第3話 ティーナ様を助けました
この日は学院生活に関する先生のお話を、1時間ほど聞いて解散になった。
「それじゃあローズ、また明日ね」
「ええ、また明日」
友人たちに別れを告げ、そのまま校門へと向かおうと思ったのだが、せっかくなので、学院内を見学しようと思い、おもむろに歩き始めた。
セントラル学院って本当に広いのね。そんな事を考えながら歩いていると…
「ティーナ様は本当に羨ましいですわ。いつもグラス様に守られていて」
「そうですわよね。そのウルウルした瞳で見つめられたら、どんな男もイチコロですわよね。それで、どうやって私の彼に手を出したのですか?」
「あの…私は…」
どうやら令嬢たちが話をしている様だ。気になって声の方に向かうと、令嬢4人がティーナ様を取り囲んでいた。今にも泣きそうなティーナ様。これはもしかして、虐められている?
再び耳を澄ませると…
「そんなつもりはありませんわ!とでも言いたいのですか?それならどうして、ディスティンが急に私に“好きな人が出来た、別れてくれ”なんて言ってくるのかしら。あなたがディスティンに色目を使った事、私は知っているのよ」
「グラス様だけでは飽き足らず、ディスティン様にまで色目を使うだなんて。そういえば私たち令嬢とは、一切お話をされませんものね。もしかして、殿方としか話したくないという事でしょうか」
「そんな…わ…私は人見知りが激しくて…ほ…本当は皆様とも仲良くしたいと思っている…」
「言い訳は結構ですわ。とにかく、これ以上私たちの彼を奪うのは止めて頂けますか?本当に迷惑ですわ」
ティーナ様に詰め寄る令嬢たち。ついにティーナ様の美しい瞳から、涙が流れた。あれほどにお美しい令嬢を泣かすだなんて。それに、寄ってたかって令嬢に言いがかりをつけ、相手の言い分も聞かないなんて!5年前、私の訴えを誰も聞いてくれなかった時の記憶が蘇り、言いようのない怒りがこみ上げてきた。ここは私が助けないと!
「先生、こっちです。令嬢たちが喧嘩をしておりますわ」
あたかも先生を呼んできた風を装い、大声をあげながら彼女たちの元に近づいていく。すると
「何なのよ、あの子…とにかく、これ以上私たちの彼に近づかないで頂戴!」
そう吐き捨て、令嬢たちは去って行った。
その場に座り込み、涙を流すティーナ様に駆け寄った。
「大丈夫ですか?」
恐る恐る声を掛け、ハンカチを渡した。ティーナ様はあまり性格が良くないという噂を聞く。特に令嬢には興味がない様で、目も合わさず挨拶をしても無視されると聞いたことがある。
それでもどうしても、彼女を放っておくことが出来なかったのだ。すると
「あの…あ…ありがとうございます…」
ハンカチを受け取ると、そのまま俯いてしまった。もしかして、迷惑だったかしら?そう思ったものの、かすかに震えているのを感じた。もしかして、怖がられているのかしら?
「私はローズ・スターレスと申します。ティーナ様ですよね。あの令嬢たちに、酷い事を言われていた様ですが、大丈夫ですか?」
彼女の隣に座り、極力優しい口調で話しかけた。
「あ…はい。あ…あの…お助けいただいて…ありがとうございます…私、極度の人見知りで…特に令嬢とお話するのが…苦手で…でも、だからと言って、話すのが嫌という訳ではないのです!」
どうやら彼女は、令嬢が苦手?な様だ。必死に訴えてくるティーナ様、この人、とっても可愛い人ね。そう思ったら、なんだか笑いがこみ上げてきた。
急に私が笑ったものだから、ティーナ様がキョトンとしている。
「ごめんなさい、私、ティーナ様の様な令嬢は初めてお会いしたので。なんだか新鮮ですわ」
「ローズ様は…その…私とお話するのはイヤではないのですか?私、どうやら令嬢に嫌われるタイプの様で…」
「あら、あなた様の様なお可愛らしい方を、嫌いになる令嬢がいるのですか?皆様随分と変わっていらっしゃるのですね」
こんなにも可愛らしい令嬢を嫌いになるなんて、私ならぜひ友達になりたいわ。それに何より、この人は庇護欲をそそるのよね。
「私…なぜか令息に気に入られてしまう事が多くて…それが気に入らない様なのです…でも私は、決して他の殿方に色目など使っておりません。私は、グラス一筋ですわ。それに令息よりも、令嬢の方々と仲良くなりたいのです…でも、中々うまく行かなくて…」
女神の様に美しいティーナ様、他の令息が好きになるのも無理はない。私はティーナ様の美しさが羨ましいとさえ思うが、美しすぎるという事も悩ましい事なのね。
「ティーナ様、もしよろしければ、私とお友達になってくださいませんか?私、今日セントラル学院に入学したばかりなのですが、たくさんお友達を作りたいと思っていたのです」
こんなにも美しい方とお友達になれたら嬉しい、素直にそう思ったのだ。
「あの…私なんかでよろしいのですか?私は口下手ですし…それに…」
「私はティーナ様とお友達になりたいと思いますわ。もちろん、ティーナ様さえよければですが」
「私でよければ、よろしくお願いします」
パッと顔をあげ、嬉しそうにティーナ様が笑った。その顔を見たら、なんだか私も嬉しくなった。
こうして私とティーナ様は、友達になったのだった。
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