第11話 霞飛燕&ミサイルマギカ②
脱出ポットへの攻撃。
即ち、無抵抗のお嬢様を打つこと。
当然、禁忌とされている。
それはどの勢力でもそうだ。
というか、倫理的にアウト中のアウトである。
この世界において、お嬢様という人材はとても貴重だ。
生きてさえすれば、もしかしたら勢力を移ることもある。
なのでアリアのこうした人間の盾的な行為も含めて、無抵抗なお嬢様を危険に晒すことは倫理的にも人材的にも非難の的。
どっこいアリアは学園の中でも
こういう事をしても、畏怖の念で見られることがせいぜいだ。
人としてどうかとは思うが、これも生存のためである。
『お、おねいちゃんに何かしてみろ。アタシのエレガントウエポン、
「あらあら、どの口が言うのかしら」
アリアがそう言うと、覚悟を決めたのか脱出ポットにいたナオミ=小鳥遊はフッと自嘲気味に笑い、目を瞑った。
『――殺されても文句は言わん。それがお嬢様だ。そも、
『おねいちゃんやめて! あ、アタシはおねいちゃんがいないと! 見てくれないと一言も喋れない!』
『お前は逃げろサンディ。最初から、プランが崩れた時点で逃げるべきだったんだ』
「涙ぐましい姉妹愛ですことね」
完全にアリアが悪役ムーヴなのは気の所為だろうか。
ちょっと心がチクチクするが、心を鬼にしなければならない。
『アリアこれ以上は。今度こそ退学になるっていうか。連帯責任で僕も追い出されちゃうんだけど』
「問題ありませんことよ」
『あるんだって!』
「黙って見ていればわかりますわ。さ、小鳥遊姉妹? 貴方がたの道は二つに一つ。このまま続けるか、参ったと言うか」
『――!』
「降参するならこの方は無事。ただし。こう喧伝して頂きましょうか。モニカ=ユンカースに手を出す者は、このアリア=B=三千世界ケ原が許さないと」
『わ、わかったよ。つ、次の枠で一番に言う! だからおねいちゃんだけはやめて!』
「お嬢様の誇りにかけて、宣言できますの?」
『する! も、モニカを動画のダシにしようとしたのは謝る! だからお願い……』
さっきまでキンキン声でがなっていたサンディが、しおしおと、そして必死になって命乞いをしている。
ゾクゾクゾク、とアリアにいけない感情が這い回る。
流石に
AIの方が人間できているとは、これいかに。
『アリア。小鳥遊姉妹の
「無論ですわ」
ヒュバッ!
即座に反転、降下していくアリア。
アリアの素直な行動に、ウィンドウに表示されていたサムも、サンディも胸を撫で下ろしていた。
『一瞬、本気でやるんじゃないかと思ったよ』
「ちょっと前なら撃ったかもしれませんわね」
『撃ったね。間違いなく』
いやいや。
冗談で言ったらマジかよ。
ヤバすぎんだろ前の人格。
どうりで学園の中でも皆よそよそしかったわけだ。
モニカの親友であるアリシアもビクビクするはずである。
でもまあ、いい。
そういうのも利用する。
そうしないといつ殺されるか解らない。
前のアリアが畏怖の存在として見られているなら好都合だ。
舐められたら終わり。
それはどの世界でも同じなのだから。
因みに。
ゲーム上において、小鳥遊姉妹が生存するルートはかなり厳しいが、あるにはあった。
条件を満たすと僚機になってくれるらしい。
しかしミッションが難しい。
最後の最後でナオミにぶった斬られるプレイヤーが多発したからだ。
頭に血が上ったプレイヤーは
「ナオミ死スべし慈悲はない!」
とばかりに撃破してしまう。
そのフラストレーションは
小鳥遊姉妹の薄~い本は、アリアの次の次くらいには人気だった。
当然アリアの中の人もしっかり買った。仕方ないね。
……話を戻して。
この世界で彼女たちを残すことはメリットが大きい。
サンディ=小鳥遊はアレでもインフルエンサーだ。
彼女の情報拡散能力は馬鹿にならない。
ゲームでも彼女を倒す倒さないで、アキバ勢からの信用度は著しく変わる。
彼女たちを活かすルートを選択することで、アキバ勢から余計なヘイトを向けられることはない。
それでいて「モニカに手を出したらアリアが出てくる」という事を世界に知らしめることができる。
つまりは、一挙両得というわけである。
これでモニカに余計な危機が舞い込むことは無いはずだ。
そのまま順調に英雄街道を突き進んでくれれば――
『ん?』
『あり?』
小鳥遊姉妹が突然、はてなと首をかしげる。
サムも「おや?」とメガネの蔓を上げて、こちらのメインモニターへ何かを表示させる。
『珍しいこともあるものだ。アリア、そしてサンディ嬢。というより、ここらへんで踊ってるお嬢様全員に依頼だ』
「へ?」
何だ、それは。
聞いたこともない依頼だ。
アリアの頬につつ、と汗が伝う。
イレギュラーは確かに身構えていた。
ミサイルを避けるあのとき、海をスレスレに飛んだのはそれを探すためでもあった。
モニカの時も、模擬戦を仕掛けてくるなどゲームには無かった。
小鳥遊姉妹のときにも、何かあると思ったがこちらはゲーム通りだった。
だが、ここで来るのか。
本当にこの世界は、あのゲームの世界なのだろうか?
ただの似て非なる世界で、全く知らないストーリーが展開されているのだろうか?
『驚かないでくれアリア。三大勢力が合同出資の依頼だ』
「へ、へぇ。本当に珍しいことがあるのですわね。というと、あの大陸関連ということかしら?」
『ご明察。受領する場合はそのまま大陸の方へ向かって、GLたちとと合流してくれ』
「一体何があったのです?」
『無人機が防衛ラインを突破した。こんなコト初めてだ』
――そのミッション自体は知っている。
大陸に留まっていた無人機達が、何故か大陸を出て海にある開拓前線を突破する。
ゲーム的には、大きくストーリーが変わるイベントのようなもの。
だが知りうる限りでは、このタイミングではなかったはずなのに――
『む、マズいな。アリア、急いでくれ。サンディ嬢は姉上を保護してからでいい。受領すれば、だけれど』
『……こっちは慰謝料で金欠なんだ。アタシだけでも行くよ』
『それはいい。可能であれば、アリアと僚機設定で向かってほしい』
『ハァ!? 冗談言うなドSメガネ! 降参したからって、誰がこんな
『そうしたなら、慰謝料の何割か返還してもいい。どうだい?』
お嬢様同士の戦いで白旗を上げる場合は相手に慰謝料を支払う。
この額がかなり大きい。
破産寸前まで追い込まれることもある。
それを協力の代わりに割引してくれるというのだから、サンディがこの先お嬢様としてやっていくならその申し出を受けざるを得ない。
サムもサムでなかなかのやり手だ。
損耗を嫌うが故に、アリアを守るためならさっきまで殺し合いをしていた敵をも利用する。
バリア工学が専攻とは言うが、実は詐欺師なのではとアリアは時々思っている。
さて。
画面に映るサンディはものすごく嫌そうであった。
無理もないが、そもそもモニカをハメようとしたのだから自業自得とも言える。
嘲笑したいところだが、ここで混ぜっ返すとせっかくの生存フラグをへし折る可能性だってある。
沈黙は金。
言動は人の自由だが、言葉を選ぶことは品性である。
『アンタも相当嫌なヤツだな!』
『良心的な申し出だと思うけどね。姉上の機体代もあるだろうし、ね?』
『クソ! 解ったよ! 破産したくないからな!』
『結構だ。さ、サンディ嬢はまず姉上を安全圏へ。アリアはすぐに大陸へ。後で合流してくれ』
『言われなくてもおねいちゃん優先だよ!』
「サーム。何でわたくしだけ急げ、なんですの? これでも意外と疲れているのですわ。二機も相手にするのは」
『だが、君だけが頼りなんだ。今のところ、君が一番彼女たちに近い』
「彼女たち?」
『学園のGLが苦戦している。モニカ嬢とアリシア嬢の救難信号が今来た』
それを!
早く!
言え!
言葉にする前に、【ダイナミックエントリー】のバーニアが吠えた。
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新着メールが届いています
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TITLE :ゲーム
SENDER:AAA
TEXT:
本来ゲームとは、接待のようなものと
例えられる事がある。
プレイヤーの成長と共に程よい困難が来て、
美少女美男子から程よい反応があって、
わかりきった達成感を味わう。
物語を大きく変えるターニングポイントも、
本来はそう設計されるはず。
なのに、この緊急依頼。
アリアの全く知らないタイミングだ。
これは何を意味しているのだろうか。
そもそもこの世界は。
誰のためにデザインされているのだろうか?
それを識るにはまだ時間が必要だ。
知った時にアリアがどう感じるかは、
神のみぞ知る、と言うことだ。
そんな彼女に貴方が寄り添っていたなら。
きっと、奮い立つ事ができるはずだ。
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