第4話・処分からの逃亡


「わー早い! すごーい!

 ボク、馬車に乗るの初めてー!!」


城に『召喚』されてから小一時間後―――


俺はカミュ王女が手配したという馬車に乗って、

何か大切な物をゴリゴリ減らしつつ……

子供アピールを続けていた。


同乗しているのは見張りらしき兵士が二名。

そんな俺を見ながら微妙そうな表情をして、


『オイ、俺カミさんに子供生まれたばっか

 なんだよ……』


『俺だってやだよ。

 でも、カミュ王女様の命令だ。

 やるしかないだろう』


こちらに聞こえないように小声で話している

つもりだろうが、バッチリ耳には入っている。


早急さっきゅうに処分しろ』

あのクソ王女アマは確かにそう言った。


つまり兵士が命じられたのは―――

そういう事なんだろう。


そして命令とはいえ、やっぱり子供を殺すのは

抵抗があるんだろうなあ。

全員が全員、あの王女みたいな性格でなくて

良かった。


『しかし、魔境の森で殺して捨てて来いって……

 血も涙もないのかよ』


『確かにココなら、死体もすぐに魔物が

 食い尽くすだろう。


 だけど、いくら痕跡こんせきを消すためとはいえ―――

 供養すらさせないってのは……』


聞けば聞くほどあの王女―――

とんでもないクソだな。

美人なだけに顔と性格が反比例している感じだ。


しかし、逆にチャンスも見えて来た。


恐らくここは、魔物がウヨウヨいるヤバい森だ。

いくら馬車でも、そう奥までは行かないだろう。


という事は……

奥まで逃げ込めば追手は来ない。


俺自身は魔物サイド(のはず)だし、

敵とは見られない……だろう。

知能の低い魔物に襲われたらどうなるか

わからんけど。


しかしこのままでは確実に殺されてしまう。

体が魔物向けに再構築されたっぽいけど、

戦闘力は未知数。

ここは三十六計逃げるにかず、だ。


「あ、あのう……」


兵士たちに向かって話し掛けると、


「んっ?」


「ど、どうした?」


話を聞かれたと思ったのか、挙動不審になる。

そこでモジモジしながら、


「お、おしっこ……」


その答えに肩の力が抜けたのか、


「オーイ、止まってくれ!」


「どこかその辺でしてこい。

 遠くには行くなよ、危険だからな」


馬車は速度を落として止まり―――

俺は下ろされた。




「お兄ちゃんたち、ちゃんとそこにいてね」


「あー、ハイハイ」


「さっさとしてきなさい」


兵士二人に手を振ると、すぐそこの茂みに入る。

そして周囲を見渡し、


「……あった」


見つけたのは、先が尖っている石。

そして上半身の服を脱ぐと、その石であちこちを

切り裂く。


その後、石の先端を自分の手の平に押し付け―――


「(いってぇえええええ!!)」


思わず声が出そうになるが、いい塩梅あんばいに出血。

それをベタベタと引き裂いた服にり付ける。


そして止血用に破れた布を包帯代わりにすると、

血まみれになった服をその場に置いて―――

俺は音を立てずに離れた。


「おーい、いつまでやってんだ?」


「いくら何でも長いだろ。

 大きい方だったのか?」


五分もすると、あの見張りらしき兵士が

やって来て……


「う……っ!?」


「こ、これは!?

 あの子は!?」


そこで少し離れた場所で、ガサガサと茂みの中で

音を立てる。


「そ、そこにいるのか!?」


「いや、待て!

 こんな血が出るほどケガをしているって

 事は……!」


こちらに駆け寄ろうとした兵士を、もう一人が

肩をつかんで止め、


「ま、魔物!?」


「くそ、深く入り込み過ぎたか!

 すぐ馬車を出せ! 撤退するぞ!!」


そして血まみれになった服をつかんで―――

彼らは急いで去っていった。


あの服さえあれば、証拠として十分だろう。

追手の心配が無くなった俺は、一人森の中を

歩き始めた。


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