ギガンティックお嬢様 ~このままだと最終兵器に乗る悪役令嬢は、超絶カワイイ後輩系主人公の為に絶望ルートを回避し続けます~
第14話 高高度滞空戦術3Dプリンタープラットフォーム【濫觴(らんしょう)】③
第14話 高高度滞空戦術3Dプリンタープラットフォーム【濫觴(らんしょう)】③
お嬢様といっても乙女である。
衆目の前ともなれば、お嬢様同士のギスギスした戦いをおくびにも出さない。
何故なら彼女たちは基本的に、戦いに優雅さを求める者である。
当然各勢力の意思や、お嬢様個人個人のキャラクター性からその限りではないのだが。
こと、波動砲協会のように「混迷の世の人々を導く」というお題目がある勢力についてはとりわけこの衆目というものを気にする。
――そう、ゲーム公式Twitterに書いてあった。
『いやっほぉぉぉう! アキバ所属の【ミサイルマギカ】到着! うお壮観だ。みてみて視聴者のみんな、お嬢様がこんなに集まるってことある?』
甲高い声が、おそらく集まったすべてのお嬢様に届いたはずだ。
しばらくするとアリアのメインディスプレイの端っこに、彼女の配信が表示される。
友軍設定してあるお嬢様たちには全員共有されているはずだ。
そしてサンディが全員に表示ウィンドウの共有化をかけてきた。全員配信動画に誘うつもりらしい。
お嬢様たちのウィンドウが全て一時的に切れると、再度映った時には皆一斉に顔が外向けの顔になっていた。
アリア機に銃を突き付けていた【ホーリービート】のお嬢様はぐぬぬ、とまだ歯ぎしり。
そのうち
再び表示された時にはいかにも優しそうなシスターの表情に変わっていた。
女の子ってこういうところあるよね。
自分はそういうの苦手だったから、引きこもってたところはあるのだけれども。
なんにせよ、助かったと胸をなでおろすアリア。
高い金を払っただけあると思うとともに、サンディの、いやアキバ勢力の厄介さというのを理解した。
配信をしながら戦うということは、ダイレクトに視聴者に戦況が伝わるということ。
それは時として民意がバックアップに回るという事。
アキバ勢全員が全員こんなことをしているわけではないだろうが、少なからず動画とSNSなどのネットサービスがつながっていると考えた方がいいだろう。
『あっれー? アリアお姉さま、何ガン飛ばされてんの? なんか喧嘩してるの?』
依頼したとはいえわざとらしい演技。
既に銃を向ける腕をおろしていた【ホーリービート】の周りをクルクルと回っていた。
「いいえ、この方とがんばりましょうねと、そう励まし合っていたのですわ」
『ええその通り。我々は救世の力ですから。今は
ウィンドウに映るシスターのこめかみがピクピクしている。
目がまだちょっと怖いが、なんとか窮地を脱したようだ。
モニカ機も渋々と銃をおろしていたが、その顔は未だ狂犬のよう。
真っ暗な目で、【ホーリービート】はおろか教会勢のお嬢様たちに睨みを利かせていた。
『……アリアお姉さま。彼女は?』
モニカが低い声で聴いてきた。
相変わらず地獄の底から響くような、そんな声だ。
「さっき一緒に踊りましたの。貴方がお目当てのようでしたけれど。先にわたくしが踊りたくなったのですわ」
『私の、代わりに? もしかしてあの時の依頼ですか?』
「そう。互いに健闘し合って、今この通り。彼女、わたくしのファンになったそうですわ」
『ファン!? ばっ……そ、そうなんだよねー! アリアお姉さまの強さったら! こりゃ勝てないって思ってさー教えを請わせてもらおうかってねー』
プライドを飲み込んで、ちゃんと会話を合わせてくれている。
なんだかんだいってプロなのだなと感心した。
が、テキスト通信で「クソが!」と送られてきた。
『お姉さまのお弟子様、ということでしょうか。私の知らない間に……』
「何をおっしゃるの? 貴方が一番よモニカ」
『私が、一番』
「そうよモニカ。だから、そんなお顔はおよしなさい」
『私が一番。えへへ』
モニカは途端にぱぁ~っと表情が明るくなる。
だらしなく顔が崩れている。
さっきとはえらい違いだ。
この変わりように、一同ドン引きである。
『……そ、そうだアリアお姉さま。モニカ嬢たちと一緒に、あのエイの化け物とカチ合うのでしょう? お手伝いしますよ』
「ええ、是非とも」
『なんたってアリアお姉さまはハイランカーですから。
そういうとピククク、と各お嬢様が反応。
大部分が「野郎、やりやがったな!」とそう言わんばかりだった。
実のところ、ここに集うお嬢様はみんなその地位を狙っていた。
この窮地の指揮を執るということ。
それはお嬢様の品が上がるチャンスそのもの。
それを乗り越えて生き残ったならば、各勢力の評価も変わるだろう。
誰もが最初集った時にアリアに「チョーシこいてんじゃねーぞ」とけん制したのは、そのためである。
多分あのままだったら誰が頭かと決める前に戦闘が始まり、その後はアリアの中の人がプレイした通りの展開となる。
しかしサンディの介入で潮目が変わった。
誰かが否定しようにも今は衆目が入っている。
それどころかサンディの配信は早くもアリアコールが巻き起こっていた。
これをひっくり返す事はかなり難しいだろう。
その代わりアリアには今、かなりの嫉妬が向けられている。
この結果はサンディの予想していたもの。
ようはアリアに対する意趣返しだ。
アリアは思わず「クソが!」と真似して言いそうになった。
(けど、これでまとまりが出るはず。あとでクソお手紙がいっぱい届くかもだけど、これがベストな展開だ。多分)
イレギュラーに次ぐイレギュラーで頭が痛くなりそうだ。
だが、光が見えた。
アリアは腹をくくる。
一世一代の大芝居を打つしかない。
ホントはこんなの嫌だけど。
生き残るにはそうするしかない。
「あら、そのつもりは無かったのでしたけれども。それでよろしいかしら皆様?」
当然、是、という言葉が返ってくる。
モニカに至っては『流石お姉さま』と恍惚の表情である。
「ならば皆さまこの窮地、わたくしアリア=B=三千世界ケ原が取り仕切らせていただきますわね」
『……なんだかちょっと目を離しているうちにすごいことになってるねアリア。どうしてこうなったんだ?』
サムがマグカップを片手にポカンとしている。
こっちが聞きたいと返したかったが、奥の【
考えている暇がない。
早く動かなければ。
こんな大部隊を指揮したことなど無い。
ただ一応、団体戦もゲームでやったことはある。
結局突き詰めれば戦いなど前衛と援護しか無いのだから問題はない。
知らんけど!
「サンディ! ミサイル主軸や遠距離系を率いて撃ちまくりなさい! なるべく船団から遠ざかるように!」
『かしこま!』
「わたくしと同じ近距離系のお持ちの方は高度を取って上から強襲! マシンガン系をお持ちの方はモニカとアリシアに続いて弾幕を張りつつ遠距離部隊を掩護!」
ものすごく単純な指示だった。
戦術的にどうなのかわからないが、お嬢様にはこれくらいでいい。
誰が頭になるか、その取り合いならいざしらず。
今は、彼女たちは明確に仕事を与えられた形だ。
あとは放っておいてもそれぞれが臨機応変に動く。
猫の目以上にせわしなく変わる戦況を踊るお嬢様だからこそできる仕事だ。
『そんじゃ早速。アタシも大盤振る舞いだ!』
一番に飛んでいった【ミサイルマギカ】の武器腕を迫りくる子エイたちに向ける。
コンテナミサイルが投射機に装填されると、ヒュポン! という音と共に飛んでいく。
ポップコーンが弾けるようにしてマイクロミサイルが展開。
無数の子エイに対して、ミサイルたちが飛び、空がはじけ飛ぶ。
他の遠距離系のお嬢様たちも続き、薙ぎ払うようなレーザービームや【
誘爆して着弾以上の子エイが粉々になり、吹き飛んでいく。
しかし、子エイたちの波はそれだけでは止まらない。
何故なら先ほど揉めている間に、【
やがて数で押すだけだとやられると思ったのだろうか。
母体である【
すると子エイの群れは陣形を作り始め、いくつかの部隊に分かれ始めた。
大雑把に言えば、遠距離のお嬢様たちをかく乱するものたちと、そこから大きく分かれて背後を突こうとするものたちだ。
『お姉さまのおおせのままに』
黒いお嬢様【カラドリウス】が空を舞い、その背後から銀の騎士のような【ジャンヌ・ダルク】が付いていく。
さらにその背後には、ガトリング砲をはじめとした中近距離武装のGLが続く。
『アリシア!』
『任せて!』
別動隊の子エイに向かって、【ジャンヌ・ダルク】がグレネードランチャーを投射。
エアバースト弾が子エイの別動隊の、その先頭で炸裂。
連鎖的に爆裂。
生き残った子エイが別の部隊に合流しようとするところに、無数の弾丸。
【カラドリウス】のガトリング砲や、その他中近距離武器を搭載するお嬢様たちが「鬼さんこちら」とばかりに子エイをかく乱、そして撃ち落としていく。
空が震える。
子エイが殺到するが、お嬢様がその波を押し返す。
拮抗する力と力。
夜だったならば花火大会のようにも見えただろう。
『すごいな。アリア。君、指揮の才能もあったの?』
「やっつけですわ! それよりサム、わたくしについてきたのは!?」
『二機だね。一騎はアキバ所属の【
チラリと背後についてくるGLを見るアリア。
女鎧武者ともいえる、見た目がピーキーなアキバ製の機体。
深紅のカラーリングが返り血を思わせて少し不気味だ。
シャルロッタ機は両手に対艦チェーンソーを握っていた。
チェーンソーとはいうがチェーンにあたる部分が焔色に輝いている。
おそらくはレーザーを纏った刃。
直撃したらGLなどひとたまりもないだろう。
映っているお嬢様はなんか怖い。
和風な雰囲気はサンディの姉と同じだ。
黒髪のショートボブだが横髪が長く下がっている。
目立つのは左頬に大きな十字傷。
どうしてこの近未来的な世界で刀傷がつくのか。これがわからない。
『もう一人は――ああ、気を付けてくれ。先ほど君に銃を向けていた【ホーリービート】だ』
反対を見ると、殺意がギラついているGL。
腕には先ほど突き付けられていたパルスライフルを握っている。
『シスター・ロレッタは最近アリーナの順位を上げて五十位以内に入っている。君への復讐心からだろうね』
「わたくし、そこまで酷い事しましたかしら?」
『覚えてないのかい。命を奪う事はしてないけど、アレは僕もどうかと思うよ』
一体全体、何をやらかしたんだ前の人格。
アリアはここで、ふと疑問が湧いてくる。
なんだか、自分の想像していたアリア像と少し齟齬があるような気がする、と。
確かにゲームのアリアは苛烈でとんでもない性格だったが、
だが最初に会った時のモニカや、アリシアほか学園内の他のお嬢様の反応。
そして、仇と言わんばかりのシスター・ロレッタの反応。
さらには、サムの度が過ぎた「まあ、アリアだから仕方ない」という態度。
そして何より、モニカの変貌ぶり。
これはアリアがゲーム後半で見せる、その
何度も思うが、本当にここは自分の知っているゲームの世界なのだろうか。
イレギュラーが多すぎる。
この世界、
『こちらアキバ所属の【
思考に割り込むように、シャルロッタ=宮本の無線が入った。
『貴殿と戦場で出会う事を切望していたが、こんな形で共闘するとは。運命とはわからぬものだ』
「え、ええ。そうですわね」
『この高度から一気に強襲をかける。貴方の十八番の
素直に賛辞として受け取っていいものか。
これは単に、自分の得意な位置につきたかっただけなのだが。
とりあえず不敵な笑みを返しておく。
すると『食えない人だ』と好印象を返してくる。
むう。
この人はノーマークだったがなかなかに良いキャラをしているではないか。
あとでちょっとサムに詳細を問い合わせてもらおう。
『……こちら【ホーリービート】。もうすぐ眼下に攻撃目標が見えてくる。貴方に合わせたくはないけれど。タイミングはちゃんと示して』
とげとげした無線が飛んできた。
シスター・ロレッタの低い声。
相当、恨んでいるのだろうか。
これもあとでサムに戦闘映像を見せてもらおう。
そうこうしているうちに、高度を取っていたお嬢様たちの眼下にはあの巨大なマンタが見えてきた。
相も変わらず口のような場所から無人機を次々と発信させている。
『アリア。君の作戦が功を奏している。サンディ嬢のミサイル攻撃が特にあの子エイの軍団に効いているね。護衛の子エイを攻撃に回さなければいけないほどに、だ』
それは嬉しい誤算だった。
これもまたイレギュラーといえばイレギュラーである。
願わくば、これ以上何も起きませんように。
私の知っている範囲で、私のできる範囲ですべてが納まりますように。
思わず縋るように、一瞬目を閉じて顔を俯かせる。
『なんだ
「笑いたければそうなさるといいですわ」
『何』
「これでも生き残りに必死でしてよ。わたくしは、神に見放されていますから」
つい本音が出た。
神に見放された。
そうとしか言えないだろう。
こんなクソッタレな世界で、戦闘ロボットに乗らなければならないとか。
もし神様に見初められたなら、もう少しチートをモリモリしてRPGの世界の片隅でカワイイエルフっ子やエルフ男子とキャッキャうふふできたはず。
なのに、こんな世界。
しかも逃げられない。
抗う手段は、ゲームの腕前そのままの操縦捌きと、十全とはいえないゲーム知識。
なかなかに無理ゲーである。
いつも心がへし折れそうだ。
だがやるしかないのだ。
もうあんな風に、死ぬ思いはしたくない。
『ククク。教会も形無しだなシスター?』
『黙りなさいシャルロッタ=宮本。貴方も教会的には異教徒だ』
『それで結構。結局のところ、我々は銃と剣が神そのものだ。見放されているなら、技に縋るほかない。アリア殿のいう事はまっとうだ。ますます気に入った』
え、なにその褒め方。
惚れてまうやんか。
何だかちょっと元気出てきた。
生き残る。
そんでモニカをちょっと矯正して、今度こそキャッキャうふふしたるわボケェ。
シャルロッタ=宮本の言う通り、結局は自分の腕なのだ。
流石は剣豪宮本武蔵の末裔だけある。
しばらく静かにしていた
こいつもこいつで心配してくれているのだろう。うれしい。
改めてモニターを見る。
ゆったりと空に留まる巨大なエイ。
なんで今出てきやがったチキショーメ。
モニカがもう少し強くなるまで待てなかったのか。
こいつの撃破を、庭園でマカロンでも齧りながら聞きたかったのに。
アリアは「もーぶっ壊す!」と息巻く。
しかし彼女自身は気づいていなかった。
このストーリー、この場面で、
大きく歯車が狂っていることに、まだ誰も気づかない。
「さぁついていらっしゃい! あのどデカい海産物に風穴を開けてやりますわ!」
白亜のGL【ダイナミックエントリー】が、運命の城門を蹴破るために落下を始めた。
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