第07話 ある晴れたヘビーな日のこと
今更、新大陸が発見されるなどとは。
それはどの大陸からも遠い場所にあった。
いつから存在していたかわからない広大な大陸。
人々はそれを、伝説に因んで【アトランティス】と呼んだ。
なぜ今になって見つかったのかは誰も知らない。
島にあったステルス装置の不具合ではと、今は言われている。
上陸するや人類が手にしたのは超古代かつ、現在を遥かに超える技術。
それは頭打ちだった人類の技術的問題点が、一気に解決するほどであった。
当然、世界中がこの【アトランティス】に殺到することになる。
が、開拓はすぐに止まった。
どこからともなく現れる無人兵器達。
島を護るように徘徊する彼らに、人類はなす術が無かった。
命からがら持ち帰ったわずかな技術は世界を変革。
それどころか国家という枠組みを瓦解させる戦争に発展し、世界は三つへ集束する。
三大勢力は世界各地で小競り合いを続けながら力を蓄え、虎視眈々と【アトランティス】攻略を狙っていた。
そんな世界で、
妨害、強襲、迎撃、撃滅、決闘、紛争、戦争――。
より先に。
より強く。
よりエレガントにお嬢様は舞う。
お嬢様たちにとってどこが大陸を独占するなどは、どうでもいい。
世界がどうあろうとも、高笑いをしながら銃把を握りしめ、砲火で焼けた空を踊る。
自由に、闘争のあるままにだ。
それが彼女たちの存在意義なのだから――
――というのがこのゲームのオープニングだった。
ようは三勢力が我先にと島を開拓する話。
その【アトランティス】なる場所から技術を持ち帰り生まれたものの一つが
多くのお嬢様を抱え、国家に匹敵する武力を持つ
バチバチしている三大勢力の依頼をお嬢様に斡旋。
抗争を引っ掻き回して、金を得ているのだ。
嗚呼、何というロクでもない、素晴らしさのかけらもないおクソな世界。
それが
気を抜くと後ろから撃たれる。
依頼でお嬢様同士が殺し合うなんてザラ。
学園内でのいかなる武力行為は禁止されているが、一歩外に出たならば死と隣り合わせである。
さらに件の【アトランティス】関係の依頼となると、島につくやいなや血も涙もない無人機が襲いかかってくる。
とどめとばかりに、
死亡フラグのバーゲンセールである。
人の心というものはないのか。
冗談じゃないっつーの。
座して死を待つのも癪なので、アリアの中の人は抗ってみることにした。
知りうる限りの死亡フラグをへし折る。
その為にまず最速で籠絡、もとい仲良しになったのがこのゲーム本来の主人公モニカである。
「アリアお姉さま。お紅茶のおかわりはいかがですか」
「え、ええ。いただこうかしら」
陽光が燦々と降り注ぐ庭園。
鳥が舞い、小川のせせらぎが聞こえ、時折魚の跳ねる音まで聞こえる。
これが全て人の手で――ほぼ九割作業ドローンの仕事であるが――作られたものとは信じられない。
ここは学園の中庭であった。
学園の中は実にクラシックな作り。
アリアの中の人の感覚でいうならヴェルサイユ宮殿のようなキラッキラした建物がめっちゃ並んでいる、といった感じだ。
日々の激しい戦いを癒すために、学園内はなるべくストレスを癒すような作りになっている。
特にこの庭園はお嬢様たちの憩いの場になっていた。
「お姉さま。私、お姉さまのためにマカロンを作れるようになったんです」
「そ、そうなのね。だからこんなに山盛りに」
モニカとの邂逅から一月が経った。
最初で最大の死亡フラグを回避してホッとしたアリアだが、思わぬおまけがついてきた。
このゲーム本来の主人公であるモニカ。
遠くから見守るつもりが、すごい懐かれた。
しかも、ちょっぴり狂気が入り混じっている。
お茶会と聞いてやってきたら庭園の中で一番人気の場所を予約されていて、天蓋付きの席に加え、周囲にはメイドがいっぱいいた。
これだけでも驚いたのに、その背後にはどこから雇ったのかバイオリニストが演奏をしていて、トドメには瀟洒なテーブルの上に山盛りのマカロンである。
明らかに金かけすぎである。
アリアの為に用意したと、モニカは何の不思議もないとばかりに微笑む。
マカロンについては、好きなものを聞かれたので答えたらコレだ。
愛が、重い。
「お姉さまは今日も綺麗です。本当に、女神みたい」
「あ、あー。それは言い過ぎですわぁ……」
今のアリアはオフなので瀟洒なドレスを纏っていた。
胸元が無駄に空いた、セレブが着るようなヤツである。
最初は抵抗感があったが、学園内のお嬢様たちは思い思いの服を着ていた。
今更浮くも浮かないもないので、着てみたら意外とイケる。
それはそうである。
アリアの中の人はもとより、ガワはしっかりデザインされたキャラクターなのだから。
モニカが綺麗と言うのも仕方が無い。
が、中の人的には借り物を褒められているようで複雑である。
「モニカ。貴方、せめて着替えてくればいいのに」
「お姉さまにコレを見せたくて。特別に作ってもらったんですよ」
一方でモニカはアリアとそっくりなパイロットスーツを着ていた。
段々と自分に合わせていくモニカに危機感を感じるアリアだが、
(いやでもクッソ可愛いんだよなぁ)
と、どうにもモニカに甘くなってしまう。
悪い癖だ。
推しに貢ぐ癖が出てしまう。
「そ、そうだ。モニカ。貴方アリーナで勝ち上がっているんですって? もうミドルランクに入ったと聞きましたわ」
褒めたら照れるモニカもまた可愛い。
彼女の戦い方はアリアと瓜二つになっていた。
強引に前に出ることで、相手の戦法を潰していくやり方。
自分の戦い方をよく観察した上で真似たのだろう。
ちょっと怖いけれども、弟子を持ったような気分で悪くはなかった。
「依頼もたくさんこなしているのですってね」
「……本当にお姉さまのお陰なんです。あの時模擬戦に応じてくれたから」
「あれはキッカケに過ぎませんわ。私に出会わずとも、貴方はここまでできたはず」
「私にだけは謙虚なんですね。お姉さま」
椅子を引き寄せて、ピッタリと密着すると頭を胸に預けてくるモニカ。
オッフ。
そう来たか。
もうこれ、エンドロール流していいぞ。
確かにこのままだと完の文字が浮かび上がってきそうだが、ここは映画の世界じゃない。
しばらくそうしていると、モニカの腕からピーピーと電子音がする。
起き上がったモニカはむっくりと頬を膨らませて途端に不機嫌になっていた。
「お仕事みたいです」
「そんな顔はおよしになって。頼られている証拠ですわ」
「お姉さまと一緒にいたい」
「帰ってきたら、いくらでもよろしくってよ」
「本当に?」
「あのーそろそろいいですか? モニカ〜、ご指名の依頼なんだけど~」
甲高い声がした。
振り向くと、黄色基調のパイロットスーツに身を包んだお嬢様が立っていた。
アリアは「びゃあかわいい」と叫びそうになるがこれも耐えた。
立っていたお嬢様はモニカよりさらに小さく、短い茶髪のツインテールが風に揺られている。
利発そうで、猫のような印象を受けた。
「アリシア!」
「アリシア……ああ、確か【ジャンヌ・ダルク】に乗ってた子でしたか」
「ひん! 知られてるゥ!」
アリシアが変な悲鳴をあげていた。
どうやらアリアに怯えているようである。
ニコリと微笑みかけても再び「ひ、ひん!」と再び変な悲鳴を上げていた。
「あ、あの。ごごごご機嫌麗しゅうごじゃりばっ」
舌を噛んだのか、緊張も相まってひーんと泣きべそをかくアリシア。
モニカは立ち上がると、よしよしと頭を撫でていた。
「そんなに緊張しなくてもいいのに。お姉さま。こちらアリシア=ブラックウッド。私とよく一緒に仕事をしているんです」
「き、緊張するよ! と、トップランカーだぞ! ……ですよ」
どうやらあまりお嬢様言葉に慣れていないようだ。
段々とアリアは思い出す。
確かに彼女は僚機として一緒に出撃できるお嬢様の一人だ。
僚機は敵が多いミッションの中では役に立つし、ゲームではよく囮にしていたっけか。
「こ、殺されない? 失礼働いて殺されない? あの
「わたくしを何だと思っているの……ごきげんようアリシアさん」
「ひん!」
「そんなに怯えないで。何もしませんわ。それにしても貴方、モニカと同じで可愛らしいですことね」
と、ストレートに褒めてみる。
するとみるみる顔が赤くなるアリシア。
雲の上の存在であるトップランカーにそう言われて、嬉しくなったのだろうか。
尚もおどおどするアリシアに、よしよし怖くない怖くないとなだめるモニカ。
はぁ~~~~~~~~~~~
っべーなここは天国か。
そんな感じでほわほわしていると、アリアは突如ハッと何かを思い出す。
「貴方、さっきモニカへ指名の依頼とそう言いましたか?」
「ひん! そ、そうです! ですわ!」
「そのミッションの名前は?」
「へぇ!? えーっと」
「アリアお姉さま、それは……」
言うのを
いくら仲が良くても傭兵同士、お嬢様同士である。
仕事は仕事、内容を漏らすと信用問題になる。
だがそれでも聞かねばならないと、アリアは思う。
記憶によると、それはヤバい依頼のはずだ。
「当ててあげましょうか。『違反GL撃破』とか、そんな感じではありませんこと?」
「お姉さま何故それを!?」
「ヤバいよモニカ〜! 絶対秘密の依頼の事知ってるもん〜ランカー怖いよ〜」
モニカが目を丸くして、アリシアがもう膝をガクガクさせている。
確かに怖かったかもしれない。
依頼情報は基本的に漏れることがないのだから。
――この先に待ってるのは、いわゆる初見殺しだ。
――なら、
ニチャァ、と笑うアリア。
その顔に、今にも泣き出しそうなアリシア。
流石のモニカも
「これがお姉さまの本来のお姿……」
と変な誤解をして冷や汗を流していた。
――この判断が、まさかフラグを立てるなどとは。
アリアは予想もしていなかった。
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