虹色の世界


ゴールデンウイーク明けの金曜日。

虹色になって初登校となる。

……言葉にすると脳が混乱してきたぞ。


電車通学の最中、同じ制服の者とは結構すれ違ったりする。

ちなみに俺には、当然友達一人居ない(絶望)。

よって通学も一人だ。



――「……えっ」「誰? あれ」「あんな人居たっけ?」――



だからこうして同校の生徒に視線を向けられるのは辛い。

陰キャレベルマックスの俺だ。これまで存在感を消すなんてお手のものだった。

むしろそれに逃げてたせいで友達ゼロなんだけど。


なのに――俺の隠密おんみつスキルが活躍してくれない。

紛れもなく、答えはこの髪色なんだが。


元々前髪を長くしていた事もあって、視界に虹色(髪)がちらつく。

俺の世界はレインボーだ。

変な薬をやっている訳じゃないよ。



「まもなく○×駅、○×駅――――」



そして。

地獄はコレからだ。

最寄駅から歩いていく通学ルート。


ホームから出た瞬間――同じ制服だらけな訳で。



――「おい見ろよ」「いくら髪色自由でもアレは」――


――「ヤバくね?」「どっかのバンドマン?」「外人の転校生の割には顔が」――


――「マジで誰だよ」「アレ同じ学校の制服だろ……?」――



最寄り駅から、徒歩5分の好立地に我が校は存在する。

偏差値60越えの訳あって、そんなに荒れている学校ではない。


そしてソレだけ模範的な生徒が多い為、髪色も基本自由だ。

偏差値の低い自称進学校は逆に厳しいんだけどココは別。

特に現代じゃ、髪色は自由じゃない方が珍しいからね。モンスターなペアレンツも居るわけだし。



――「ユニコーンっていうんだっけアレ」「綺麗だね。派手過ぎるけど」「顔が合ってなくない?」――



さっきから聞こえまくりです。失礼だし。

そして俺はユニコーンみたいに綺麗でもイケメンでもない。

誰でものせる、その変の草食ってる馬だ。いや馬に失礼か。

わたしはゴミです(正解)。


……それにしても。

髪色変えただけで、こんなに注目って浴びるものなんだなって。

人生分からんもんだ。


これ、教室入ったらどうなるの?



――「……」「……」「……」――


結果。

時間が止まった。


ガララララと勢いよく開けた扉、意気揚々と教室に踏み出すまでは良かった。

しかしその瞬間、教室のクラスメイトの視線が刺さる。

不登校生徒が久しぶりに来た、そんな感じの目線。


普段の俺だったらそのまま席について終わり。

だからソレにならう事にした。

ありがとう過去の自分。


「テメー誰だよ?」


窓際、教室の一番後ろの定位置に座る。

相変わらず時間が止まったままの教室で、一早く動き出したのは隣席の彼女だった。


コイツ、俺の時間停止魔法を解除しやがった。

効果時間は切れてしまった様だ。

リキャスト再使用時間は何分ですか?



「……っス」

「いや誰か聞いてんだけど」



威圧的な口調。めちゃくちゃ怖い助けて。

彼女は『夢咲 苺ゆめさき いちご』さん。金髪のギャル。ヤンキー成分50%配合。以上。


二年生になって、俺の登校初日。

席に着いて、隣席が俺だと分かった瞬間俺から机を引き離した張本人。


『陰キャに優しいギャルなど存在しない』。

これは俺のモットーである。



「と、東町……すけど」

「は?」「えっウソでしょ? マジでとーまち?」



そう答えた瞬間、口を大きく開けて固まる夢咲さん。

そして彼女の横から割り込んできたのは『柊 莉緒ひいらぎ りお』さん。

茶髪、高校生のはずなのに上手いメイクで整えた顔はものすごく可憐だ。白ギャルってやつかな。


「あっでも顔よく見たら見た事ある顔だ。おはよとーまち☆」

「お、おはよう」


未だに呆気に取られる夢咲さんの肩に手を置き、笑って挨拶してくる彼女。

キャピキャピしていて、語尾にはいつもお星さまが飛んでいる(勝手なイメージ)。

二年生、夢咲さんが初日に俺から席を離した後、横から手を合わせ謝ってきたのは紛れもなく彼女。


《――「苺がごめんねー☆」――》


思い出す。

あの行為だけで、俺の精神ポイントは最大値以上に回復していた。


『陰キャに優しいギャルは存在する』。

これは俺のモットーである。



「……チッ、びっくりさせやがって」「イメチェンだよイメチェン☆。遅すぎた高校デビューかも」

「にしてもやり過ぎだろ」「そう? あっそういや言ってた明後日の合コンなんだけど――」 



そして通常運転に入るギャル二人。

見れば、教室も普段通り騒がしくなり始めていた。


……ま、髪が虹色になったぐらいで世界が変わる訳もない。

それに――この髪色を見てほしいのは彼女達ではない。


……そう。

いつも、始業時間ギリギリに登校してくる――――



「――っ、はあ、はぁ……」


「『あやのん』今日もギリギリだ~」

「ちょっとね」



瞬間、視線が扉方面に移動したのは俺だけじゃなかった。

クラスの男子の5割以上は――彼女の登場に注目する。


如月 彩乃きさらぎ あやの』。

長い黒髪を揺らして、端正な顔には汗が滲んでいる。

まるで映画のワンシーン。間違いなくその中のメインヒロイン。


そんな俺の好き“だった”人は――



「今日は登校中猫に会ったの」

「それは良かったねぇ~」



後ろの方に居る、今話題沸騰中(自称)の虹色髪のクラスメイトに。


マジで、一秒も。

全く目をくれず、席に着いた。


……ああ。

俺、通りすがりの猫に負けたよ。





――キーンコーンカーンコーン



時は流れ、昼休み。

何時もなら気配を消して教室で飯を食うが……今日は不可能。

友達ゼロ&虹色に燦々さんさんと輝く俺は、教室に居場所が無いので中庭に移動。

食堂? あんなグループしか居ない場所行けるかっての(陰キャ並感)。


対してココは日当たりが良すぎるせいで人が少ないんだよな。

座る場所もベンチぐらいしか無いし。

この学校、ぼっちに優しいのか一人用のちっさいベンチがある。

最高だ。俺ぐらいしか座ってないけど(最悪)。


「……」


適当に買ったジャムパンを頬張る。

一瞬で無くなった。俺の人生みたいだ。


「……暇だしやるか」


普段なら食後は図書室へ直行なんだが。

とりあえず、スレを立てるだけ立てておこう。



【>>5で俺は変わろうと思う Pert2】


1:名前:1

立てました みんなあつまれ


2:名前:1

こんな平日の昼間に居る訳ないか


3:名前:恋する名無しさん

います


4:名前:恋する名無しさん

こんな平日の昼間に居る訳ないだろw


5:名前:恋する名無しさん

ほんと


6:名前:恋する名無しさん

そんな奴ら居る訳ねーじゃん


7:名前:恋する名無しさん

……悲しくなってきた


8:名前:恋する名無しさん

>>1

学校レポ早よ


9:名前:恋する名無しさん

おっそういやそうだった


10:名前:恋する名無しさん

虹色の世界にはなりましたか?


11:名前:恋する名無しさん

そもそも校則で許されなかったのでは?


12:名前:恋する名無しさん

おっ今んじゃ坊主頭か


13:名前:恋する名無しさん

落差ハゲし過ぎ


14:名前:恋する名無しさん

今俺の事ハゲって言ったか?


15:名前:1

ハゲてない

とりあえず一つ報告しよう


16:名前:恋する名無しさん

うんうん


17:名前:恋する名無しさん

たのしみ


18:名前:恋する名無しさん

クラスでハブられた?w


19:名前:恋する名無しさん

絶対ドン引きだったよね?w


20:名前:恋する名無しさん

ほらほら泣いて良いよ




掲示板を更新する度にレスがめちゃくちゃついて来る。

引くぐらい。



「集まり良すぎだろ……」



何か俺の予想以上に寄って来たぞ……。

日本の未来は大丈夫か? うん、きっと明るいな(画面輝度MAX)。


太陽光が指す中、手に持つスマホで俺は意気揚々とフリックする。

こんなボッチ野郎でも、掲示板という居場所があるのだから……。



そうだろ?




21:名前:1


隣の席のギャルに話しかけられた


しかも二人


22:名前:恋する名無しさん

はい?


23:名前:恋する名無しさん

消えろ


24:名前:恋する名無しさん

は?


25:名前:恋する名無しさん

つまんねー解散解散


26:名前:恋する名無しさん

クソが


27:名前:恋する名無しさん

あーあ 昼飯がマズくなったわ



「……」


やはり、日本の未来は暗い。真っ暗だ。

俺は――そう確信した。

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