀村正 価格1000000pt……恐ろしい攻撃力が備わった剣。

・無限収納のつづら 価格1000000pt……アイテムを保管するためのつづら。中は時間が経過しない。生き物は入ることができない。

・竜神の鱗 価格1000000pt……圧倒的な物理・魔法防御力を誇る盾。

・破邪の指輪 価格1000000pt……魔を払うことができる指輪。不死者に対して絶大な威力を発揮する。強力な結界を張ることができる。

・命の勾玉 価格1000000pt……所持しているだけで体力を回復し続ける。一度だけ死者を蘇らせることができる。


 キキョウから聞き出した初回特典の効果は以上になる。


「なるほど、これが初回特典というやつですね。どれも心を躍らせる素晴らしい道具です」


 耳をピクピク動かしながら、キキョウはモノリスを見ている。


「どうするんだ? やはり『無限収納のつづら』にするのか?」


 先程、キキョウは俺が持つ『無限収納の腕輪』にいたく興味を持っていた。

 便利さについて、体験済みなので当然選ぶのかと思ったのだが……。


「いえ、ライアスがいるので、それは取得しなくても良いかと思うのですが?」


 彼女は首を傾げると俺を見てきた。


「それでいいのか?」


 無限にアイテムが入るということは大きなアドバンテージだ。俺はこれを選んだお蔭で食糧を腐らせることなく保存することができ、迷宮から戦利品を労せず運ぶことができる。


「いいも悪いも、同じ用途の道具は二ついらないでしょう?」


 彼女は、さも当然とばかりに首を横に傾けると俺を見た。


「もしかして、ライアスはこの後、私とは一緒に行動したくないのですか?」


 ふと思い至ったようにキキョウは話し掛けてきた。その表情は不安へと染まっている。


「いや、キキョウが構わないなら、一緒に迷宮に潜るつもりだけど」


 戦力が増えて困るということはない。迷宮の構造もそうだが、これから先、奥に進めば俺が知らないモンスターも出てくるだろう。


 中には一人で倒せない強敵や相性の悪いモンスターも存在するかもしれない。一緒に行動することでお互いにリスクを減らせるので、共闘したいと思っていた。


「良かった、それでは私は他の道具を選ぶとしますね」


 彼女は俺が裏切るとはみじんも考えていないのか、二人で動く前提で思考している。


「何にするつもりなんだ?」


 俺は改めてキキョウに聞いてみる。


「『破邪の指輪』にしようと考えています」


「その理由は?」


「私の戦闘スタイルでは盾が使えないので『竜神の鱗』はいりません。『命の勾玉』で一度の死を回避できるようですが、現状でライアスを殺すような存在に当たったら、たとえ復活させてもまた死ぬだけ。逆に一度行き返ることが出来ると、気が緩む可能性がありますので選ぶのを止めました」


 スラスラと理由を告げる。どちらも納得できるものなので頷いておく。


「妖刀村正は? 武器なら相当の威力があると思うんだが?」


「確かに、その刀は祖国の伝説に登場する名刀ではありますが、私が今持っている虎鉄もそこそこ名が通った刀ですから。武器に関しては問題ありません。それよりは迷宮の奥に休憩場所がない可能性を考えて、結界を張ることができる指輪が良いと思ったのです」


 なるほど、理由を口にしなかったが、指輪があれば身を守ることができる。例えば俺が裏切って攻撃したとしても、結界を張れば生き残れるだろう。


 考えてみれば理にかなった選択だ。


「わかった、それならキキョウに任せる」


 俺がそう答えると、彼女は初回特典を選び終えた。




「スースースー」


 隣では毛布にくるまったキキョウが寝息を立てている。


 あれから、今日は日が落ちてしまったということもあり寝ることにしたのだが……。


「まさか、ここまで抜けてるとはな……」


 小屋の外に目を凝らすと、透明な何かが小屋を覆っているのがわかる。


 彼女が「野生動物に襲われたくないのと実験です」といって結界を張り巡らせ、効果範囲を確認するため塗料を塗りつけたからだ。


 当初、キキョウが自分の身を守るために指輪を欲したと読んだ俺だが、彼女はそこまで考えていた訳ではなかったらしい。


 その証拠に、俺も結界の中に入れているからだ。


「うーん、むにゃむにゃ」


 寝がえりをうつと毛布がずれ、着物がはだけ、胸元がひらける。


「ったく、無警戒すぎるだろ……」


 知り合って一日も経たないのに無防備すぎる。これでは悪い相手にあっさりと騙されてしまうのではないか?


 俺は彼女に近付くと毛布を掛け直す。寝ているキキョウはとても美しい少女なので肌を晒されていると落ち着かない。


「ちょっと前まで皆と探索者をやっていたのに、伝説の獣人と横に並んで寝てるんだからおかしなもんだ」


 仲間の顔が浮かぶ。皆は今頃どうしているのだろうか?


「明日からは大変かもしれないからな、今日のところは休むか……」


 俺はそう呟くと、キキョウに背中を向けて寝るのだった。



          ★


 夜がふけ、虫の鳴き声が響く中、暗闇で何かが動く。金色の瞳をしたキキョウは冷めた様子で、目の前で寝るライアスを見下ろしていた。


「まったく、どちらがお人良しなのでしょうかね?」


 自分が寝ている時にライアスがどのような動きをするか知りたかったキキョウは、狸寝入りをしていた。


 もし、夜這いをしようものなら斬るつもりだったのだが、ライアスは毛布を掛け直す以上、無理に彼女に触れようとしてこなかった。


 キキョウは手を伸ばすと、ライアスの髪に触れる。


「ううーん?」


 とてもではないが、自分を圧倒できるような実力者には見えない。それどころか隙だらけなので、寝首をかくこともできるだろう。


「本当に不思議な人ですね、ライアスは。出会ったばかりの私に親切にしてくださって、石碑の使い方まで教えてくれるなんて」


 祖国では、他人をみたら盗賊と思えという格言があるくらいに、人は嘘をつく。

 特に獣人ともなれば、好事家が愛玩用に欲しがるので、宿でさえおちおち眠ることはできなかった。


 だと言うのに、ライアスはそのような素振りを見せることがなく、瞳に下種な色が宿ることもない。


「この遠い異国であなたに出会えたのが、最大の幸福なのかもしれません」


 ひとしきり髪を撫でると、キキョウはライアスの背に身体を寄せる。


「明日からは大変ですが、元の場所にもどるまでよろしくおねがいしますね」


          ★

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