第20話 紗夜vs春香 決着

想像以上の春香の力に穏やかではない紗夜だったが、それ以上に心中穏やかではないのが他の合宿参加者だ。


「……完全に飛んでるよなあれ」

「なんで地面踏みしめただけで爆発みたいになるんだろうな」

「一体何種類の式神と契約しているの?あの子」

「何より一番やばいのはさぁ……」


『二回戦以降、アレのどっちかと戦わなきゃいけないってのか……!?』


あまりのレベルの違いに戦々恐々としている生徒たちを見て、雷月は愉快そうな声を上げた。


「ははっ、トーナメントの組み合わせをいじっておいて正解だったな。もはやうちのヒヨッコ共は他の奴らとはレベルが違う」


だが、と雷月は心の中で訝しむ。

「宵闇の力はこんなものではないはずだがな」



地上から次々に拳圧を飛ばす春香、そしてそれをなんとか凌ぐ紗夜。

だんだんと戦況は一方的なものになりつつあった。


(紗夜)

「そうだね、分かってる。このままじゃ勝てない」

(うむ)

「シラヌイさんのあの力はまだ使えないし……」


今の春香ちゃんはシラヌイさんの力でも抑えるので精一杯だ。私が勝つためには……

紗夜は両手に巨大な火炎弾を発生させ、それを乱雑に前方に放る。


「狐火烈火!」


凄まじい爆炎によって春香の拳圧が消し飛ぶ。

そして、その隙に紗夜は地上へ降り立った。


「あら、空中戦はおしまい?」

「うん、このままじゃ負けちゃうからね」


そう言うと、紗夜はシラヌイとのリンクを切り、再びキラヌイを呼び出した。


「おいでキラヌイ」

(はーい!)

「またその式神を使うのね。確か初めて戦った時もその子を使っていたのよね」


春香が懐かしそうに微笑む。


「そうだね。だからこそ、やっぱり決着をつけるならキラヌイとじゃなきゃね」

(うん! 僕たちの力、見せつけよう紗夜!)


覚悟を決めた紗夜の体から、爆発的な青白い炎が立ち上る。


「私は(僕は)!」『ハルちゃんに勝ちたい!』


その言葉と共に、再び紗夜の全身を狐の形に炎が覆った。


「あれはまさか……」


驚いた声を上げたのは観戦していた憑神だった。

「式神と人間の心が一つになる時に奇跡的に発動することがあると言われている式神使いの極地……人呼んで獣人モード!」

憑神は口を開いたまま驚きを隠せない様子で紗夜達を見つめた。


『獣人モードっていうんだ、名前あったんだねこれ』


紗夜は呑気にそんなことを言いながらぴょんぴょんと飛び跳ねた。

『ちゃんとできて良かったけど、あんまり長くは持たないから、さっさと決めちゃわないとね!』

そして一気に春香との距離を詰める。


「流石に早いわね」


春香はそれでもしっかりと目で追いながら再び距離を取ろうと後ろに飛ぶ。

そこに紗夜が青い炎を放つ。


『狐火蓮華!』


連続で放たれる強烈な炎。流石に吹き消せるわけもなく、春香はそれをバク転の要領で次々に避ける。

「轟天砲撃」

そしてその隙に拳圧を放つ。


『あっぶな!』


それを紙一重で避ける紗夜。

そして、続け様に両手に先ほどより大きな火球を発生させ、一つずつ投げる。


「狐火烈火か! その技はもう、見飽きたわよ!」

春香は金色の闘気を両手に集中させると、なんとその火球を素手でキャッチした。

そして

「確か初めて戦った時はドッジボールだったわね」

それをそのままもう一つの火球に向かって投げ返す。


二人の中心で火球が衝突し、大爆発を起こした。

『うわわ!』

流石に吹き飛ぶ紗夜。そして

「うおおおおお!」

吹き飛ぶ観戦者達。


あまりの爆発に春香は半ば呆れて言う。

「とんでもないわね、私じゃなきゃ死んでるわよ」

『でも春香ちゃんなら死なない、でしょ?』

「分かってるならまぁいいわ」

春香はパンパン、と手を叩くとス……と構えをとった。


「次は私の番ね」


まさに電光石火。春香の姿が目の前から消える。気付いた時には春香は紗夜の後ろに回り込んでいた。


「蒼天乱打」


掌底の連打を放つ春香。

『わ、わわっ!』

もはや常人には全く目で追えないレベルの攻撃を紗夜は反射神経だけで避けていく。

すると突然、紗夜の体を包む狐型の炎がグワッと口を開けると春香に噛み付いた。


「熱っ!」 


思わず悲鳴を上げる春香。

それを見て紗夜は、ははっ!と笑い声を上げる。

『こんなこともできたんだ。今ならなんだってできそう。楽しいね!ハルちゃん』

春香もつられて笑い声を上げた。

「ふふ、そうね。楽しい」


二人の闘気と炎がさらに大きく膨れ上がる。


『そろそろつけようか。決着』

「ええ、望むところですわ」


紗夜の体の周りの炎が右足に収束する。

一方春香も右腕に全闘気を集中させた。

「いかんな」

明雅はその様子を見て、異能力を展開した。


決着は一瞬だった。

突然二人の姿が消えたように見えた。それほどまでのスピードで二人は激突した。

そしてゼロ距離で各々が必殺技を放つ。


「蒼天……反掌!」

「狐火シュート!」


周りから見えたのはその一瞬の二人の影だけだった。二人の影がぶつかった刹那、彼女達を中心に大爆発が起きた。

観戦していた生徒達が死を覚悟するほどの衝撃があたりを包む。

やがて爆発が収まり、生徒の一人がつぶやく。


「い、生きてる……」


恐る恐る目を開けると、自分たちを包み込むように結界が張られていた。

結界は、ピシッ……とヒビが入ると粉々に砕け散る。


「ギリギリ間に合ってよかった。しかし、二人ともこの短期間によくもまあここまで」


明雅は崩れる結界を見て嬉しそうに目を細めた。

そして生徒達は自分たちが生きていることに安堵すると、思い出したかのように爆発の中心に目をやった。


どちらが勝ったんだ?


そこに立っていたのは一人だけだった。

彼女はフラフラにはなりながらもしっかりと両足で立ち、右手を高く上げていた。


明雅はその姿を見て「ふふ」と笑みを浮かべると、高らかに宣言した。


「一回戦勝者!! 朝日春香!!!」


宣言と共に春香はドサッと倒れる。

気力も体力も使い果たした。しばらくは動けないだろう。


「ふふ……あはははは! 私の、勝ちね」

「あはは、強いなぁ。ハルちゃんは」


運動場にはしばらく二人の笑い声だけが響いていた。

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