第15話 ティーナ様のお宅に遊びに行きました
アデル様と契約で付き合い始めて、3ヶ月が過ぎた。あの日以降、アデル様は随分と私を気に掛けてくれている事もあり、すっかり嫌がらせは無くなった。
ただ…
数名の令嬢が退学処分になったのは、致し方ない。
最初はぎこちなかった私たちだったが、3ヶ月も恋人役をやっていることもあり、随分慣れてきた。この3ヶ月で一番変わった事と言えば、アデル様が私の事を“ローズ”と呼び捨てで呼ぶ様になった事だ。
ただ、ティーナ様が「付き合っているのに“嬢”呼びはおかしいのではなくって?」といった為、アデル様は私の事を呼び捨てする様になったのだが。それでも私は、アデル様に呼び捨てで呼んでもらえることが、嬉しくてたまらない。
そうそうこの3ヶ月で、ティーナ様と街に5回行った。一緒にショッピングをしたり、お揃いのブレスレットを買ったりもした。人気のケーキ屋さんにも行って、美味しいケーキをシェアしながら食べたりと、本当に楽しく過ごしている。
ただ…
相変わらず4人でないと出かける事を許してくれないグラス様。本当に嫉妬深い男はイヤだわ。それもどうやら私にまで嫉妬している様で、私が少しでもティーナ様の手を引いてどこかに行こうとすると、すぐに奪い返しに来るのだ。
本当にこの男は…
とにかく私はティーナ様と2人で、令嬢トークをしたい。そんな思いから、根気強くグラス様を説得した。そしてやっと今日、ティーナ様の家に遊びに行く事が許されたのだ。
ただ、2時間だけという期限付きではあるが、それでも2人きりで話が出来るのは嬉しくてたまらない。
でもあの男、盗聴器とか仕掛けてそうなのよね。だから、盗聴を防止する機械を密かに取り寄せた。これで盗み聞きされる心配はない。カバンの中にしっかりと盗聴防止の機械を入れた。
さらに料理長お手製のお菓子を持ち、馬車に乗り込む。向った先は、もちろんティーナ様のお宅。元公爵家という事もあり、ものすごく立派な建屋だ。門番に伝えると、すぐに玄関の方に案内してくれた。
こんな立派なお宅にお邪魔するなんて、なんだか緊張するわ。それに、ティーナ様のご両親に受け入れられるかしら?我が家の評判はあまり宜しくないし…
不安を抱えながら玄関に向かう。すると…
「ローズ様、お待ちしておりましたわ」
満面の笑みで私の方にやって来るティーナ様。後ろにはティーナ様のご両親と、お兄様もいらっしゃる。それにしても、皆美男美女揃いね…本当に同じ人間とは思えない程、皆様お美しいお顔をしていらっしゃるわ…
「ローズ・スターレス嬢だね。娘から話しは聞いているよ。娘の友達になってくれて、本当にありがとう。君と出会ってから、娘は見違える様に元気になってね。毎日の学院生活が、楽しくてたまらない様なんだ。どうか今日はゆっくりして行って欲しい」
私に話しかけてきたのは、ティーナ様のお父様だ。どうやら私、歓迎してもらえている様ね。
「こちらこそ、ティーナ様のお陰で、毎日充実した日々を送らせていただいておりますわ。あの、これは家の料理長が作りましたの。どうぞ皆様で召し上がってください」
「まあ、わざわざありがとう。さあ、中に入って、ゆっくりしていってね」
ティーナ様のお母様が優しく微笑んでくれた。
「さあ、ローズ様、早速お茶にしましょう。2時間しかないのですもの、時間がもったいないわ」
私の手を引き、部屋に案内してくれるティーナ様。案内されたのは、これまた立派な客間だ。メイドがお茶とお菓子を準備してくれた。
「なんだかローズ様と2人きりでお話するなんて、入学式以来ですわね。私、この日を楽しみにしていたのですわ」
「私もですわ、いつもはグラス様やアデル様がいらっしゃるから。恋のお話とかできなかったでしょう?今日は時間が許す限り、たくさんお話しましょうね。そうそう、盗み聞きされては困りますから、これを」
すかさずカバンから盗聴防止の機械を取り出し、セットした。
「ローズ様、その機械は?」
「盗聴防止の機械ですわ。ほら、グラス様は異常なくらい嫉妬深いでしょう?だからきっと、どこかに盗聴器を設置しているのではないかと思いまして。例えば、ティーナ様が付けているネックレスやイヤリングとか…」
ティーナ様はいつもグラス様の瞳の色でもある、サファイアのイヤリングとネックレスを付けている。なんとなくあのアクセサリーに、盗聴器が仕掛けられているのではないかと思ったのだ。
「ローズ様、あなた様はどこかの組織の人間なのですか?そうです、このアクセサリーには、録音機能や居場所が特定できる機能が備わっているのです」
やっぱり…
だからグラス様は入学式の時、私とティーナ様の会話を知っていたのね。でも、いくら婚約者とはいえ、そんな機能が付いたアクセサリーを付けさせるなんて、さすがにドン引きだわ…
「あの…ティーナ様、ここまで束縛されて、ティーナ様はイヤではないのですか?あっ、安心してください、盗聴機能を防止しているので、今話している内容はグラス様には聞こえませんので」
「私は…確かに最初はイヤでした。でも、それだけグラスが私を心配し、大切にしてくれているという事なので…私は少し嫉妬深くて心配性なグラスが、大好きです。だからローズ様、どうかグラスを受け入れてあげて欲しいです」
頬を赤らめ、恥ずかしそうにそう言ったティーナ様。
えぇぇぇ!それは本当ですか!
というのが私の正直な気持ちだが、ティーナ様がそこまでグラス様を受け入れているなら、私がどうこう言う事は出来ない。でも、ここまで相思相愛だと、アデル様が入り込む隙はなさそうね。
「ティーナ様、ちなみにアデル様の事は…」
「アデル?そうね、可愛い弟ってところかしら?ねえ、ローズ様、アデルはね、少し鈍いところがあるのです。それに、なぜか自分の気持ちに蓋をしてしまうところがあって。自分が我慢すればいいっていう思いが強いみたいで…ローズ様、どうかアデルの事、捨てないであげて下さい。お願いします」
ティーナ様は何を言っているの?アデル様はあなたの事が好きなのに…でも確かに、アデル様は自分が我慢すればいいと考えているところがあるのも事実。
ティーナ様は、意外とアデル様の事を見ているのね…
おっと、一応私はアデル様の恋人なのだった。
「ティーナ様、私はアデル様が大好きです。弱いものに寄り添い、誰かの事を考え行動できるアデル様が。私にアデル様を支えられるか分かりませんが、精一杯務めさせていただきますわ」
そう、私はアデル様が大好きだ。一緒に過ごすうちに、この気持ちはどんどん大きくなっていく。
「ローズ様、ありがとうございます。アデルもきっと…」
「ティーナ!!!」
えっ?
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