24 紅鏡龍(ルソールドラゴン)
「初めに言っておくが、オラも満月龍の確実な居所は分からない。生物だから当然動き回るしドラゴンの飛行能力を持ってすれば、その範囲は世界中と言っていい」
「私は既に範囲を絞っていマスがね」
「うるせぇな。少し静かにしてろ」
どこで張り合おうとしてるんだよコイツ。
「そもそも……この世界の魔力の根源は“世界樹エデン”――。
オラ達カムナ族が、生物の中で1番最初に魔力を宿した始まりの種族と言われている。そしてオラの遠い先祖が誕生してから数十年後に姿を現したのが
今現在、人間を含めた全種族の頂点に立つのは間違いなくドラゴン。勿論、ドラゴンの種類や個体によって強さは様々だから一概に言い切れないが、基本的にその強さは他の種族より高い。そしてそんなドラゴン達の中でも満月龍はまた異質。ドラゴンの中でも更に頂点に立つ存在だ。
何万年、何億年と月日が流れる中で、それこそ世界中に存在する魔力の量や種類も多岐に渡るが、オラ達カムナ族と満月龍は世界樹エデンの魔力濃度が濃い。種族の中の頂点がドラゴンならば、全魔力の頂点は当然の如く世界樹エデンの魔力となる。他はあくまで長い月日によって少しづつ変化していった派生に過ぎん」
世界樹エデン。
俺も実際には見た事ねぇが、それこそ危険領域に指定されている場所で大昔に確認された樹だよな。その名前や存在は当たり前の様に皆が知っているし、寧ろ満月龍の存在の方が幻に近い。そっちは実際に見たけど。
「って事はつまり……種族としても魔力の強さも両方がトップと……?」
「結果そう言う事になる。見つけるのも難しい挙句、その上倒すなんて“ほぼ不可能”だ」
アクルのその言葉に少しだけ引っ掛かった。
「“ほぼ”って事は、何かしら方法があるのか?」
「ああ。オラの知る限りでもその1つだけ。満月龍を倒すには、奴と対の存在である“
紅鏡龍……?
恐らく自分の人生で初めて聞く名であろうドラゴンの名。一瞬にして頭の中は混乱に陥ったが、俺が驚いたのはそのドラゴンの名前よりも、満月龍と“対の存在”であるというアクルの言葉。
「ソレは不可能デス。私のデータでは、既に紅境龍はコノ世に存在していマセン。今から1300年以上前に存在ガ消されていマス」
「紅鏡龍の存在も知っていたか。紅鏡龍と満月龍はこの世界に同時に誕生した最も古いドラゴンであり、今お前が言った様に紅鏡龍はもうこの世に存在しない」
「ちょっと待て。ゆっくりいこうか」
「ジンフリーの脳みそがキャパオーバーしまシタ。アクル、申し訳ありマセンがジンフリーが理解スルまで少々お付き合い願いマス」
「俺の脳のキャパまでデータしてるのかお前。本当に失礼だな」
「クレームはDr.カガクにお願いしマス」
「もういいや……。それよりアクルよ、話を遮って悪いがその紅鏡龍ってドラゴンは一体何なんだ? そいつが満月龍を倒す唯一の方法らしいのに、もう存在しないって……」
「言った通りだ。紅鏡龍は1300年以上前に倒されたのさ。人間によってな」
「――⁉」
「オラも初めてそれを知った時はまさかと疑ったが、その歴史は事実だった。間違っても紅鏡龍が弱い訳ではない。お前は知っているであろうが、その強さは満月龍と同等。
幾ら人間が束になったところで紅鏡龍を倒すどころかかすり傷1つ付けるのも困難。しかも今の人間よりもまだ魔力が低い時代にも関わらず、たった2人の人間が紅鏡龍を倒したのだ」
あんな化け物を本当に倒しただと……⁉
しかも俺と同じただの人間が2人だけで……。
「おい……ソイツらはどうやってあんな化け物を……」
「人間には魂力が存在するだろう。それは唯一、世界樹エデンの魔力からの派生ではなく、人間と言う種族のみが自ら生み出した生命エネルギーだ。魔力とよく似た存在であるがそれは全くの別物。そして一般的にこの魂力というのは魔力よりも劣る力だと認識されている。
だがこれは間違いだ――。
間違いと言うより、魔力という何億年の歴史に比べ、魂力の歴史はまだかなり浅い。今から約2000年前に生まれた力だそうだが、世界は言わずもがな大魔力文明。人間達は魔力よりも扱える幅が少ない魂力には特に目を向けなかったそうだ。
紅鏡龍を倒したとされるその2人を除いてな。「名前はバン・ショウ・“ドミナトル”とローゼン・シンラー。この者達が紅鏡龍を倒したのデス」
自身のデータに入っていたのだろうか、リフェルがアクルに張り合おうと食い気味に口を挟んだ。
何度も言うが別に張り合うところではない。
それに話が進めば進む程気になる事が次々と……。
「なぁリフェル、ドミナトルって……」
「そうデス。彼、バン・ショウ・ドミナトルは、アナタの先祖になりマス」
それを聞いた俺は勿論、アクルも驚いていた。
「なんと……お前紅鏡龍を倒した人間の末裔だったのか?」
「俺も今初めて知ったよ。何でそんな大事な事黙ってたんだリフェル」
「聞かれてイマせんカラね」
コイツ……!
「普通言うだろ」
「私ハ満月龍討伐の為二造られたアンドロイド。ソレに関係ナイ事をわざわざ言マセン。時間の無駄デス」
「関係大ありじゃねぇかよ」
「ハイ。でもソレはアクルからの情報ヲ得てたった今更新シタからデス。このデータが満月龍と繋ガルと今分かりマシタので」
「賢いのか融通が利かんのか分からん機械だ」
「全くだぜ」
「ブツブツ言っている暇はありマセン。話を戻しマスよ」
仕切るリフェルに対し、気が付けば俺とアクルは目を合わせ小さく溜息を付いていた。
「――どこまで話したか?」
「その2人が紅鏡龍を倒したってとこ」
「ああ、そうだったな。結局何が言いたいのかと言うと、お前達が偶然にも手に入れたその満月龍の魔力。それをアンドロイドとかいうお前の力で、あの満月龍本体よりも魔力を増幅させているという事には確かに驚かされた。だが“それ”では絶対に奴は倒せん。
何故ならば、紅鏡龍と満月龍は互いが対となる存在。つまりそれぞれが互いの力でのみ初めてダメージとなる。分かりやすく言うならば、紅鏡龍を倒すには満月龍の力で、満月龍を倒すならば紅鏡龍の力で攻撃しなければ、ダメージを与えられない。
更に言うと、満月龍に対してその満月龍の魔力はダメージを負わせるどころか逆に奴を回復させてしまうだけだ――」
アクルのその言葉を聞いた瞬間、俺の思考は完全に停止した。
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