31 破壊された会場

 今しがた、リフェルが何かの魔法を発動させた。


 するとその直後、盛り上がっていたメインオークションは勿論、地下に存在するこのフランクゲートと呼ばれる会場全てから人が消え去った――。


「完了デス。もう誰もいマセンから部屋に入って救出しまショウ」


 リフェルはそう言い、どんどん歩いて行ってしまった。


「マジで誰もいない……?」

「だろうな……。この部屋以外からは1つも魔力を感知出来ない。どんな魔法を使えばこれだけの人数を一瞬で……」

「静かすぎて耳鳴り聞こえるわ俺」

「何をしているのデスか! 早く動きなサイ」


 その声でハッとした俺達は、困惑しながらも囚われた者達の救出に向かった。



♢♦♢



~フランクゲート・ステージ裏の部屋~


 華やかで上品な清潔感のある表とは一変。


 部屋の扉を開けた瞬間、俺の視界にはリバース・オークションと呼ばれる闇の実態全てを現しているかの様な無情な光景が飛び込んできた――。


「これは……!」


 目の前には人間やモンスターが閉じ込められている檻が幾つも連なっている。


「売られるのは嫌だ……」

「ここから出してくれッ! 頼む!」

「ギィー!ギィー!ギィー!」

「……」

「何だ⁉ 急に人がいなくなったぞ⁉」

「グウゥゥ……!」


 リバース・オークション……。まさかここまでのものだったとは……。


 生きた人間やモンスターは勿論、大きな台には何やら箱や瓶や包みが所狭しと置かれていた。

 

 そこには得体の知れない変な色をした液体が入った瓶やモンスターと見られる毛皮や体の一部。他にも目玉、心臓、肝臓、人肉、前脚部、牙、睾丸などなど……目を背けたくなる様な文字が書かれた箱や包みが大量に存在している。


「これはスノーフォックスの脚……。こっちはオークの頭、それとリザードマンの尻尾にハーピィの翼まで……」

 

 同じモンスター達のあられもない姿を見るアクルの後姿は、とても悲しそうで、俺と初めて出会った時以上の憤りが伝わってきた。


「ひでぇ事しやがる……。こんなものが日常的に行わていたと思うと吐き気がするぜ……」

「ココで哀れんでも仕方ありマセン。誰も生き返らないのデスから。ソレよりも救える者ヲ優先し、今後コノ様な事態を起こさナイのが先決なのデス」


 この一言を聞いた瞬間。俺はリフェルに対してふと冷めた感情が湧いてしまった。


 リフェルの言う事は確かに正論。今俺達がこの状況を例え哀れみ同情したとしても、失った命1つ戻す事など出来やしないからな。

 

 それにリフェルはアンドロイド。幾ら人間と変わらないと言っても所詮は機械だ。決してリフェルが悪い訳じゃない。コイツに冷たいと思う事自体がそもそもお門違だからな。リフェルは“何も感じずに”ただ思った事を言っているだけ。


 そうとは分かって分かっている筈なのに、時折垣間見えるリフェルの“人間らしさ”が、ついそんな事を忘れさせる――。


「リフェル……。お前の魔法でまだ生きている人間や獣人族、モンスター達を元の場所に帰してやってくれ。怪我してる奴もいるからそれも治してな」

「分かりマシタ。ソレが終わったらさっさとコノ会場潰しマスよ」

「それは待ってくれ」

「何故デス?」

「いいから会場はそのままにしとけ。それより早くコイツら頼む」


 リフェルは少し不思議そうな表情で俺を見ていたが、捕まっていた連中を魔法で元の場所へと帰した。


「よし、これで誰もいねぇな」


 部屋には俺達以外いなくなり、静かな広い空間と、どうすることも出来ない“遺産”だけが台の上に残っていた。


「お前も“やる”だろ?」


 アクルの背中をポンっと叩いて俺は言った。

 

 振り返って俺を見たアクルは一瞬首を傾げたが、直ぐに俺の言いたいことを察してくれた様だ。


「そう言う事か。当たり前だ! やはりクソな人間共は許せん。それに獣人族や他の種族の奴らも……こんなものに参加している奴ら全てを殺してやりたい……!」

「そうだよな……。おい、リフェル。アクルを元のサイズに戻してやってくれ」

「イイですよ」


 魔法を解かれたアクルはどんどん大きく元のサイズへと戻った。


 そして……。

 誰の合図も無く、俺とアクルは無人となったフランクゲートを破壊した――。


「オラぁぁぁぁッ!!」

「ヴオォォォォッ!!」


 ――ズガンッ! ズガンッ!


 リフェルの魔法ならこんな事一瞬で終わる。

 だがそう言う問題ではない。


 目の前で行われていた無情な行いの数々。


 思っていた以上の強大な闇を前に、俺は満月龍と対峙した時と同じぐらい自分の無力さに腹が立った。


 きっとアクルも同じ様な気持ちだろう。


 感情に任せて暴れたところで何の解決にもならない。


 そんな事は十二分に分かっている。分かっているが、今はこの行き場のモヤモヤをただ目の前の壁にぶつける事しか出来ねぇんだ。


 ――ズガァンッ! ドンッ! ボカァンッ! ドガンッ!


「余りに非効率的な潰し方デスね。理解出来マセン」


 会場を壊しまくる俺とアクルに呆れたリフェルは、それ以上言葉を発さなかった。


「――ウラぁぁッ!!」

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