第22話 私を好きじゃないの
(ま、まぁ、でも、お姉ちゃんの今の恋人は私だから!?恋愛での戦いで言ったら今のところ私が一番……だよね?)
なんて不安を抱えながら教室に戻った時、私はふとあることに気が付いた。
(あれ……?恋依?恋依ってどこかで聞いたことが……)
私は入学式に貰ったクラス表をファイルから取り出し、まじまじとその紙を眺めた。そうして名簿の中に恋依の文字を見つける。
(そうだ……!恋依さんって、私のクラスの一軍女子・恋依未胡琉ちゃんのことじゃない!)
友達どころか話をする同級生がいないせいですっかり忘れていた。恋依さんと私は同じクラスだった。いつも眩い笑顔でクラスの真ん中にいる中心人物で、この女子高の中でも「かわいい」に分類されるタイプの名前からして陽キャになるべく生まれてきた、超イケイケ女子。私みたいな人間が関わることはおおよそない女子と言ううか、タイプの人間だ。しかも恋依さんはどうやらバスケ部のマネージャーらしい。と、言うことは悲しきの私とお姉ちゃんの空白の時間より、よほど恋依さんの方が長くお姉ちゃんとの交流があるし、仲もいいということだ。私はその事実に冷や汗を流した。
(も、もしかしてお姉ちゃんの恋人になれた、というのはお姉ちゃんの中であくまでの呪い解除の一環で合って、精神的、いや、そもそも浮気される可能性は高いのでは……!?)
お姉ちゃんが私を裏切るのではない。お姉ちゃんの手を引く女の子のアプローチにお姉ちゃんが負けて、事実的にお姉ちゃんの心を奪われてしまう可能性が高いのでは……!?という話だ。もしそうならば、まずいことになる。私が。
(お、お姉ちゃんと別れるなんて、考えられない……!あまりにも……!)
確かに将来的にはお姉ちゃんは私と別れてしまうのかもしれない。呪いが解けたらはい、さようなら、なのかもしれない。でも、今ではないだろう。流石に今ではないだろう!?だって、まだ呪いも解けてないし、まだ私とお姉ちゃんは今までの空白の時間を取り戻しているばっかりで…………?
?
今朝の会話を思い出す。そう言えばそうだった。どうしてお姉ちゃんは今日、神様に自分が代償を払うから私の呪いを解いてくれ、なんて頼んだんだ?確かに遠回りではあるけれど、私と付き合って、少し長く時間を過ごせば<
(私と、早く別れたいって事……?)
もし、そうだとしたら、どうする?
例えば、こう考えよう。ずっと冷戦状態だった妹が困っていることがあったらしく、見過ごせず、手を貸してしまった。勢いで付き合っていいと言ってしまった。妹は大喜び。でもそもそも姉妹で付き合うなんておかしいと、自分の常識に耐えきれず、自分が代償を払ってもいいから妹と別れたい、とそう考えてみるなら?
私の中で、何かがガラガラと崩れる音がする。つま先から頭の先まで、全てが冷めていく感覚がする。物は考えようだ。こんなのは、とてもネガティブに考えてしまった一例で、そんなのは私の妄想にしか過ぎなくて、実はそんなことなんてない、と思い込んでいる、なんて考えている私の安い妄想なら……私は、どうする?
「私はどうするんだ……いたっ、」
思わず口から出た本音がじんわり、と痛んで、私は咄嗟に喉を抑えた。この呪いを解くためにお姉ちゃんに無理を強いり続けるのと、この呪いが重くなってもいいからお姉ちゃんとの数日をないことにするの、どっちが正しいんだろう。私は自分の喉を抑えながら、次の授業の準備もせずに、ただそのことについて考えていた。
ホームルームが終わってすぐに、私は教室を飛び出した。そうして3年生の教室へと足を向けた。三年生のフロアに入るのはお姉ちゃんに昼休み呼び出された時以来だ。と、言ううか、昨日のことだ。こんなにすぐにまた来ることになるとは思っていなかった。私は緊張する体を抑えながら、とある人を探した。
部活に行ったり下校する人でごった返している廊下の中で私はお目当ての人を見つけた。鞄の持ち手をぎゅっと握って、その人に近づく。
「あ、あの……」
「ん?」
その人は私に気が付くと、すぐに振り向いてくれた。
「あ、綾香さん、ですか……?」
「あれ、なんで1年生がここに?といううか、私の名前を知ってるの?バスケ部の子でもないよね?どうかした、?私に何か用?」
「あ、あの、私……」
「って、貴方、この前の美都の妹さんじゃない?」
「あ、はい。あ、春夏冬美孤と申します……」
「美孤ちゃんね。どうかしたの?あ、もしかして美都に会いに来た感じ?」
「あ、いえ、そうではなくて、綾、香さんに用があって……」
「え、私?」
「あ、の、お姉ちゃんに今日は先に帰りますって伝えて貰ってていいですか……?」
「美都に?いいけれど……、美都、まだ教室にいるよ?直接伝えた方がいいんじゃない?呼ぼうか?」
「あっ、いえいえ!呼ばないで大丈夫です!……すみませんでした、よろしくお願いしますっ!」
「あっ、ちょっと、美孤ちゃん!」
「あっ、はいっ!」
私は逃げ出すように階段に向かったが、綾香さんに声をかけられて、渋々足を止めた。
「まだ名前、教えてなかったよね。私、
そんなことを言われて、私は目を丸くしてしまった。
「あ、ありがとうございます!三希原さん」
私は頭を深く下げて、その場を去った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます