15 再出発①

 ♢♦♢


~ユナダス王国・城~


「――今回の件について、直接話し合いの場を設けてくれた事誠に感謝する。バレス国王」

「そんなにかしこまらんでくれフリーデン国王や」


 リューテンブルグ王国とユナダス王国の距離はざっと3000㎞弱。

 無事アンドロイドを起動させた俺達は、フリーデン様と共にユナダス王国へと訪れていた。


 広い部屋の1番奥に座るユナダス王国のバレス国王。その直ぐ周りや部屋の外には何十人もの護衛騎士団員がいる。そのバレス国王と向かい合う様に座りながら話すフリーデン様。そしてそんなフリーデン様の後ろに俺とエド、そしてアンドロイドがいた。


「バレス・ヒブラシア・ナール。年齢90歳。ユナダス王国の第54代国王デス」

「静かにしてろ」


 世界一の技術力とは言えやはり機械。俺以上に空気を読めねぇみたいだな。性能が良いのか悪いのかホント分からんぜ。


「それが噂のアンドロイドか。いやはや……リューテンブルグ王国の科学技術には本当に驚かされる。……もう彼女の中には満月龍の魔力が?」

「ああ。先程魔力を取り込み終えたばかりじゃ。長年の研究と偶然の賜物で何とかここまでに」

「成程の。遠路はるばる足を運んでもらって申し訳なかったな。お互いに積もる話があるとは思うが、今回ばかりは本題のみという事で宜しいですかな?」


 フリーデン様に近い雰囲気。穏やかで優しいそうだと思ったのがバレス国王の第一印象。


 だが、その温和な話し方から一変。最後の言葉を口にした時のバレス国王の表情はとても険しく、一瞬にして場が殺伐とした空気に変わった。しかしこの緊迫した状況でもフリーデン様だけは冷静であった。


「そうじゃ。今日わざわざ足を運んだのは他でもないこの満月龍の魔力の件。今私達が向かおうとしている方向は誰1人として望んでおらぬ道ではないかのバレス国王」

「それは仰る通りでずフリーデン国王。ですが、今回の件に関しましては異例中の異例。あの終焉をもたらすと言われる幻の満月龍の力をまさか手にしていた事も驚きだが、それを更にリューテンブルグ王国の科学技術力で自分達の物にしようとしていると聞けば誰もが恐怖で身が震えるとは思いませぬか?

それも5年近く秘密裏となればこちらも身構えない訳にはいきません。私は何よりも先ずユナダス王国の人々を守る立場ですから」

「確かにごもっともな意見じゃ。気を遣ったつもりが逆に其方達を不安にさせこのような結果になってしまった事誠に申し訳ない。

だが何度もしつこく言わせてもらうが、我々はこの力を絶対にユナダス王国は疎か虫1匹相手にも使うつもりはない。これは5年前の悲劇を……多くの者が犠牲になったあの絶望を2度と生ませない為の力なのじゃ」


 リューテンブルグ王国の人々ならばこの言葉で納得する。多くの者が被害者であるし、それを目の当たりにした者もまた多いから。例えリューテンブルグ王国以外の人々だとしてもあの悲惨さは世界中に伝わっている。満月龍に襲われたリューテンブルグ王国が“この発想”に辿り着くのは何よりも自然な事だ。


 でも、やはり物事と言うのは決して自分が見ている1面だけでは無い。大勢の者があらゆる位置でそれぞれの見方をする。そこには当然規則やルールは存在しない。誰が正解な訳でもなく誰が不正解な訳でもない。環境や立場が違えば考え方や意見も変わる。今起こっているのはただそれだけの事なんだ――。


「……フリーデン国王。当然の如くそれは承知している。長い歴史の中で、ユナダス王国とリューテンブルグ王国が今日まで友好関係を築けてこられたのも、ここまでお互いに歩み寄り支え合ってきた結果だと私は思っている。そして両国の関係を今は勿論、これから何十年何百年先へも続けていきたいとな」

「勿論じゃ。我々が争った所で何もッ……「――しかし、その関係もどうやら此処までの様ですなフリーデン国王」


 フリーデン様の言葉を遮り、バレス国王はそう言い切った。


「なッ、どういう事じゃバレス国王……!」

「当たり前ですよ。満月龍の力など最早世界を揺るがす存在。そんな力を誇示しておきながら絶対に使わない等まるで説得力がない。いつ掌を返されるか分かりませぬからな」


 争いを望んでいる訳じゃねぇがバレス国王のいう事も一理ある。使い方によってはこの上ない化学兵器だからな。そんな物を持っている俺達が何を言っても所詮は綺麗事で終わるだろう。他国がリューテンブルグ王国を危険とみなすのも頷ける。立場が逆ならどうだって話だ。


「確かに説得力は無いかもしれぬ。だが我々は絶対にそんな事はせん! 信用出来ぬならばどんな条件でも申してくれ。私の命を懸けても構わぬ。ユナダス王国が納得出来る条件ならば我々は何でも受けいれよう」

「そうか……では――」


 ――グアァァンッ!

「……⁉」

「フ、フリーデン様!」


 この言葉が合図かの如く、突如何者かの魔法によってフリーデン様の体が拘束された――。


「ヌハハハハハ! フリーデン国王、ならば貴様の言う通り“どんな条件”でも受け入れてもらおうか!」

「全員動くな!」


 続け様、部屋にいたユナダス王国の騎士団員達が俺達に剣の切っ先を向けながらそう言ってきた。俺とエドは仕方なく両手を挙げ争う意志が無い事を示す。


「不審な動きをしたらフリーデン国王の命は保証しないぞ」

「動かねぇよ。俺達は争いに来た訳じゃねぇ」

「そうだ。直ぐにフリーデン様の拘束を解いてもらおう」


 やはり事態は深刻だったか。深刻と言うよりもう手遅れだな。


「フリーデン国王。手荒な事をしてすまない。しかし何時その満月龍の力を向けられるか分からぬのでな」

「……別に構わぬ。だがこれで少しは理解してくれたかの。私達は絶対満月龍の力を其方達に向けん。脅す事も一切しない」

「まだ話し合いで解決をお望みですかな? もうこの問題は誰が何を言っても解決にならぬ。あるとすれば方法は1つ。今あなたが口にした様にこちらの条件を飲んで頂く。本当に力を使う気が無いのであれば行動で示して頂きたい」

「良かろう。どんな要望が望みじゃ」

「我々ユナダス王国に満月龍の力を渡して頂きたい」


 バレス国王の申し出に俺達は皆驚きを隠せなかった。


「どうしました? どんな条件でも受け入れてくれるのでしょう。ならばその力を渡して下されフリーデン国王」


 ここまでだ――。

 もうこれ以上は“話し合い”にならねぇ。どうする……? どうにかフリーデン様の拘束を解かない事には強硬手段も取れねぇ。エドも同じ様な事を考えているのか、静かに俺の方へ視線を送ってきた。


「さぁ早く答えを。まさかこの条件を受けられないなんて仰いませんよね!」

「それ以外納得する術は無いと?」

「ええ。最早存在が脅威ですから、ユナダス王国に渡すかもしくはその力を完全に抹消するか……。ですが後者はお勧めできませぬな。満月龍の魔力を手にするなどこの先も到底出来ぬ奇跡だ。条件が飲めないのであれば我々はどんなやり方でもその力を奪わせて貰う――」


 ユナダス王国の、バレス国王の本性が現れた。

 

 偽りのない言葉。


 満月龍の力を手にする為なら本当に手段は選ばないという意思表示が嫌と言う程伝わってくる。


 俺達を取り囲むユナダスの騎士団員達も一気に魔力を練り上げ始めた。


 もう脅しと言うレベルではない。バレス国王の合図で今にも俺達を攻撃する勢いだ。


 やべぇな。

 このままじゃ戦争どころか今この場で死人が出るぞ。仮にこの場を運良く切り抜けられたとしても、今まで通りユナダス王国と友好関係なんて続けられない。


「どうしますかフリーデン国王! 力を渡して無事王国へ帰るか、それともこの場で死んで力を奪われるか!」








 しょうがねぇ――。










「……おい、“魔力起動”しろ」

「ハイ――」

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