第18話
独り言を言ったのも、みんなに聞こえてた。
それから、ミリアも今日はどうしようかな、ってベッドの上で座ってちょっと考えてた。
「大体歩いたしな」
ケイジはやっぱり独り言みたいだったが。
「リース、お前はどうする?」
「・・寝たい」
「お前いつもそればっかだな。ガイは?」
「特にないんだが。・・そうだな、ジョッサさんにお友達を紹介してもらいたいかな。」
「なにすんだよ」
「いや、遊んでもらうんだよ。」
「それだけか?」
「ったりまえだろ、他に何があるんだよ」
「お、ミリアを見てみろよ」
ってケイジに言われて。
ガイがミリアを見れば、ミリアがジト目でじっと見つめて来ていた。
口にはしないが、なんというか、『舐めるなよ、小僧』みたいな目だ。
「問題なんか起こさないって。・・・そいや、そろそろ『モビディック』が砂まみれになってるだろうなぁ・・・」
「じゃ洗車よろしく」
「おいおい隊長」
「俺はどうすっかな・・・」
ケイジはそのままベッドの上に倒れ込んでた。
・・ミリアも・・・もう3日目だからなぁ、って・・・。
部屋に置いてある数少ない調度品の古いタンスの傷を見つけて、ちょっと目を細めて覗き込んでみていた。
よく見ても、やっぱりただの傷かって。
・・・長いような短いような、村を歩くには十分な時間があったが、もう少し細かいところまで見ておいた方がいいのか。
何度かチェックしている警備部からの連絡には変更が無いし、準備が整うまで滞在するべきで。
そもそも、アシャカさんたちが言っている『悪い予感』が起きない可能性の方が高いとさえ私は思っている。
それを・・・村の人たちは本当に信じてるのか、信じてないのか・・・未だに主張を取り消さない所を見ると・・・なにか別の目的が・・・――――
こんこん、とふと、扉からノックの音がした。
「はーい?」
一番近かったミリアが、扉を開ける。
朝からのお客さんは、黒髪、黒瞳の少女、こげ茶色のローブを被った、昨日もお話をした村の女の子、メレキだった。
「お、おはようございます」
ちょっと緊張した様子で、頬を紅くしてる。
「おはよう、メレキさん。どうしたの?」
食事の用意とかのお呼び以外で、人が訪ねてくるのはそういえば、これが初めてだ。
「えっと、あの、お願いがあって・・」
「お願い?」
真剣な瞳のメレキに、ミリアは気が付く。
メレキはこの部屋の4人を見回した。
その目には悲壮感にも似た、切羽詰ったもの、怯えさえ感じたのか。
「ドームから、もっと応援の人を呼んで欲しいです」
ミリアはそれを聞いて、またその話か、と内心では正直にそう思った。
アシャカさんたちとは、すでに立場上の問題は話が済んでいるのだが。
でも、それはいくら若いメレキでも、言い淀むようなだからわかってはいるんだろう。
「わ、わかってます、無理な事言ってるのは、でも何とかお願いしてきてもらうわけには・・いきませんか?」
「それは・・、本部の方が判断する事なので。私たちにはどうしようもありません。」
「何とか、できませんか?あの、その・・・」
彼女は何かを伝えようとしているけれど、言い淀んで、口を閉じて。
「・・なにか?」
「・・い、いえ。あの、不安で、とても。わたし・・わたしたち・・・不安なんです。この村が・・・」
訴えてくるその瞳は悲痛な思いと、懇願を
ミリアは彼女の様子を見つめていたが・・・口を開く。
「我々には何もできません。先日お話したように・・・、アシャカさんたちにはお話したんですが。」
「はい、あの、聞いてます・・。」
「理由も?」
「・・はい。」
「・・・我々は、あなた方が提供する情報だけでは動けません。なにか進捗があればこちらへ報告ください。進捗が無ければ、対応は変えられません。」
「おい、ミリア」
「なに?ケイジ、」
ケイジが、なぜかこちらを呼び止めようとしていたが。
特に何も言わなかったので、ミリアはメレキに顔を戻して言葉を続ける。
「私たちも定期的に本部に連絡を取っていますが、本部からの指示は変わらないんです。」
「ミリア」
「なに?」
ケイジがまた。
「どうした?」
ガイがそう、ケイジに言ったのか、・・私に言ったのか・・・。
邪魔しているのはケイジだから、きっとケイジに言ったんだろう。
「いや、なんか・・・」
ケイジは口ごもるけれども。
ミリアはそんなケイジにはっきり伝えておく。
「私は、組織の一員として見解を述べてるだけ。その辺りは、了承してもらわないと」
「にしても・・・、わーあったよ。」
ケイジは頭を片手でぼりぼり掻き毟ったけど、立ち上がって。
ガイが口を開いた。
「隊長の言う通り、組織としての見解は、確かにそうだ。それでも、なにかあったらちゃんと対応するよ。メレキちゃん、」
ガイは、メレキへ声をかけていて。
ケイジもメレキの側まで歩いていった。
「気にすんな、いつもあんな感じだからな、あいつ。」
って。
「後は俺たちに任せといてくれ。何かあったら俺らがなんとかする。」
メレキは何も言わずにただ、数回頷いただけで、ケイジに促されながら俯いたまま部屋を出て行った。
「ケイジ。」
ミリアの、強い声がケイジの背中にかかる。
メレキが扉を閉めて出て行ったのを、見送ったケイジはその間もぼりぼりと頭を掻いていた。
「・・メレキさんには、はっきり言った方がいいと思う。組織はきっちりとした規則とかで成り立ってる。簡単には動けないから・・」
「ちげえよ、」
ケイジは、そう・・・。
「俺はただ、俺がダメだと思っただけだ」
「・・なにが、」
「あいつが不安で来たのなら、上の方が動けなくても俺たちはついててやるぐらいの事を言えばいいだろ。俺らが来たのはその為だろ。なんであいつを突っぱねんだよ・・!」
「突っぱねてなんか、」
「俺たちは仲間を呼ぶことは出来ないが、俺たちが守りに来た事は本当だ。お前はそれぐらいの事も言わねぇで、そんなのが・・!」
「無責任な事言わないで・・!」
って、ミリアが強く怒った声で・・・遮ったが。
「おかしいだろ・・!?んだよ・・!?なんでお前が怒ってんだよっ」
・・ミリアが俯いている・・・ガイはちらりとそれを横目に見て、睨んでいるようなケイジに言ってやる。
「ケイジ、落ち着けよ。」
「俺は落ち着いてる!」
「ああ、わかってる。でも、ちょっとばっかし頭に血が上ってるのはわかってるだろ?ミリアも同じだからよ、とりあえず落ち着いてから話そうぜ。まあ、お前も色々思うことあるんだろうよ。俺もメレキちゃんとかに上手く説明する自信が無いんだけどな。でもな、落ち着け。ほら、リースも心配してるぞ。」
って、つられてリースを見るが。
話を振られたリースはベッドの上に座っていて、きょとんとした眼を向けて瞬いているだけのようだった。
正直、何にも考えてなさそうに見えるが、戸惑っている様にも見えるのか。
「なあ?リース、」
って、ガイに促されて。
「ぁぁ、、うん、隊長も、当然の事言っただけだと思う」
リースらしからぬ取り繕うような言い方だが、ちらっと横を見るのは、難しい表情をしているミリアの横顔を見たからのようだ。
「ったく、ミリアかよ、お前ら」
ケイジが頭をガシガシ掻いている。
「なんだ?お前にも構ってやろうか?」
「いらん。」
ケイジは、それから、はぁっとため息を吐いたようだった。
それを見て、ガイは少しはほっとしたのだが。
何処からとも無く・・・。
『うー・・・』、と呻く声が聞こえてきた。
その出所を探すケイジとガイが・・・、目を留めたのは、そこで俯いたミリアの頭だった。
・・なんだ・・?とケイジは胸の内で、嫌な予感がした。
ケイジとガイはちょっと、顔を見合わせるが。
「・・・隊長?」
って、リースが呼びかけてたが、返答は無く。
―――――ミリアの・・・次第に、それは嗚咽の混じった・・・。
「ぅ゛ぅぅ・・ぅ~」
って、みるみるうちに、瞳に涙を溜めるミリア・・・、を見ていたリースが困ったようにケイジとガイを見るが・・。
「だから、なんでお前が泣く!!?」
ケイジが焦った声で叫んでた。
「あ~・・ケイジ、」
ガイが頭をがしがし掻いていたが。
「・・・があぁっ!」
ケイジはそんな奇声を発しながら、乱暴にドアを開けて部屋から出て行った。
ガイはケイジが出て行った扉を、肩を
「・・・しょうがねえやつだな・・・」
んでも、未だ涙をこぼすミリアを振り返るが・・・。
「リース、」
呼ばれてガイを見るリースは、アイコンタクトに、ウィンクを受けた。
「俺もちょっと出るわ、あいつ仕方ねぇな・・・」
って、立ち上がるガイも外へ出て行く。
ガイは、ウィンクに頼むって意志を込めたのだが・・・それを理解しているのかどうかが、リースがちょっと心配だが。
・・・残されたリースは、・・・もう、動かないで泣き続けるミリアを振り返ったり、なんか、・・・今、ようやく静かに、・・・おろおろとし始めたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます