第21話 人類との合流 その1
まるで窒息しそうなほど重い空気が『ナバマーン』を包んでいた。一連の泥棒4人組の離脱は言わずもがな、宇宙ステーション内に密航者がいる可能性まで浮上し皆が皆、笑顔を見せなくなった。廊下を歩く際はなるべく複数で、それぞれの個室以外では1人になってはいけない。…というルールをキャプテンらが作ったわけではないのだが、ほぼ全員がそうした行動を自然に取っていた。
「あ、あれって…?あれはもしかして!?」
栽培室から驚嘆の声が聞こえてきた。丸い窓の外をマレスが覗いている。
「み、みんな!!宇宙ステーションだ!!我々のとは別のだぜ!!」
近くにいた者はすぐに栽培室へ集合した。
「本当だ、ありゃ宇宙ステーションだ、自由型の」
「もしかしてメッセージを送ったのは、あれかしら?」
「なんとかドール号だっけ。意外と小さいんだな…」
キオ、サコヤ、ミンタイウが口々にそう述べた。
一方オフィスでは、ディコとハイクロがナオコ・カン、ガーディアン、エイドリアンらに囲まれていた。
「…おそらく、おそらくですがこの『サーリント・ドール』が該当する宇宙ステーションではないだろうか」
ハイクロが言った。船外に漂う宇宙ステーションの映像と、ハイクロが示す宇宙ステーションの画像をクルー達は見比べる。
「おおよそ同じだな。だが『ブラフマン』が作ったやつじゃない。そうさな、ドイツかスウェーデン製だろう」
エイドリアンが腕組みしながらそう答えた。
「正解だ、エイドリアン。どうやらドイツ製らしいな、これは。結構前に作られたタイプで、最初から自由型宇宙ステーションだったのではないようだ」
ハイクロが答え合わせをする。ナオコ・カンは映像を凝視していた。そしてすぐに次なる行動に出た。
「『サーリント・ドール』と連絡が取れるか試そう。ディコ、マイクを」
ナオコ・カンはマイクを受け取り、話し始めた。
『サーリント・ドールの生存者の方々へ。我々は『ナバマーン』のクルーだ。君たちと同じく自由形宇宙ステーションで宇宙空間を行き来している集団だ。君たちが既に発信した電波を我らは傍受し、人類を探していた。もし燃料が足りていない場合、イトカワへ本船が牽引して案内する事もできる。食料不足、怪我人などの対応も可能だ。どうか応答してくれ。』
ナオコ・カンは手汗でマイクがベタベタになったのを感じた。それなりに、誠意が伝わるような言葉遣いをしたつもりだ。
「なかなかの演説だったじゃないか、キャプテン」
エイドリアンが言った。
「いや、まあ、私はキャプテンとして『ナバマーン』を代表する立場にあるし。これくらいは朝飯前だ。…それより、もしサーリント・ドールが応答しなかった場合に備えて、宇宙服を用意してくれ」
「宇宙服を?それは、乗り込むという事ですか?」
「もしかすると、向こうは船体が損傷して安全な環境が保たれていないかもしれない。生存者を探すには、まず私らが万全の装備を用意していなければならないんだ。さあ、大仕事だぞ。他の乗組員にも伝えてくれ」
こうして、『ナバマーン』のクルーは『サーリント・ドール』への接触を試みることになった。『サーリント・ドール』に生存者がおり、宇宙ステーションにも損傷がなく安全に内部へ入れる場合は互いの船体のエアロックを連結して乗り込む計画になり、もし生存者がいない場合は、生身では危険が想定されるため宇宙服を着用し侵入することが決まった。
皆、心が沸き立っていた。人に会える。新しい人間を見れる。興奮してたまらない。邂逅とはこれほどまでにわくわくするものだったのだ。
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