第18話 強化合宿、最終試験
宿に帰った後、紗夜は結局丸一日眠り続けた。
いくらか心配する春香ではあったが、体調には問題もなく、ただ疲れ切っているだけだろう、とのことだった。
春香自身も怪我や戦闘の疲れは残っていたため、結局6日目は最終試験前の休息日となった。
そしていよいよ迎えた最終日。雷月は、二人を連れて神社とは反対方向にある廃校へ向かった。
「いやぁ、びっくりしちゃった。起きたらいつの間にか最終日なんだもんね」
「心配しましたわよ紗夜さん。体調はよさそうですけど」
「うん、元気元気! どんな試験内容でもばっちこいだよ!」
紗夜はそう言って腕をブンブン回した。
「着いたぞ」
廃校内の運動場に着くと、雷月は二人にそう言った。
見ると、10数人の学生の姿、そして4.5人の大人が居るのが見える。
「あれが私達以外の合宿参加者かー。意外と少ないかも?」
「まぁ高校生で真剣に国防軍に入ることを考えているのは少数派でしょうね。そもそも実験的に始まった合宿という話でもありますし」
春香はそう言いながら集まっている学生の面々を眺める。
「まぁしかし、流石に有名どころが集まってますわね」
「そうなの? 私、ちょっと前まで無能力者だったから全然知らないや」
「そ、そうでしたわね」
その言葉に少しだけ顔をひきつらせつつ、春香は学生たちのことを紗夜に紹介し始めた。
「特に有名な人たちで言えば、例えばあの背の高い人は重力使いの家系の長男、星野大地、あちらの小さくて可愛らしい女性は音使いの千空寺さん。あちらの二人組はどちらかが本体の人形使いですわね」
紗夜は春香の説明を聞きながら楽しそうに見渡した。
「すごいね! 色んな人たちがいるんだねぇー」
「そうですわね。紗夜さんと似た系統の能力の方もいますわよ」
「へぇ? どの人?」
「あちらの犬を連れている女性、憑神家の令嬢様ですわ」
目をやると、中型犬を連れたきれいな女性と目があった。紗夜は慌ててペコリと頭を下げる。かすかに異能の力を感じるのできっとあのワンちゃんは式神なんだろう。
「きれいな人だね」
「ええ、それに若手式神使いの中では最強と言われているお方ですわ」
春香がそこまで言うなんてよほどのことだ。紗夜は少し驚きながら尋ねる。
「春香ちゃんより強い?」
「式神使いの中では、と言ったでしょう」
なんだ春香ちゃんは春香ちゃんだったか。
それでも何か学ぶことはあるかもしれない、どんな能力を使うのかなぁ。
紗夜は少しわくわくしていた。
雷月はそんな二人の様子を見ながら煙草を取りだし、退屈そうにポツリとつぶやいた。
「まぁ、お前らの思い通りにはならないかもしれないがな」
暫くして、突然場の雰囲気がピリリと引き締まった。
「これは……」
全員の意識が一瞬全く同じ方向を向いた。それほどまでに大きな力を感じたのだ。
「なるほど。どうやら皆、基礎はできているようだな」
「あっ!」
みんなの視線の先に立っていた男を見て紗夜は思わず声を上げた。
そう、そこに居たのは他ならぬ紗夜の父親、宵闇明雅であった。
「そう気を張らずとも良い。さぁ、最終試験を始めていこうか」
静かで、それでいてよく通る声で明雅はそう言った。
そして明雅は空中に一枚の紙を浮かべる。そこには名前の書かれていないトーナメント表が書いてあった。
「さて、まずは皆。今日までの訓練ご苦労だった。班によってはかなり厳しい訓練を行っていた所もあったな。ぜひその成果を今からの試験で我々に見せてくれ。最後はシンプルだ。
君たちには今からトーナメント方式での試合を行ってもらう。組み合わせは事前に公平にくじで決めてある。
そして、最後に残った一人には国防軍への内定が決定するというわけだ。判断基準はシンプルな方が分かりやすいであろう。各々、精一杯力を奮え」
そこまで話すと、明雅は真っ直ぐにこちらを見た。紗夜を見ていたのか春香を見ていたのかは分からないが、こちらを見てはっきりと言った。
「私は現在この世の中にいる人間の中で最も強い。君たちがたとえ力を暴走させたとしても私が止めよう。なんの心配もせず、全力を出すがいい」
紗夜はその言葉に安堵し、そして春香は身を震わせた。
そして、この一言が二人のこれからの運命を大きく変えることになる。
「全力で……」
春香は小さく呟き、紗夜を見た。
「紗夜さん」
「うん?」
きょとんとした顔で春香を見る紗夜に、真剣な眼差しを向ける。
「リベンジマッチですわ。今回は手加減は致しません。あなたなら決勝まで問題なく進めるでしょう。決勝戦で、待っていますわ」
「……うん! 私も負けるつもりはないよ。決勝戦で会おう、春香ちゃん!」
二人の友人は微笑み合うと、拳をぶつけ合った。
「それでは、早速始めるとしよう。第一回戦の組み合わせを発表する!」
明雅は声を張り上げ、宣言した。
「宵闇紗夜、朝日春香! 前へ来るがいい!」
「え!?」
「あら……」
二人は思わず顔を見合わせた。
雷月が後ろから、笑いを堪えながら言う。
「くく……ほら、行ってこい」
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