第20話 君のお陰で心穏やかに過ごせる~アデル視点~
「アデル様、聞いて下さい。今日はティーナ様の好きな苺専門店に行こうと思っているのです」
嬉しそうの僕に報告してくれるローズ。気が付くと僕たちが契約を結んでから、既に1ヶ月が過ぎていた。ローズと契約を結んでからというもの、定期的にこうやって2人で会って色々と打ち合わせをしている。
僕たちは契約で結ばれた恋人同士だ。万が一ティーナや兄上に、実際は付き合っていないとバレたら大変だ。ちなみに呼び方も、先日からローズと呼び捨てにしている。
相変わらずローズはティーナが大好きな様で、ティーナの喜びそうなお店をこうやって探してくるのだ。
「へぇ、苺の専門店か。ティーナが喜びそうなお店だね。でもローズは苺が苦手ではなかったかい?」
初めて4人で食事に行った時“苺は苦手なので”と言って、ティーナに苺をあげていたのだ。
「そんなこと言いましたか?私、苺は大好きです!あっ、でもティーナ様が喜んでくれるなら、苺を差し上げてもよろしいですよ」
そう言って笑っているローズ。なんだか僕よりもローズの方が、ティーナを好きでいる様な気がしてくるくらい、ローズはティーナが大好きな様だ。
そのせいで兄上もローズの事を警戒していて、極力ローズとティーナを2人きりにしない様にしている。そんな兄上に対しローズは
“もう、グラス様は束縛が激しすぎるのです。それにティーナ様を言いなりにさせようとするし。本当に嫉妬深い男はイヤですわ”
と言って、よく怒っている。そんなローズの顔を見ていると、なぜか僕は笑いがこみ上げてくるのだ。
「それじゃあ、明日にでもティーナと兄上を誘って、街に出ようか」
「ええ、よろしくお願いしますわ。そうだわ、せっかく街に出るのですもの。ティーナ様とお揃いの物を購入したいですわ。あ…でも、嫉妬深いグラス様がまた眉間に皺を寄せて、文句を言って来るかしら?本当にあの人、嫉妬深くて嫌になりますわ…」
さっきまでニコニコしていたと思ったら、今度はげんなりとした顔をしている。本当にこの子は、色々な表情を見せてくれる。この子といると、飽きないな…
「ローズは本当にティーナの事が好きなんだね…」
「ええ、大好きですわ。あんなにもお優しくて素敵な令嬢、そうそうおりませんわ。あ…もしかしてアデル様も、私に嫉妬していますか?ごめんなさい。でもやっぱり私、ティーナ様が大好きなので…」
今度はシュンとしだした。もうダメだ!
「ハハハハ、僕は別にローズに嫉妬なんてしないよ。ティーナが喜んでくれたら、僕も嬉しいからね。でも、兄上は違う様だから、気を付けた方がいいよ」
「それならいいのですが…て、よくないですね。それにしても、グラス様とアデル様、同じ兄弟なのに、全然性格が似ていませんね。アデル様の謙虚さを、少しでもグラス様も受け継いでくれていたら…」
今度は心底悔しそうに、ローズがそんな訳の分からない事を言いだした。
「僕と兄上はよく似ているよ。それに僕は、そこまで謙虚じゃないしね」
「そうですか?私にはそうは見えませんが…」
コテンと首をかしげる姿も、また可愛いな…て、僕は一体何を考えているんだ。
「とにかく、明日街に行く件は僕から話しておくよ。さあ、そろそろ帰ろうか」
「そうですわね。それでは、失礼いたします」
ペコリと頭を下げ、去っていくローズ。そんな彼女の後姿を、じっと見つめる。
翌日、嬉しそうにお店を案内するローズ。ティーナも嬉しそうにお店に入って行く。そんな2人を、ジト目で睨む兄上。なんだかこの光景も随分見慣れたな。
ここでも2人で苺のスイーツをシェアしながら、楽しそうに食べているローズとティーナ。すかさず間に入り、ティーナを奪い取りいちゃつく兄上。そんな2人を、ジト目で睨むローズ。
少し前の僕なら、ティーナと兄上がいちゃつく姿を見たら、胸が締め付けられる程辛かった。でも今は…なぜだろう、自分でもびっくりするくらい穏やかな気持ちでいられる。
「もう、すぐにグラス様はティーナ様とイチャつくのだから」
すかさずローズが文句を言っている。
「僕たちは婚約者なんだ。これくらい普通だ。君もアデルといちゃ付けばいいだろう?」
そう言い返され、悔しそうにローズが唇を噛んでいる。その姿を見ていると、つい笑いがこみ上げてきて笑ってしまう。そんな僕を見て、3人がキョトンとしている。
「アデル様、急に笑い出してどうされたのですか?」
何が起こったのか分からないと言った表情のローズ。
「イヤ…兄上とローズは相変わらず仲が良くないなと思ったら、急におかしくなって」
「確かにローズ様とグラスはあまり仲が良くない様ですわね」
そう言って、ティーナも笑い始めた。
「もう、グラス様のせいで笑われてしまったではありませんか?」
「君が僕に文句を言うからだろう?」
また2人の喧嘩が始まった。
「ほら、ローズ、兄上と喧嘩ばかりしていないで、苺のスイーツを食べたらどうだい?これを食べるのを楽しみにしてきたのだろう?」
「そうでしたわ。ティーナ様、この苺のゼリー、美味しいですわよ。はい、アーン」
「おい、ティーナに食べさせるのは僕の役割だ。君はアデルにアーンさせればいいだろう」
「もう、グラス様は本当に嫉妬深くて嫌になりますわ…アデル様、この苺のゼリー、甘さ控えめで美味しいですわ。こっちの苺のムースも」
すかさず僕に苺のスイーツをすすめてくれた。きっと兄上が事あるごとに絡んでくるから、面倒くさくなったのだろう。
「ありがとう、早速頂くよ」
ローズのお陰で、いつの間にか心穏やかに過ごせるようになった。彼女には、本当に感謝している。これからもずっと、彼女と一緒にいられたら…て、僕は一体何を考えているのだろう。
僕が愛しているのは、ティーナただ1人。ローズはただの協力者だ。そう、ただの協力者なのだから…
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