8 どういうこと?

「似顔絵を描かせてくれませんか?」


 絵の具まみれの手も一緒に洗って、片付けも終えて、いざ別れようとした時――立花はそう言ってきた。


 ん? 似顔絵?


「大丈夫です。ちゃんと除菌シートで拭きますから」


 除菌シート? 拭う?


「てことは、いつものデッサンみたいに僕の顔を……えっと、触るってこと?」

「そうですよ」


 そうですよ、って。


「……やっぱりイヤですか?」

「イヤと言うか、何と言うか。だって、ダメじゃない?」

「あ、もちろんいますぐじゃないですよ。まだ絵の具も洗いきれてないかもなので」

「そういう意味じゃなくてさ。良いの? ほんとに?」

「はい」


 道端の石ころを蹴飛ばすみたいに、そんなあっけらかんと頷かれてもさ。まぁ石ころみたいな存在ってことかもしれないけれど。


「ちょっと考えさせてください」

「……わかりました」残念混じりの声で立花はそう言った「今度会うときまでに考えておいてくださいね」


 じゃあ帰ります。声も表情もなんだか暗い。

 え? そんなにがっかりさせちゃった?

 

「ちょっと待って! 貰ってほしいものがあるんだった」


 僕は例のガラス玉を立花に渡した。彼女は素直に受け取ってくれた。


 夢ハウスでゴーレムから受け取った、小さくてまん丸のガラスの玉。ゴーレム曰く、なんでもがあるとのこと。立花と絵を描いくことに夢中で忘れかけてた。


「ビー玉?」

「近いかも」

「どうして私に?」

「えっと、今日のお礼に」


――秘密ゴールに近づくかもしれんゼ


 がっかりしたまま帰ってほしくない。せっかくすごい絵を描けたんだから。本心だけれど、この気持ちにあやかって渡したことも本当です。


「よく見る夢があるんだ。夢ハウスっていう」

「夢ハウス?」

「うん。愛想ない一軒家と小さな社が舞台なんだけれど。その夢ハウスにはゴーレムって奴がいてさ。口が悪くてタヌキみたいなヘンテコリンな奴。そいつにそのガラス玉を貰ったんだ。持ってると良いことがあるみたい。長い目で見たらだけど」

「へえー……なんだか楽しそうですね」


 僕心の底からは信じてない。良い事があるとか、秘密が明らかになるとか。立花と何か関係があることも。でも、このガラス玉を渡したせいで、立花に怖くて辛い体験をさせてしまったんだ。

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