第7話 何か出来る事はないだろうか
楽しい時間はあっという間に過ぎるもの。気が付くと夕方になっていた。
「ローズ様、今日はとても楽しかったですわ。これほどまでに楽しい時間は、生まれて初めてです」
「こちらこそ、とても素敵な時間をありがとうございました。私たちはもう友達なのです。また一緒に街に出ましょうね。街にはまだまだ色々なお店や楽しい事がたくさんありますわ」
「はい、ありがとうございます」
それはそれは嬉しそうに微笑むティーナ様。そんなティーナ様を見つめるアデル様も、嬉しそうだ。
「それでは私はこれで」
3人に頭を下げ、私を迎えに来ていた馬車へと乗り込む。なぜか私の馬車が動き出してからも、ティーナ様は馬車に乗り込まず、ずっと手を振り続けてくれている。そんなティーナ様に、私も手を振り返した。
よほど今日のお出かけが楽しかったのだろう。目を輝かせて、ブンブン手を振っているのだ。本当にティーナ様は、分かりやすいわ。彼女は見た目が美しいだけでなく、性格もとても可愛らしい。グラス様やアデル様が夢中になるのもうなずける。
私自身、今日初めてティーナ様と仲良くなったけれど、もうすっかりティーナ様の虜になってしまったものね。彼女ともこれから楽しい時間を共に過ごしたい。正直にそう思っている。
たとえティーナ様が、アデル様の思い人だったとしてもだ。
そもそも、私はアデル様とどうこうなりたいなんて、そんな恐れ多い事は考えていない。ただ、アデル様が幸せでいてくれたら、それで十分私も幸せなのだ。
だから…
たとえアデル様の気持ちがティーナ様に届かなかったとしても、それでも彼が少しでも心穏やかに過ごしてもらえる様、私に出来る事はやりたいと思っている。
と言っても、私に何が出来るのだろう…
そんな事を考えながら、家に着いた。相変わらず両親はいない。いるのは使用人だけだ。でも、もうこの生活にもすっかり慣れている。さっさと着替えを済ませ、夕食を食べると自分の部屋へと戻ってきた。そして湯あみをし、ベッドに入る。
瞳を閉じると、今日の出来事を思い出す。
まさかティーナ様とお友達になれるなんて、そしてアデル様と一緒に食事や買い物まで楽しむことが出来た。もちろん、アデル様は私なんか眼中にない。彼の瞳には、ずっとティーナ様が映っていたのだから。
それでも今日、アデル様と一緒の空間にいられたことは、幸せ以外何物でもなかった。それに、ティーナ様、可愛かったな…
ただ…グラス様はちょっと嫉妬深くて嫌ね…
今日は本当に楽しかったわ。そうだ、今日の事、カルミアやファリサにも話さないと。それに、明日もまたティーナ様とお話が出来ると嬉しいな。
そんな事を考えながら、私は眠りについたのであった。
翌日
今日から本格的に学院生活が始まる。今日もティーナ様とお話しできると嬉しいな、そんな事を考えながら、馬車へと乗り込んだ。
学院に着くと、すぐに私を見つけ飛んできてくれたのは、なんとティーナ様だ。
「ローズ様、おはようございます。昨日はありがとうございました。とても楽しかったですわ。あの…もしよろしければ、今日のお昼、一緒に食べませんか?」
どうやら校門の前で私を待っていてくれた様だ。後ろにはグラス様とアデル様もいる。
「おはようございます、ティーナ様。こちらこそ、ありがとうございました。私でよろしければ、よろこんで」
「本当ですか?嬉しいです。それではお昼、テラスでお待ちしておりますね」
嬉しそうに去っていくティーナ様。本当に可愛らしい子だわ。そんな私の元に近づいてきたのは、なんとアデル様だ。
「あの…ローズ嬢。ティーナと友達になってくれて、本当にありがとう。ティーナはなぜか、子供の頃から令嬢に嫌われていて…中々友達が出来なかったんだ。昨日も君の事を嬉しそうに話していたよ」
アデル様は、ティーナ様の事を本当に大切に思っているのだろう。わざわざ私にお礼を言ってくるだなんて…
「こちらこそ、ティーナ様のお陰で楽しい時間を過ごせましたわ。ティーナ様は見た目が美しいだけでなく、性格も本当に可愛らしい方ですね。彼女といると、なんだか心が温かくなりますわ」
「そうだね、ティーナは本当に純粋で汚れを知らないんだ。だから…僕たちが守ってあげないと!という思いが強くてね。特に兄上はティーナを大切にするあまり、縛り付けてしまっているんだ」
「ええ…その様ですわね。昨日話をしていて、私もそう感じましたわ。それにしても、アデル様はティーナ様を、とても大切に思っていらっしゃるのですね」
私の言葉を聞き、大きく目を見開いたアデル様。あら?さすがにこれは言ってはいけない言葉だったかしら?
「あ…あの…そういう意味ではなくて…」
ふと周りを見渡すと、たくさんの生徒たちが、こちらに注目していた。ここでアデル様が、ティーナ様を好きだという事がバレたら大変だわ。適当にごかまして、この場を去ろう。
「そういえば、ティーナ様とアデル様は幼馴染ですものね。幼馴染を心配するのは当然ですわ。それでは、私はこれで失礼いたします」
ペコリとアデル様に頭を下げ、そのまま急いで教室へと向かったのであった。
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