第7話

 私が描いた中でも比較的分かりやすい物を用意したつもりだったのだが、分かってくれる人は1%も居ないようだった。


 残りは『何言ってんだこいつ』や、『ネタか?』等、芸術性を理解していないようだった。


「まあ、反応は最初から予想出来ていた。今この瞬間全員がこの絵の素晴らしさを理解できるのであれば今頃世界一のイラストレーターとして一世を風靡しているだろうからな」


「だからこの反応は最初から理解している。だがしかし、皆安心してくれ。今日の私の解説を聞けば私の描いた絵の素晴らしさを素人でも理解できるようになるからな。というわけで次のスライドに移るぞ」




「ここまで私の解説を聞いてくれてありがとう。これで絵の素晴らしさを理解できるようになっただろう」


 そこから私は1時間程、二枚の絵の芸術性についてひたすらに語り続けた。


 授業形式なので飽きる人も居るだろうと加味して、私自身の絵だけを語るのではなく世間一般で素晴らしいとされている絵の素晴らしい点を説明したり、自身の絵と比較したりすることで興味を維持しようと画策した。


 そのお陰か、開始10分ごろに最大2000人まで達した視聴者数の内、1600人を解説終了まで維持することに成功した。


 内容的に半減は余裕だろうと予想していたのだが、案外見てくれるものなんだな。


 コメント欄を見ても、私の絵の素晴らしさに感動するコメントが多いので、目的も果たせているようだ。


 今日の配信は間違いなく成功だな。


「というわけで歌ってみたの裏話でもするか。といっても大した話は無いんだがな————」


 それから軽く歌ってみたの裏話をした後、配信を終了した。


「よし、終わりだな」


 配信終了ボタンを押し、マイクとカメラがオフになっていることを確認した私は一息ついた。


「お疲れ、優斗君」


 すると、次葉が配信部屋に入ってきて、椅子に座っている私を背後から抱きしめてきた。


「ああ。配信ってのは中々に疲れるものだな」


「あれだけ人が居たらね。ただのトークとは違った緊張があるよね」


「校長の凄さを思い知ったよ」


「はは、そうかもね」


 あれだけの人が居る中で面白いか面白くないかすら分からない話を平然と話し続けるのは相当な胆力を持っていないと出来ないだろう。


「とりあえず今日は寝たいから帰るぞ」


「分かった。送ってこうか?」


「大丈夫だ。大した距離じゃないし、私は男だ」


 夜遅くに次葉の家から帰ろうとするたびに家まで送ってこようとするのはやめてくれ。


「でもちっちゃいじゃん」


「身長は関係ない。それを言うなら次葉は女だろうが」


 私を送るということは次葉が夜道を一人で帰るって事になるのだから。


 ここらはかなり治安が良いとはいえ、不安でしかない。


「いやあ、カッコいいね。優斗君は」


 そう言うと次葉は私の頭を撫でてきた。


「私の事を子供か何かとでも思っているのか」


「いや、そんなことないよ?」


「どうだろうか」


 今次葉の顔を見たら確実ににやけた顔をしていると思う。


「ってことでこれ以上遅くなるのもアレだから帰るぞ」


「うん、そうだね」


 私はそのまま帰宅した。



 その後、2枚の絵だけじゃ足りないだろうということで後日2、3回程解説配信を行った。


 結果、私の芸術性を理解してくれる人が増えたのか、ツリッターのフォロワー数は4回目の配信を終えた後は5千人を超え、絵に対する反応は以前とは比べ物にならない程に増えていた。



「こんにちは、神崎優斗さんですよね?」


 お陰で、大学内でも視聴者と思われる人たちから定期的に話しかけられるようになった。


「ああ、そうだが」


「配信いつも見てます!握手してください!」


「私の絵に興味を持ってくれているのか。それは非常に嬉しいな。握手位なら何度でもやるぞ」


「ありがとうございます!それではまた!」


 みたいな感じで純粋なファンが殆どだったのだが、


「神崎優斗くんだよね?」


「そうだが」


「配信で見るよりもかなり小さいね」


「ほんと、可愛いよね~」


「頭撫でても良い?」


「何故だ」


「「「可愛いから」」」


「私が可愛い?冗談だろ?」


「冗談で頭を撫でに来るわけないでしょ」


「減るものじゃないし、少しくらいいでしょ?」


「嫌だったら投げ銭するから、ね?」


 たった今、逆ナンみたいな絡み方をしてくる女性が現れてしまった。


 あくまで好意から来たものだし、同じ大学に通う生徒だから拒むのは申し訳ない。良い対処法が無いものか……

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