第34話
すると、サキの声に気づいた絵馬が驚愕の声と共にサキに抱き着いていた。
「何ですか……?」
「本物のサキ様だ!!!!大好き!!!!!!!」
困惑するサキを一切気にする様子もなく、力強く抱き着いて恍惚の表情を浮かべている絵馬。
「ああ、この人は重度のサキファンなので気にしないでやってください。あ、申し遅れました。私が冴木です。よろしくお願いします」
「ああ、私が優斗だ。よろしく」
「話によると投稿された歌ってみたが好評らしいですね」
「そうだな。私の手にかかればそんなものだ」
「流石は天才と呼ばれるだけありますね」
「そうだな。ところでそろそろサキを開放してやってくれないか?」
幸せそうな絵馬に対し、サキは気まずそうな表情であたふたしている。恐らく冴木の説明も聞こえておらず理由も分からないのだろう。
「分かりました。絵馬、そろそろ迷惑だから離れてあげて」
そう言うと、冴木はサキに抱き着いている絵馬を強引に引き剥がしていた。
「はっ、私は何を!?」
「目の前に現れたサキさんに抱き着いていたんだよ。ほら、困惑しているから謝って」
「あっ!サキ様!目の前にサキ様が現れたので反射で抱き着いてしまったみたいです。私は絵馬って名前でゲーム実況者をやってます。えっと、デビュー当時からサキ様のファンやってます!よければサインをお願いできますか?サイン色紙は……あった!これにお願いします!!!」
冴木に謝罪を促された絵馬はどうやらサキの大ファンだったらしい。しかもデビュー当時からの最古参ファンか。素晴らしいな。これは気が合いそうだ。
「あっ、ハイ。サキです。こちらこそよろしくお願いします。で、サインですね……はい、どうぞ」
「ありがとうございます!神棚に飾らせていただきます!!」
「それは辞めてほしいですね。普通の場所に飾ってください」
「分かりました!では配信部屋の一番目立つところに貼っておきますね!全力でリスナーに自慢します!!」
「そうですね、神棚よりは……」
本来のサキならそういった行為も拒絶するはずなのだが、何故か受け入れてしまっていた。
サキにとって絵馬の配信に出てしまう事よりも神棚に飾られる方が嫌だったらしい。普通逆だと思うのだが。
まあ、登録者数40万人くらいの配信者に宣伝してもらえるのは良い事だ。ぜひサキには気づかないでいてほしい。
「ありがとうございます!!!」
「気付いていなかったようなのでもう一度挨拶させてもらうが、私が優斗だ。今日はよろしく!」
会話が一区切りついたタイミングで私は再び絵馬に挨拶をした。
「よろしく……ってあなたは私の敵だ!!!!!!!よくも!!!!!!!」
「なんだ?何も敵対されるようなことはしていないと思うが」
ようやく私に気づいた絵馬は何故か敵意むき出しにしてきた。
「私の、私たちファンのサキ様を奪っておいて何を言うのよ!!!!チビの癖に!!!!」
「別に奪っているわけではないのだがな」
私はサキを独占しているわけではなく、むしろこの世に広めるための活動をしているんだがな。
「サキ様は聖域なの!調子乗りなチビが近づいて良いような男じゃないの!!!」
「絵馬がすみませんね。この人、絵馬が好きすぎてコラボ依頼が出来なかったのに、突然デビュー間もないサキさんのファンの男がサキさんと仲良くコラボしているのを見て嫉妬しているんですよ」
騒ぐ絵馬の口を塞ぎ、こちらに飛び込んでくる体を抑え込みながら、冴木は絵馬が騒いでいる理由を説明してくれた。
「なるほどな。そう言う考えは無かったな」
私はサキをこの世に広めることばかり考えていて、既存のファンについてはあまり考えていなかったのかもしれない。
「別に気にしなくて大丈夫ですよ。こういう馬鹿を気にしていたら配信活動を続けられないですからね」
「そうなのか?」
「そういうものです」
「違う!私はサキ様とチビが釣り合わないから言ってるの!!!!」
冴木の拘束を逃れた絵馬は、今まで以上に大きな声でそんなことを言ってきた。
「確かにサキの魅力は私程度に留まって良い器ではないだろう」
だからこそ全力でサキを有名にしようとしているわけだしな。
「わ、分かっているじゃないの。なら離れなさいよ!!!」
「それは出来ないな。私にはサキを広めるという使命がある」
「そんなことをしなくてもサキ様はもっと有名になれるわ!!だから、勝負よ!!!」
「勝負とは?」
「今回の大会よ。準決勝で当たるでしょ?」
「そうだな。二人が勝てればだが」
「当然勝つわ。そのために特訓を続けてきたんだから。で、その時に私たちが勝利した場合、あなたにはサキとの交流を全て断ってもらうわ!!!」
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