第16話
『ナァオゥイ マルベィキロリアゥナァ』
って、遠目からまた誰かケイジ達の方へ近づいてきたな・・って思ってたら、そのローブを纏った子供たちよりは背の高い青年が、村の民族語か、ミリアにはよく聞き取れないが子供たちに声をかけてた。
ケイジは男の子たちに偉そうにしてたり、なんか張り合ってたりで、子供たちと一緒に遊んでいただけだが。
『ナァ~ ディェテメレキミカ』
そう、子供たちは振り返ってなにか返事をしていても、会話の内容がわからない。
でも、その青年には見覚えがある、確か昨日、村に入る前に近づいてきた彼と似ている。
『メレキ? ルァマラニ・・・』
同じ青年か・・・?あの気の強そうな、こちらを一瞥するようにだけど、睨んでくるようなキツい目は間違いない。
「ん?どうした?」
子供たちが傍にいるケイジとちょっと向かい合うように動く。
青年の彼が伝えた何かの言う事を聞いたように、子供たちが距離を取って少し警戒し始めていたので、念のためにミリアは立ち上がっていた。
「あまり近づかないでくれ」
と、青年の彼が共通語を話した、そういえば昨日も話していたかもしれない。
「ん、おお。なんかあったのか?」
ケイジはさっきから、突っ立ったままだが。
「・・いや。ただ、そうしてくれ」
「よくわかんねぇな。まあいいが、俺からは近づかないぞ。」
自然体のケイジは、両手を上げて敵対する意思は無いと一回伝えていた。
「ん。お前、昨日の奴か」
今気が付いたケイジのようだ。
まあ、昨日、ケイジは思い切り飛び掛かってたから、彼に警戒されるのは自業自得なのだが。
それはさておき、適度な距離まで近づいたミリアは彼に声をかける。
「ちょっと良いですか?」
「良い?なにがだ?」
「いえ、なにか話していたから」
彼はじろじろと近寄るミリアを見ていた。
「うちの部下がなにか?」
「いや、そうじゃなく・・・?・・」
って、彼が少し瞬いたような。
「・・え、部下?」
って、目を丸くしたような、聞き返してきたから。
「はい。」
ミリアはちゃんと。
「・・なにか?」
彼の反応の意味を感じて、ミリアはちょっと眉をピクリとして聞き返したのは自然とだ。
「あ、いや・・・・・・部下とか言ってたから・・?」
けっこう、彼の声は少し尻すぼみだ、戸惑っているのかもしれない。
「・・それがなにか?」
「あ、いや、その、・・小さかったから・・」
って一応、遠慮がちに、言い難そうに答えてくれるけど、彼はとても正直者だ。
ミリアをちらちら見てくるその視線に返す、ミリアの愛想笑いには力みが少々走ってるのだが。
「な?生意気だろ?」
横のケイジがにやにやと、青年を軽く指差して笑ってた。
「うるさい」
ミリアは彼らの傍へ近づきながら。
「別に危ないことをするつもりはないですよ?」
ミリアは丁寧に彼に伝えた。
「だから必要以上に警戒しないでください。」
「遊んでただけだろ?あ、ミリアも混ざりたいのか?」
って、まだ、にやにやしてるケイジの横腹へ、ミリアの肘鉄が入ってた。
「ぐほ・・っ」
隣でよろめくケイジを尻目に、ミリアはそのちょっとびびったらしい青年へ顔を向ける。
なんとなく、相対する彼らの間に沈黙が訪れてたが。
「・・ただ近づかないでほしいってだけ。」
青年は素っ気ない。
「そっか。」
ふむ、本当に彼は警戒しているだけのようだが。
それ以上の事は何も話さない・・・と、傍の少年たちが彼の横に寄ってきた。
「ドーアン兄貴は明日、戦士になるんだ。」
って。
「今度の戦いで活躍するんだ!」
自慢のドーアンの兄貴はみんなに人気があるようだ。
「バカ、戦士は活躍するんじゃねぇよ。」
「でも『ミーダリウード』になるんだろ?」
「バカだなぁ、」
「・・村を守るから『ミーダリウード』と呼ばれるんだ。暴れるだけじゃダメなんだよ。」
ドーアンと呼ばれてる彼は、彼らを
「父ちゃんにも昨日言われてた」
「うるせー」
「ナァ~、メマ ミェナァ~」
わーわー、小さい子たちもちょっと集まって来てて。
・・それから、こっちに彼は振り向いてた。
「ドーアンって言う」
彼の名前だ。
「私はミリアネァ・Cです。ミリアって呼んで」
名乗った彼の真っ直ぐな目へ、ミリアは真っ直ぐに見つめ返した―――――
柵に腰掛けたミリアと、その傍のドーアンの顔を覗けば、彼は子供たちが遊んでいるのを眺めている。
さっき少年が言ってた、彼は戦士になる、か・・・。
戦士は、当然ドームには無い役職名だけれど、自慢げな少年たちの様子と・・年の頃からして、成人の儀のようなものか。
子供から村を守る戦士になる、という理解でいいのかもしれない。
「訓練もめっちゃしてんだからな。ロンター兄貴にも負けないくらいなんだ」
傍の男の子が共通語で話してて。
「そういうこと言うな。」
ドーアンは、つんとしているけれど、少し照れたようにも見えた。
戦士になるための訓練って、どんなのだろうな・・・って、ミリアはちょっと思ったけど。
「・・そっか、君は強いのね」
ミリアは、彼へ。
「・・・そ、そんなん、普通だし」
って、ドーアンは、ちょっと強がったようだった。
やっぱり、照れてるような彼だから。
ミリアは少し、目を細めていた。
「・・あんたらも戦士なんだろ?」
「ん・・・?」
戦士・・・なのかな、私たちは。
「戦う人間だ。」
・・あぁ、なるほど。
「そうね。」
そういうことか、それなら、武器を持って戦う・・・。
―――――それに彼はきっと、子供たちのリーダーとして、幼い子たちを守りたくて。
昨日、私たちの前に立って、ただ心配して、村の人たちを守ろうとしてた。
きっと、それだけだ。
彼にはきっとそれが、当たり前の行動だったんだろう。
そんな気持ちを持つ人を、戦士と呼んでるようにも見える。
私たちも、戦士か・・・そういう基準なら、そうなんだろう。
――――――ブルーレイクに招かれた、戦士たち・・・。
ちょっと、ミリアは自分で思いついた言葉に、ちょっと頬を緩めてしまったけれど。
「ねぇ、さっき言ってた、『ミーダリウード』ってなに?」
ミリアは、ドーアンへわからなかった言葉を訊ねてみた。
「・・・『
アシャカさん・・・さっき会ったばっかりだけど、『ミーダリウード』は『勇者』というような意味だろうか。
あの人、やっぱりCross Handerの立派なボスみたいだ。
「そっか、かっこいいね。」
「・・・。」
ドーアンは答えなかったけど、ちょっと意地になってるような紅い頬だ。
ミリアよりも年下だろう、彼の反応は初々しいと思う。
「・・あんたらも戦士なんだろ?」
って。
「外のことはよくわからねぇけど、でも、戦士なら強いんだよな?」
そう・・・。
「うん。」
ミリアは頷いた。
「信頼して・・・」
信頼してくれていい・・・、ミリアは、そう言おうとしたけれど。
なぜだか、言葉が止まった・・・私は・・。
「そっか」
でも、彼は納得したみたいだ。
否定・・・するのもおかしいから。
私は、その先は続けられなかったけれど―――――――
・・・『信頼』という言葉を、言っていいのかわからなかったのか
――――――それは警備本部が、・・・違う、そうじゃない
―――――――きっと、・・私がどんな判断をこの村にするのか・・今は・・・――――――
「なぁ、つぎ、『コッキ』、やろ」
「ん、なんだそれ?」
「あれだよ、これをあれに当てんの」
「俺が一番上手いんだぜ、」
「モロトも同じくらい上手いよ」
ケイジは小さい子たちが手を引っ張ったり呼ぶから、一緒に連れてかれてた。
「あの缶に入れると20点」
「マジかよ、あんな遠いのかよ」
「アラシンはよく入れられるよ」
「ケージーは上手いの?」
「ケイジだよ。こんなの遊んだことねぇ」
「ケージー、」
「おい、ケイジだよ」
「ぷきゃはは、」
「ケージー、ケージーっ」
からかわれてるようなケイジも。
ふと、ミリアの隣のドーアンが立ち上がって、向こうに歩いてみんなに加わってく。
「俺もやる、勝負だ。」
「お、いいぜ、勝負だ。」
ケイジと張り合うような、遊ぶような。
リースは、結わいていた金色の長い髪を解いていて。
頬に赤い女の子たちが流れる金髪を目で追っているのを、触ったりするのも、もう気にしてないようだ。
相変わらず無表情で、眠そうだけれど。
ケイジらの近くで立ってるガイはなんだか、微笑ましいのか、面白そうにそんな光景を眺めている。
そんな彼らの遊んでる情景を。
夕日が傾く光景を。
ミリアもその柵に腰掛けて、眺めていた。
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