婚約を破棄されただけでなく、捨てられてしまい、生命の危機を迎えたわたしを隣の王国の王太子殿下が救ってくれた。婚約破棄した人が間違っていたと後で思っても、間に合わない。わたしは殿下と幸せになっていく。

のんびりとゆっくり

第1話 わたしはフレナリック殿下との婚約を破棄された

 わたしはセリフィーヌ。ラフォンラーヌ公爵家の令嬢。


 今日は、素敵な一日になる予定だったんだけど……。


「きみに言うことがある」


 ハンサムなお方。リクサーヌ王国の王太子フレナリック殿下。わたしは王太子の婚約者。


 ここは王宮にある殿下の部屋。


 わたしは、心が沸騰し始めていた。


 今日はこれから新年を祝う盛大なパーティーがある。


 殿下の婚約者として参加できるのはとても名誉なことだ。


 わたしもドレスを着てきている。


 殿下は褒めてくださるだろうか。


 褒めてくださるとうれしい。


 そして、パーティーの後、寝室に招待されるのだろうか。


 そこで、キス、そしてその先にある二人だけの世界に入っていくのだろうか。


 今まで、殿下のことを好きになろうと努力してきたわたし。


 殿下もわたしのことを好きになってくれて、寝室に招待されるのであればうれしい。


 心の準備もなんとかしようと一生懸命努力している。


 キス、そして二人だけの世界に入っていくということ。


 殿下がそれを望むのなら、わたしはそれを受け入れる。


 とにかく殿下が望んでいることであれば、それに極力応えていかなくはいけない。


 そう思っていると、殿下は、


「今日、わたしフレナリックは、セリフィーナとの婚約を破棄する」


 と言った。


 わたしは、何を言われたのか、わからなかった。


「殿下、今何とおっしゃって……」


「聞こえなかったのか? わたしはきみとの婚約を破棄すると言ったのだ。二度も同じことを言わせるな」


「婚約、破棄……」


「そうだ。今からお前とわたしは、婚約者でも何でもない。他人になったのだ」


「他人……」


 わたしは混乱した。


 殿下によって寝室に招き入れられて二人だけの夜を過ごすことになるかもしれない、と心の準備をしてここにやってきたのに、来てみれば「婚約破棄」という全くの想定外のことがわたしを襲ってきた。


 既に結婚式に向けての準備も始まっている。


 そんな中で婚約破棄をしてくるとは。


「冗談? わたしがこういう大切なことを冗談で言うと思っているのかね」


「冗談を言って、場をなごませようとしていたのだと思ったのですが」


 そうであってほしい。


「全くお前はつまらない人だ。わたしは本気で言っているのだよ」


「本気で」


「そうだ。わたしはお前と本気で別れたいんだ」


 その言葉を聞いたわたしは、だんだんめまいがしてきた。


「どうして、どうして、そういうことを言うんでしょう。わたしは殿下のことが好きなのに」


「わたしはお前のことが嫌いになった。だからお前と別れたいんだ」


「どうか殿下、そんなことをおっしゃらずに」


「嫌いになったものはなったんだ。わたしの心は変わらない」


「数日前にもわたしのことを好きだと言ったばかりなのに」


「もともとわたしは、きみのことが好きだったわけでもなんでもない。政略結婚でしかないんだからな。それでもこの二か月は我慢してきた。儀礼上、好きだと言っていただけだ。好きでもない人に好きという言葉を言うのがどれほどつらいことか、きみにはわからないだろう。もう我慢も限界だ」


「そ、そんなあ……」


「きみとはもうお別れだ」


「そんなこと言わないでください。わたしは、一生懸命殿下の好みの女性になる為、努力してきたんです。もう一度、考え直してください」


 わたしは、そう言っている内に涙が出てきた。


「泣いたって、わたしの心は変わらない」


「殿下……」


 しばらくの間、沈黙の時間が続く。


「そうだ。きみに紹介したい人がいる」


「紹介したい人?」


「そうだ。きみよりずっと素敵な人だ」


「わたしより素敵な人……」


 この状況で、わたしに紹介をしようというの? 


 もう少し優しい人だと思っていたのに。


「きっときみもそう思うだろう。入りたまえ」


 殿下がそう言うと、執事がドアを開けた。

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