ACT.2 片鎌槍

 あらすじ

 あの出来事から2週間が経過した。

 友達の飯田覚を乗せて箱石峠で練習していた虎美はAE101乗りの女子大生・庄林かなと遭遇した。

 彼女は虎美を追い抜いた走りのことを「覚醒技(テイク)」だと教えた。

 そんな最中に大竹というフォレスター乗りが乱入し、バトルを申し込まれる。



 スタート地点にいる私は、バトルを始めた虎美のことが気になった。



「虎美、どうかしら? かなさんという方が助手席にいるとはいえ、ヘタクソなのにバトルを挑んじゃって……負けるか事故を起こしそうで心配だわ」



 大竹のことも考える。



「虎美とバトルしている相手、大したことなさそうだわ……雰囲気からそう感じられないし……」


 

 あいつは小物臭そうな雰囲気してたわ。

 ヘタクソ狩りをしている時点で。



 加藤虎美(Z16A)



 VS



 大竹(SG9)



 コース:箱石峠復路

 


 フォレスターの大竹より大きく遅れてスタートした、うちとかなさんの乗るGTOは最初の高速区間を走る。



「ノロマのトラミンよ、バトルは後攻の方が有利だ。後ろからだと相手の様子を見ながら走ることができ、時には相手の走りをコピーできるからな」


 

 逆に前を走ると、後ろの相手を気にしてしまい、走りに集中しづらくなるから不利になりやすい。

 速い走り屋はそのポジションを選ぶことを少ないという。



 高速区間を抜けると、左中速ヘアピンに入る。

 ここでかなさんが指示をする。



「ここをインに入り、ハンドルをあまり切らずにサイドブレーキドリフトで攻め、ガードレールへの接触する恐怖心を捨てろ!」



 この後、具体的な速度を言ってきた。

 コ・ドライバーの指示により、GTOはいつも以上に速くドリフトしていく。



 そこを抜けると右中速ヘアピンが迫る。

 かなさんがうちに対して、また口を開く。

 "あれ"を使えと言い出す。



「ここで<コンパクト・メテオ>を使え! あんたにも使えるだろ!?」



「どぎゃんすれば、使えるとですか?」



(標準語訳:どうやって、使うんですか?)



 その使い方を教えてもらう。



「さっきの約束通り教えてやる。今運転しているクルマと精神力やオーラでリンクして、技の名前を叫べ! <コンパクト・メテオ>はやや速いドリフトで攻める技だから、その走りをするんだ!」



「分かりました」



 かなさんに言われた通りに、クルマと心を一つにして、技名を叫ぶ。



「<コンパクト・メテオ>!」

 


 すると、うちの身体とGTOの車体が透明のオーラを纏う。

 クルマは速度を上げながら、ドリフトしていく!



「虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎ー!」



 速いドリフトで曲線を抜けると、フォレスターの姿が見えてくる。

 いよいよ追いついた。

 大竹の目にも、GTOが写っている。



「技を使って距離を縮めてくるとは、面白いねー! けど、俺だって覚醒技超人だからこっちも技を使えるぜ」



 大竹は左中速ヘアピンに入ると、金色のオーラを纏う。

 金属性の技が来る。



「<ゴールド・ラッシュ>」


 

 フォレスターは速度を上げながら、攻めていく。



「じゃあな」



「また離されたばい!」


 

 やはり大竹は覚醒技超人だったか。

 そのオーラは本物だった。

 フォレスターとの距離が大きく広がる。


 うちも左中速ヘアピンを抜け、その後の左シケインも攻める。



 かなさんが横からアドバイスをしてくる。



「<コンパクト・メテオ>より強力な技を使えるか?」



「強力な技ってあるんですか?」



「その技は初歩的な技だ。覚醒技超人は皆固有の技を持っている。今からそれを使えば逆転できる」


 左シケインを抜けると、直線が来る。

 そこを抜けると3連続中速ヘアピンが迫る。

 3つ目で発動させる!


 

「肥後虎ノ矛流<真空烈速>!」


 

 技を発動させると、クルマとうちは萌黄色のオーラを纏い、かまいたちのようなドリフトで攻めていく。



「虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎ー!」


 

 その速さは凄まじく、フォレスターとの距離を縮めていく!

 隣のかなさんはうちのオーラを見た。



「オーラの色、属性が変化している……覚醒技の能力か?」



 覚醒技には能力があるようだ。

 それは後で説明しよう。



 窓に映る前のクルマが大きくなっていく。



 3連中速ヘアピンを抜けて直線に入ると、フォレスターに再び離されてしまうも、そこを過ぎると右高速シケインに入る。



「ドリフトはせず、グリップ走行で走って!」


 

 かなさんのアドバイス通りに攻めていく。

 シケインを抜けると、再びフォレスターが大きく見えていく。



「後ろからクルマが来る気配はないな。俺がヘタクソを1人潰すとは、面白いねー!」



 勝利への確信は一瞬だけだった。

 後ろを見るとGTOがいた。



「いつの間にかGTOがいる!? 面白くないね!」



 2連ヘアピンに入ると、距離を広げたい大竹は紫のオーラを纏い、技を使う。



「<ポイズン・アタック>!」

 


「毒属性の技だ」


 

 毒のように禍々しいオーラを纏うフォレスターは速度を上げながら曲線走っていく。

 しかし、距離はほとんど開かなかった。



「くそ、なぜ離れないんだ! 面白くないね!」



「あんた、属性が変わったな?」



「属性って?」



「覚醒技には属性がある。属性の相性が良いと速度と相手に与える精神ダメージが増える。逆に悪いと減ってしまう。覚醒技の属性と技の属性が一致すると、技の威力が少し増える。属性は全部で14種類あり、2種類の属性を持つ覚醒技が多数存在する。属性は地球の元素から取っている」


 

 まるでRPGやモンスターのバトルをするゲームみたいだ。

 ちなみに属性が変わる前のうちは無属性だった。



「あんたは風属性に変化した。属性を変化させる能力を持っているな」



「能力って?」



「覚醒技には1つ固有の能力が存在する。あんたの能力は使用する技と同じ属性となる。風属性の<真空烈速>を使ったあんたはその属性になったんだ。毒属性の攻撃は風属性と相性が悪い。だから大竹はあんたを離せなかった」


 

 言わば特性だ。

 他にも全ての技を威力が上がった状態で出すことが出来るとは、うちの能力は強力だ。


 フォレスターとGTOは2連ヘアピンの2つ目、左ヘアピンへ入る。

 前のクルマを仕留める気全開のかなさんからこんな指示が来る。



「<真空烈速>より強力な技でやっちゃって」



「うちにそぎゃん技はあるとですか?」



(標準語訳:うちにそういう技はあるんですか?)



「あんたなら、使えるかもな」



 うちは精神力を一杯注入して銀色のオーラを発生させる。

 GTOもそれを纏う。

 清正の槍をイメージし、ヘアピンに突入する。



「肥後ノ矛流<片鎌槍>!」


 

 槍で斬り付けるかのような鋭いドリフトで攻めていく!



「虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎ー!」



 ヘアピンの立ち上がりでフォレスターを追い抜く!



「俺が抜かれるとは……面白くないね!」



 技で抜かれたのか、相手のクルマはふらつき……スピンして壁に接触した!



「挙げ句に負けるとは……面白くない!」



「あんたの技が鉄属性だから、相手をスピンさせるほどの精神ダメージを与えたからな。相手の覚醒技の属性は毒と金で、どちらも鉄が苦手だ」



「そうなんですばい……」

 

 

 うちは相手をスピンさせた。

 つまり、バトルに勝利した。


 

 そこを誰かが見ていた。

 黒髪ロングで、和風アイドルを思わせる灰色の着物風ワンピースを着用した大和撫子っぽい女性だ。

 彼女の愛車と思われるスポーツカーの形をした白いクルマもある。

 ボディキットと固定化されたヘッドライトで分かりづらいものの、車種は三菱のスタリオンだ。



「凄そうな走り屋が現れましたね……」


 彼女とは一体!?

 


勝利:加藤虎美



 うちのGTOは、飯田ちゃんのいるスタート地点に戻ってくる。

 かなさんと共にクルマから降りて、顔を合わせる。



「ただいま、べっぴんさん」



「勝ってきたばい、飯田ちゃん」


 

「良かったわ……事故るか負けるかで心配していたんだから。虎美はまだ運転が上手くないから」


 

 大竹のフォレスターも戻ってくる。

 彼もクルマから降りてきた。



「お前も来たんか!?」



「くそ、お前たちも狩れなかったとは……面白くないね」



 そう言い残すと、フォレスターに乗って去っていく。



「2度と現れんようにしてほしか」


 

 彼に煽られたことのあるうちはそう願った。

 ヘタクソ狩りはもう御免被りたい。


TheNextLap

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