旅路の果てへ

日暮汐織

第1話 神蘢

…いつからだろう…彼の顔が思い出せなくなったののは。私の記憶が怪しいのか…?それとも…





 ◆◆◆






「おう!おはよ。」

「おはよう。」

私は神坂葵こうさかあおい。受験間近の中学3年生。毎朝一緒に登校している彼氏のしょうと待ち合わせ場所で合流したところだ。

「ちょっと遅刻しそうだから急ぐか?」

「うん。」

「にしても、葵が遅れてくるなんて、珍しいな」

私はドキリとした。

「なんか、変な夢見ちゃって…ごめんね。」

私が謝ると彼は胸の十字のネックレスを赤く輝かせながら照れくさそうに顔を背けてしまった。

「お〜い。遅刻だーぞー」

馬鹿みたいな声が聞こえてきた。声のした方にはピアスを付け、だらしなく制服を着崩した少年が居た。私の幼馴染の加藤蓮かとうれんだ。

「蓮こそ遅刻になるぞ。」

翔は普段通りの素っ気ない態度で蓮に返答する。

「俺りゃもう内申点要らねぇからいい〜んだよ!」

そうだ。蓮はもう就職先、対神陸軍に入隊が決まっているのだ。

「蓮。ホントに神蘢と闘う気なの?」

「当たり前だろ。結香ゆいかとかーちゃんみたいな犠牲を、もう出したくねぇんだよ。」

「蓮。妹さんとお母さんの事は分かるが、やっぱり僕も心配だよ。」

翔一にしては珍しく蓮のことを気にかけているようだ。

「ん?大丈夫。俺りゃ死なねぇよ!亅

蓮が不自然なくらい明るく返答する。そうこう歩きながら話しているうちに、学校に着いてしまった。いつも通り蓮の熱量に押されて、結局何も言えずじまいだ。



 ◆◆◆



「はぁ…あと3ヶ月で卒業かぁ〜」

巴がつまらなさそうに呟く。巴こと、西園寺巴さいおんじともえは私の幼い頃からの親友だ。隣の席で机に突っ伏している彼女を見ていると、私もあんなふうになれたら とつい思ってしまう。彼女は誰が見ても息を呑むような美しい顔立ちをしていた。 

「よっと。これ重てぇな〜亅

蓮が2つ前の席にカバンを置く。

「蓮、おはよ〜」

「お〜西園寺、おはよ。」

巴が長く綺麗な髪を靡かせながら蓮のほうに振り向く。相変わらず二人は仲が良い。付き合っているんじゃないかと疑うほどだ。さほど、時間がたたぬうちにホームルームが始まった。1時間目は体育館での集会らしい。号令が終わると皆が体育館シューズを手に体育館へ移動していく。

「翔、行こ!」

「うん。」

普段通り、私と翔一は一緒に移動場所へ向う。

「俺等も行くか〜?」

「そうだね。」

特に何事もなく私達は体育館へと到着した。

担当の先生がマイクの前に立つ………はずだった…

地響きのような音とともに地面が揺れ始め、窓のガラスが割れレールが歪んだ。

「え!?なに?地震…?」

皆が動揺している。気付けば私も翔一の手を掴んでいた。 その時、いきなり体育館の前半分の天井が消え去り、陽の光が差した。床を見れば黒い影が天井の穴から伸びてきていた。見上げてみれば、そこにはギョロっとして蒼色に光る2つの目が見えた。

「じ…神蘢じんりゅう……」

私達の目の前にいるのは、紛れもなく巨大な神蘢の一個体だった。神蘢が大地を割らんばかりの咆哮をあげる。その声は、その場にいた全員の背筋を凍りつかせた。



甲高い金属音が体育館に響いた。



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