第11話

「伊織、その女誰だ」


「あ、こちらの方は小田秋穂さんと言って昨日紅君達とお話していた…」


「君昨日体育館の入口のところで紅君と話してた子だよね!こんなに可愛い子だったんだ~!他の女の子達でちゃんと見えなかったんだよね~」



三人が俺のことで話をしてるみたいだが全然耳に入ってこなかった。俺はただただ開いた口が塞がらなかった。


「小田さん?大丈夫ですか?」


火山に声をかけられてハッとした。


俺はこいつらを知ってる。火山のことも、俺は知ってる。


「あんたら、天童太一と海遠真か?」


「ああ?だったらなんだよ」


「俺のこと知ってくれてるんだ~!俺のことは真先輩とか、真君とか下の名前で呼んでくれると嬉しいなぁ~!今日の放課後俺とデートしようよ!」



こいつらの顔は俺が死ぬ前に妹の部屋でたくさん見たことがある。とりあえず今はこの状況を整理したい思いでいっぱいいっぱいだった。


「いや、放課後は、腹が痛くなる予定だからすまん!!!」


事態を飲み込めずテンパってしまった俺は走って体育館を出た。



「俺あんなデートの断られ方したの初めて…絶対嘘じゃん…そんなに嫌だったのかな…。ちょっとたいっちゃん!!!笑いすぎでしょ!!!」


「くっ、いやーお前が振られてんの初めて見たから面白くてよ。傑作だな、おもしれーやつだわアイツ」


「酷いよ~いおりん慰めてよ~」


「うーん、相当海遠君のことがタイプじゃなかったんでしょうか」


「冷静に分析するのやめて!!!余計傷つく!!!」



びっくりして急いで体育館から逃げてきてしまったが大丈夫だっただろうか。


今までの違和感、全ての点と点が線に繋がった。間違いなくあいつらは俺がいた世界で妹がプレイしていた「スペースワールドNo.1~愛のダンクをハートにズキュン~」という作品の登場人物達だ。リビングで妹がテレビに繋いでプレイしてたのをちょくちょく見ていたことがある。見かける度にそのゲーム名はどうにかならなかったのかと思っていた。


そして妹の最推しである海遠真とその幼なじみである天童太一、何かグッズを買う時はこの2人がセットじゃないなんて考えられないといつも口にしていた妹の部屋にはこの2人のタペストリーやフィギュアやアクスタ等が飾られていたのを見たことがある。


要するに俺はゲームの世界に転生した。妹が聞いたらさぞかし羨ましがるだろうが男の俺にとってはイケメンに囲まれたところで別に嬉しくない。そんでもってなぜ中身は俺のままで体は女なのか。


教室に行き自分の座席で机に突っ伏した状態で色々考えていると少しずつ登校してくる人の音が聞こえてくる。そんなザワつきとは別に突然バンッと机を叩く音が聞こえた、自分の机から。


「ちょっとあなた、昨日のはどういうこと」


ああですよねーという感じだが来て早々これかと思った。なんとか寝たふりでやり過ごせないだろうか。


「ちょっとなに無視してるのよ!ほんとは起きてるんでしょ!なにか言いなさいよ!」


「あのバスケ部の方々とどういう関係なの!」


この感じだと今2、3人くらい俺の机の周りにいるのだろうか。どういう関係と言われても別にどういう関係でもないので放っておいてほしい。俺は面倒事を避けるために寝たふりを貫き通そうと心に強く決めた。


「おはようさん。小田さん寝とるみたいやけど、なんか用事なん?」


この声は金本の声だ。


「あ、か、金本君!いえ、全然大したことじゃないの!昨日部活してるとこ見たけどとってもかっこよかったよ!」


「私応援してるから頑張ってね!」


「また練習見に行くね!」


ほんとにこいつらさっき俺に声かけてきたやつと同一人物の声か??声変わりすぎ、女怖っ。


「おおきに。ほらそろそろ先生来そうやし戻った方がええんちゃう?」


金本にそう言われた女子達は金本君と話しちゃったとキャーキャーしながら座席から離れていった。















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