第2話 正直ハーレム生活ってある程度満足したらもういいや、ってどっかで飽きると思う。

「それでは細かいことは一旦置いておいて、ハーレム系などはどうでしょう」


 集団の女性たちに愛されて夜も眠れないってやつですね。


「それな。人気なのはわかる。俺も二次元の中でなら好きなシチュエーションだよ。でも実際にやるとなると別。絶対疲れるわ。一夫多妻制でも上手くやれてる人もいるだろうけど、色々細かいこと考えちゃうんだよな」


「細かいこと?」


「例えば複数の女性と結婚した場合さ、実際に暮らす生活形態としてはどうなるかって話。ざっくり考えると交代制か大家族型になるんだろうけど」


「交代制って例えば月火水木金土日ごとに一人の奥さんと過ごすって感じですかね」


「そうそれ。日曜日は休みとするとしてさ、これ月曜担当の奧さんが圧倒的に有利だよな。週の初めのまだ余裕のある状態の旦那さんを独占して思う存分夫婦生活を堪能できる。で、火曜日以降になると旦那さんも疲れてきて『あー、ごめん今日はちょっと疲れてて』とか『うんうん、聞いてるよ、話。それよりちょっと昼寝してきてもいいかな?』ってなりそう。水曜日ぐらいまではグダグダで木金でちょっと回復する。土曜は休み前だからちょっとハッスルしちゃおうかなってなる」


「最初と最後の奧さんが有利で、真ん中くらいになると逆に旦那さんを休ませないといけないわけですね。まぁそれ月曜の奧さんがちょっと気を遣えばいい気もしますが」


 それに週休二日のお仕事の人なら真ん中か土曜日にも休みがありそうなもんなので、色んなパターンがありそうですね。


「でもさ、初日とか最終日とか有利な日って現実的に考えれば、奥さんたちの中でも発言権が強くてヒエラルキー上位の人になりそうだからね。下手すりゃ身分差や戦闘力の差とかもあったりして他の奧さんにも文句は言えないわけ。そして怖いのがここからだよ」


「何がです?」


「権力のある女性が複数の相手と旦那さんを共有することをいつまで耐えられるかってことだよ。まず奥さんの中に身分の低い人とかが居れば諸々手をまわしてその日の担当枠を横取りしそう。あるいは武力に物言わせて威圧するとかさ」


「まぁ、そういうこともあるかもしれませんね」


 愛が深ければ独占したいと思うのが人情です。特に権力や武力を持つ側なら「なんで我慢しなくちゃいけないの?」という思考に至るのはむしろ当然。


「で、他の奧さんを排除し出したら、次々排除していくよな? 金なり暴力なり、やり方はいくらでもあるし、一度一線を越えたらもう後戻りはできない。結果、最後に残るのは権力と武力と独占欲の強い奥さんって形になるね」


「でもそれはちょっと酷くないですか? 最初は交代制にも合意したからその生活があったわけですよね?」


「酷いと言えば酷いけどさ、でも人を本気で愛するって綺麗ごとじゃ済まねぇだろ。旦那のシェアとか所詮妥協の産物でしかないよ。独り占めできるなら絶対独り占めしたいと思うわ。そしてそのための力を持ってるなら行使しないってのも、お人よしを越えてただの馬鹿だ」


「愛は常に正しい、ですか。それじゃあ、もう一つの大家族型は?」


「まぁ基本合宿みたいになるだろうね。常にみんなで旦那を共有し合い、わいわい過ごす感じ。二人きりになれるタイミングはほぼなくなるけど、多対一になるからさっき言った独占欲の強い奧さんは牽制されるよな。独占したくても何となくそれを許さない雰囲気が出てくる」


「こっちの方が圧倒的に平和な気はしますね」


「そう、平等と言えば平等。でもこれもやがて破綻の兆しを見せる」


「なにゆえ?」


「子どもだよ。家族が増えれば生活は変わる。全ての軸は子どもを中心になり、子持ちか否かである種の差が生じてくるね。それに加えて家事全般を誰が引き受けるかって話にもなる。大体の場合、集団の中である程度得意な人間が采配を振るう形になるよな」


「その方が合理的ですからね」


「でも子どもが生まれ、仕事が増えるにつれて誰かしらババを引く人が出てくる。つまり負担が一人に集中するってやつだな。ある程度手伝ったり交代制にするって方法もあるだろうけど、生き物って集団になると誰かしらサボりだす習性があるからな。そのうち誰かに任せっきりになるわ。で、負担を背負ってる奥さんがそのことに不満を持ちだす。子どもの間でも母親の身分や家庭内の立ち位置とかで差別や区別が発生してくるよな。絶対的な平等というのはこの世に存在しない。必ず誰か損をする人間が現われる」


「いやいや、それこそ旦那さんの出番じゃないですか! 誰かが辛い思いをしてるならビシッと言っちゃってください」


「無理だろ。集団の女の中で男一人が敵うわけねーわ。それこそ旦那が家事一手に引き受けるならまだしも。そもそも多数の奧さんに気を遣いはじめたらどうしたって曖昧な言い方や態度になるもんだよ。男が下手に口出しして家庭内の問題が解決することあると思う?」


「うーん、難しいかもしれませんね。いざとなったら女性は結託しますから」


「そ、下手すりゃ旦那が悪者になるよな。でも大勢の中で生活してるとさ、交代制でもそうだけど一人になりたくなるときって絶対あると思うのよ。やっぱり常に複数の異性を相手にし続けるって相当しんどいからね。性格の違いやテンションの違いもあるだろうし、一人一人のメンタルに合わせてやり取りしてるとどっかで限界来るわ。それに加えて子どもの相手もしなくちゃいけないとなると旦那の体力がどれだけあっても追いつかんし。特に異世界ハーレムとかキャラも濃いヒロインばっかりだしな」


「現実的に考えれば、誕生日プレゼントから子どもにまつわる様々なイベントから家族サービスまで人数に比例して負担は増大するわけですからね。よほど体力のある旦那さんでも、一つ一つへの対応はどこか雑にならざるを得ないかもしれませんね」


「正直ハーレム生活ってある程度満足したらもういいや、ってどっかで飽きると思う。俺ならどっかでリタイヤして逃げ出すわ。元々の文化的土台があってある種のモデルケースを参考にすれば上手くやっていけるパターンもあるだろうけど。いきなり転生してハーレム生活ですよ、と言われてもちょっと勘弁してほしい。美味しいのは最初だけだよ」


「はぁ……確かに」


 うっかり話に聞き入ってしまいました。


 ハーレムものってよく考えると長く維持をするのは大変なんですね。


 本人の適性や好みによるところも大きいでしょうし、何故世の中一夫多妻や一妻多夫よりも一組の夫婦の方が多いか、と考えてみればむしろ当然のことかもしれませんね。これからは安易に提案するのは控えた方が無難かもしれません。


 ハーレム転生は×、と。


 つい話に乗せられてしまいましたが、自分の仕事は転生先の提案です。気を取り直して、今の彼に一番向いた世界を考えてみるより他ありません。これまでの傾向から考えて、対人関係についてナイーブな考えを持ってしまうタイプの方のようなので、切り口を変えてみましょう。

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