10 全てを懸けた混乱

「――それでは始めるぞ!」


 トーマス君の乱入で少し話が逸れたが、雰囲気は一転して元に戻っていた。


 ――ブォォォォンッ……!

 Dr.カガクによって生み出された世界最高技術らしいアンドロイド。そのアンドロイドがDr.カガクの合図によって何やら機械音と共に強く光り始めた。


 そんな中、俺はさっきからず~~っと気になっている事がある。


「あのー、何故このアンドロイドはこんなに“ナイスボディ”なのでしょうか……?」


 そう。

 俺の目の前にいるアンドロイド。コイツはさっきからずっとここに置かれていた。

 

 正確に言うと、顔だけが出ている状態で体はマントの様な物で覆われていたのだが、今しがたDr.カガクがこのアンドロイドの体を覆っていたマントを勢いよく取った。


 本格的に起動させる為の準備の1つなのか、お披露目という事なのか分からないが、兎にも角にもそのアンドロイドのボディは俺の想像の斜め上を行く造りだった。


「ガハハ! これは私の知識と技術を全て詰め込んだリューテンブルグ王国の未来を守り担う力!」


 そんなコンセプトはどうでもいい。

 それが率直な俺の意見。

 

 確かにとても精巧に造られている。これがDr.カガクの技術力たる所以なのか……。


 今まで見えていたアンドロイドの顔だけで判断しても、一切造り物だとは分からない。

 

 肌、髪、質感。

 見ただけでは到底アンドロイドとは思えないその機械は、白く透き通るような肌に閉ざされた瞼からは長い睫毛。綺麗な品のあるブロンドの髪が胸辺りまで伸びており、その姿はまさに人間そのものだった。


 強いてアンドロイドっぽい部分を言うならば、うなじから細いプラグの様な物が機械と繋がれており、起動させた事が分かるかの如く閉じていた瞼が開き目を光らせていた。心臓部分も体内から僅かに光りが確認出来た。体の中に何か機械が入っているんだろうな……恐らく。


 それ以外の見た目は完全に人間。そして何と言ってもこのボンキュッボンの超絶スタイルに顔面も整っているから驚きだ。しかも隠す所だけを最低限隠したほぼ裸の様な装い。露出が多いとかのレベルじゃねぇ。見てるこっちが恥ずかしくなるわ。これを造っている時他の関係者達は何も疑問に思わなかったのか?


「Dr.カガク……このアンドロイドは一体……」

「言っただろう? これは私の“全て”をつぎ込んだリューテンブルグ王国の未来だ!」

「……」

「どうしたジンフリー君!」


 訝しい表情でアンドロイドを見て固まっていた俺に、Dr.カガクが声を掛けてきた。その言葉に思わず本音が零れそうになったが辛うじて堪えた。


「え、いや……あの……このアンドロイド、凄い人間みたいな造りだなー……と」

「いい所に気が付いてくれたな! このアンドロイドはまさに“人そのもの”をイメージして造り上げたものだからな。脳と心臓、そして体内の一部以外は人間と全く同じ。鉄の塊で造ったアンドロイドというより、人間をアンドロイドにした様なイメージかの。言葉にすると些か物騒ではあるが、感覚的にはこの説明が1番近い。


膨大なデータをインプットしておるから普通の人間と同じ様な生活や会話も出来るが、どれだけ技術力があっても命を吹き込むことは不可能。所詮はよく出来た機械止まりだ。

ほぼ人間と同じではあるが、勿論そこに“感情”は無い。体も上辺は人の肉体だが血も神経も通っていない。よって痛みや感覚も感じる事は無いがの」


 簡単に説明しているがこれってとんでもねぇ技術だよな。

 まぁどれだけ科学技術力が優れていようが高等な魔法が使えようが、決して命を生むことは出来ないって事だな……。


 誰も外見には触れないからもうこのままツッコまない方が良さそうだ。


「――百聞は一見に如かず! ジンフリー君、早速満月龍の魔力でアンドロイドを完成させよう! 心臓部分が僅かに光っておるだろう? そこには魔生循環装置ナノループを組み込んである。取り込んだ魔力を放出する機械だ。先ずはそこに手を当ててくれ!」


 俺は言われた通りアンドロイドの心臓に手を当てた。


 ――むにゅ。

 実際にこのアンドロイドを触って分かった事が2つ。


 まず1つ目は、やはり肌質が人そのものという事。

 そして2つ目は、魔力を注ぎ込む機械とやらが本来の心臓部より下のせいか、構図だけ見れば俺は完全に片乳を揉んでいる変態オヤジ。しかも肌質のみならず感触もお〇ぱいそのものだ。


 Dr.カガク恐るべし。

 

「よし。そうしたら一気に心臓目掛けて全魔力を注ぎ込んでくれ!」


 声を張るDr.カガクの様子から真剣さが伝わってくる。それは周りにいる他の専門家達やフリーデン様やエドからもだ。全員が今この瞬間に神経を研ぎ澄ましていた。


 この場にいる全員の視線が俺に注がれ、俺は目の前のおっぱ……ナノループに満月龍の魔力を注ぎ込む――。


 アンドロイドが繋がれているゴツイ機械から発せられる機械音が徐々に大きくなっている。今の俺にはそれが皆の期待の声にすら聞こえてきた。無機質な機械音とそれに応える様に光るアンドロイド。


 俺は今、リューテンブルグ王国や多くの人達の期待や希望を背負っていると言っても過言じゃねぇ。


 あの時と同じ――。

 俺に全てが懸かっている。

 自分の家族すら守れなかった俺に……多くの人を守り切れなかったこんな俺に……今も変わらず多くの人達が俺を敬ってくれている。


 そろそろケジメをつける時。


 変わらなきゃいけないのは俺だ。


 今度こそ誰1人として失わない様に……。


 満月龍の血の拒絶? そんなもん知るか。生憎、俺にとって死は残された最後のつまみ。また家族に会える唯一の楽しみなんだ。何も恐怖は感じない。寧ろ待ちわびているぐらいだからな。


 全身に力を込め、俺は体に流れる満月龍の魔力全てを放出した――。



「……うらァァァァァッ!!」




 





 

 








 ……ってちょっと待て。肝心な事を忘れていた。


「“全魔力を注ぎ込む”って……俺そういえば魔力の使い方分からねぇんだけど――」


「「……⁉⁉」」



 この後、場が大混乱になったのは言うまでもねぇ。

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