ACT.10 山中ルリ子


あらすじ

 生徒会との戦いの日がやってきた。

 トップバッターは自動車部が副部長の覚で、生徒会が書記の大内胤子だ。

 当初、覚は大内の精神攻撃に苦悩するも、前半の終わり辺りで彼女を追い抜いて勝利を手にした。

 次は部員のひさ子と副部長の山中ルリ子の対決だ。



 森本ひさ子(BG8Z)



 VS



 山中ルリ子(SA22C)



 コース:箱石峠往路



 前回同様、生徒会長がスターターを務める。



「カウント行っくばーい! 5、4,、3、2、1、GO!!」



 2台が一斉にスタートする。

 4WDのトラクションと390馬力のパワーを生かして、わしのファミリアは先行する。



「ひさちゃんが前を取ったたい。2台とも同じマツダばってん、それぞれレシプロ(※)とロータリー(※)を積んどるばい」



 ※レシプロ……ピストンの往復運動を回転運動に変換することでエネルギーを得るエンジン。 現在の自動車においての主流となるエンジン。



 ※ロータリー……ピストンを必要としない回転動機構による容積変化を利用するエンジン。現時点でマツダ車しか量産されていない



「油断できないわ。バトルは後攻が有利よ。私みたいに途中で仕掛ける可能性はありよ」



 2台がスタート時点を去ると、生徒会の2人は天(そら)の月を見上げる。



「ルリ子は月に強かドライバーたい。それから力ば得ると無敵ばい」



「そしてSA22Cは1tば切っとるけん、後半の下りまで持ちこたえてほしか」



 人面岩前のS字を抜け、しばらく上り坂の高速区間が続く。

 4WDでパワーのあるわしのファミリアがSA22Cを引き離していく。



 S字からの右ヘアピン。

 どちらもドリフトしながら通過し、この後の直線で相手を引き離していく。



「中々腕とクルマたい。マツダのレシプロ車もやると!」



「かなさんから言われたこつ、できとったら……」


 

 5日前、わしはかなさんからこんな課題が出された。



「ひさこんは体力がないあァ。そこで自分はメニューを用意した」



「どんなんですか?」



「筋トレをやってもらう。まずはスクワット50回、腕立て伏せ50回だ。クリアする度に数を増やしてもらう」



「わしにできるとですか?」



「レーサーなら皆やっている。鍛えないと速くなれない」



 クルマは速度が乗ると、Gがかかる。

 それに耐えるため、プロのレーサーは筋トレをしている。

 筋力を鍛えれば、ハンドルを軽々と曲げたり、アクセルやブレーキを強く踏むこともできる。

 


 わしはかなさんが考えたメニューをこなした。

 やる度に回数を増やしていく。

 運動が苦手なこともあり、何度か筋肉痛になった。



 バトルは左高速コーナーから右中速ヘアピンとS字区間に入る。

 ファミリアは低速トルクが細いドッカンターボなため、ヘアピンが苦手だ。

 軽量なSA22Cとの距離が縮まる。



「コーナーでルリ子の方が上たい」



 スピードをほとんど落とさず走る左中速ヘアピンではドッカンターボによるターボラグ(※)を弱らせることが出来たものの、それでもSA22Cが少しずつ接近してくる。



※ターボラグ……ターボが動くまでの時間の遅れ



 連続する緩いS字。

 そこでは相手を引き離すも、後の2連続ヘアピンで差は元通りになる。



「とつけむにゃ、次ヘアピン来たら技ば発動させったい」



 高速左コーナーからのシケインに突入する。

 SA22Cを離しながら、ファミリアに黄色いオーラを発生させる!



「儀の蛍流<スライディング・ハンマー>!」



 ハンマーを振り回すようなドリフトで攻め、距離を引き離していく。

 差はクルマ3台分に離れた。



「SA22Cが小さく見えとる」



 後ろのクルマを引き離しているという安心感がある一方で、わしは怖かった。

 縮められるかもしれない、さらには抜かれるかもしれないという恐怖が襲いかかった。

 負けたら皆に迷惑をかける。



 次はドッカンターボのファミリアが苦手な連続コーナーだ。

 ここで技を使って引き離した差は、みるみる縮まっていく。



 そこを終えると直線区間に入る。

 わしの方が有利な区間だ。

 しかし、後ろの副会長は天(そら)を見上げていた。



「中々やるばい。ばってん、ルリ子、こっから本気ば出させてもらうたい」



 SA22Cのボディは黒いオーラを纏った。



「月よ、ルリ子に七難八苦ば与えたまえ! 瑠璃色の流星流<七難八苦>!」



 忠臣・山中鹿之助幸盛(※)の如く、月に願い事をした。



 ※山中鹿之助幸盛……戦国武将。尼子家臣。主家を守るために月に願い事をした創作が存在するほどの忠臣。

 


 右高速コーナーを凄まじいコーナリング速度で抜けていき、ファミリアの差を一瞬とはいえ、大きく縮める。



「なんなん、そんオーラ!?」



 わしには驚きを隠せなかった。

 覚醒技にはそんな力があるとは。

 すごい技だ。



 この後もファミリアが得意な直線だが、それらを抜けると、緩いシケイン、左高速からのS字区間に入る。

 

 

 後ろのクルマとの距離を離せず、右ヘアピンで大きく縮められ、左中速コーナーでテールトゥノーズになる。

 さらには、後半から下りになっており、軽量なSA22Cの車速が上がっていた。



「追い付かれた!?」



 この後はファミリアが得意な右高速コーナーを交えたとはいえ直線区間だが、ほとんど離せず、左中速コーナーで再びテールトゥノーズになる。

 短い直線を抜けて、左高速コーナーに入るとSA22Cがファミリアのリアフェンダーに割り込む。

 S字の前半に入ると、ラインがクロスするかのように、相手のクルマが内側に入っていき、ついに前へ出てしまった。



「お先に失礼!」



 区間の後半では距離が開き、緩いS字からのヘアピンに入るとさらに差がついてしまった。

 


 完全にわしの負けだ。

 その後は副会長のSA22Cに追い付くことはなかった。



 結果:山中ルリ子の勝利。



 バトルした2台がスタート地点に戻ってくる。

 ファミリアから降りたわしは、倒れ込む。

 激しいバトルしたことや、朝筋トレをしたためにすごい体力を使ってしまったからだ。


「ごめん……虎ちゃん、飯田さん」



「ドンマイ、森本さん。あなたにしては頑張ったわ」



「次がうちの番やな……泣いても笑っても自動車部の運命がかかっとる。運命に勝ってみせたる!」



 これで五分と五分となった。

 負けたら認めてくれないだろう。



「1対1たいね……」



「私が最後の砦ばい。勝負は最初から分かっとる。こっちが勝ちや。あいつには私に勝てん」



 部長と会長の対決となった。



 うちの乗るGTOと会長の乗るケンメリがスタートラインに並ぶ。

 自動車部の運命がかかる最後の戦いが始まろうとしていた。



 大戸ノ口コーナー。

 4人が不満げな顔をしていた。



「SA22Cの方は悪くなかったが、ファミリアGT-Rは最悪の走りだった。余裕がない人の走りだった。ラインが乱れている」



 愛羅はひさ子の走りにがっかりしていたようだ。



「そうっスね。見ている僕も退屈だったッス」



 ZN6乗りも同じ意見だ。



「いよいよ最終戦らしいでありんす。どっちが勝つでありんすか?」



 アリスト乗りの女が最後の戦いに興味津々だ。



「俺的には会長の方が勝ちそうだな」



 RCF乗りの男はこう予想した。



(何か、この後はすごいバトルになる可能性がする。GTO乗りの部長はすごい雰囲気がするからだろうか?)



 愛羅はこう考えていた。

 彼の身体は震え始めていた。



TheNextLap

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