第49話 噂の口止め
昼休みになってすぐ、俺はクラスの陽キャ男子である三木に声をかけた。遠足でも一緒の班になっていたから、少し話しかけやすい。
彼は入学式からどんどんクラスの輪に溶け込み、今ではまとめるほどまでになっていた。
「なぁ、三木。今からちょっといいか」
「錦小路……? どうしたんだ」
「ここでは話せないことだから、中庭まで来てほしい。人が少ない方な」
「え、えーっと、うん。分かった。着いていけばいい?」
「あぁ」
少し話し方も変えて、声色も低くする。ちょっとでも凄みがあるかなと思って。
遠足の時の様子とかどうせ覚えてないと思うし。
俺は元主人公の一件以来どうにかクラスメイトとして扱われているものの、まだみんなに恐れられていた。
案の定、三木もひきつった笑みを浮かべている。これからボコられるんじゃないかとか、そういうことを考えているんだろうな。
「それにしても錦小路、久しぶりだなぁ。遠足の時以来じゃない?」
「あ、あぁ。そうだな」
「いやー、錦小路も色々大変だったよな」
「あぁ」
やべぇ、普段から陽キャ男子と話さな過ぎて上手くいかない。神奈とかはほら、ゲーム内で会話してたからどうにかなってるけど、普通に耐性ないんだよな、俺。
「解決したからどうにかなったけど」
「そうだよな! ほんと解決して良かったよ。ごめんな、俺も勘違いしてたし」
「いや、別にみんなそうだと思うよ」
あの教室内で信じてくれてたのは、神奈と成田くらいだっただろう。
どうにかつたない会話でやり過ごしていると、中庭に着いた。ここは日当たりが悪いからほとんど生徒が来ない。
秘密の話にもピッタリだというわけだ。
「で、話なんだけど」
切り出すと、三木は緊張したような面持ちを浮かべた。
「うん」
「昨日けっこうな大事件あっただろ」
「えーっと、佐々木さんのこと?」
「そう。それなんだけど、噂を流してくれないか」
「噂……?」
「佐々木神奈は援助交際とかしていないらしい、あの写真はデマで、勘違いだったって噂だ」
「そんなこと……で、でもあの写真は佐々木さんだったぜ? どう見ても。信憑性なさすぎるだろ」
「あっ、あれはだな」
言い訳を思いつくために、俺は高速で脳を巡らした。
「あれは、女装した俺だ」
口から出てきたのは、とんでもない嘘だった。
「え、えぇっ!?」
「だから、佐々木じゃない。そしてもちろん俺も、色々込み入った事情があっただけで、援助交際なんかしていない。ほんとにたまたまだ」
「ちょ、ちょっと待って。脳の処理が追い付かないんだけど」
「とにかく! あれは佐々木じゃなくて、女装した俺だから。それは話してもいいから、噂を止めてくれ。クラスをまとめる三木にしか頼めないんだ」
「わ、分かったけど……えっ、待って本当これどういう状況?」
「ちなみに俺が頼んだこととか、もし噂を流さなかったりしたら……」
「わ、分かってる。分かってるって。ちゃんとやり遂げるから」
三木はあたふたと言う。
「ありがとう。じゃ、それだけだから」
俺はその場を去った。
「もしかして錦小路ってけっこうなお人好しなのか? てか、女装癖とかあったりするのか……?」
……背後の呟きは、聞こえなかったことにしよう。
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