第74話背油ちゃっちゃ系ラーメン

 背油ちゃっちゃ系ラーメン 

 

 ハイリューン・ヒルデガルド 

 

 ウェールズきってのラーメン好きで知られる彼女、塩ラーメン、家系ラーメン、どろ系ポタージュラーメンとラーメンの名の付くメニューの日は必ず現れ、味の評価を下す。 

 

 ハイエルフの姫である彼女は食事などは裕福な食卓に恵まれ、幼少期から高価な食材、一流のコックの調理に囲まれ、一流の味と言うものを体に叩き込まれ育ってきた。 

 

 そんな彼女がなんの不便もないハイエルフの国からこっそりと抜け出してきた理由は、稀人、八百万の斗真の興味があったからに他ならない。 

 

 稀人、神が使わせし世界の分岐点、特異点の一つ、過去の資料をみてもわかる。 

 

 稀人の存在が発覚した国、彼らを丁重にもてなした国は超大国に成長した国も少なくはない、それ以外にも様々な魔道具の発明、魔法の新規概念、衣服の進化、建物や建築物の進化など様々な分野での成長、発見、それ以外にも人間の精神的尊重や慈しみの心など、人間としての精神的進化、他者を受け入れる度量の広さなど、多くの事を稀人から習い感じ取り、学んできた。 

 

 自分が生きている内に稀人に会えるという事は奇跡に近く、そんな彼が一般的な食堂を開くと聞いた時から、ヒルデガルドのの心はまるで自分が冒険者にでもなったかの様な、未知に挑戦する人間になったかの様な気持ちになり、わくわくが抑えられなかった。 

 

 ブリタニア王家は、まだお披露目の時ではないと言う事と、彼はあくまで自由にこの世界を楽しみたいと思っている事を尊重して、国として大々的に彼を稀人だと公表して扱う事を避けている?もしくは時間稼ぎをしている様に思えた。 

 

 彼の自由の為に。 

 

 国が彼を稀人と認め、各国にお披露目をしたら、各国の王達は是非我が国に遊びに来てほしいなどといって斗真を自分の国に呼び寄せ、少しでも有益な彼の知識を吸い出そうとするだろう。 

 

 もちろん色々な国の手前無理やりになどと考える愚かな王はいないと思いたい・・・・・。 

 

 あくまでも友好的に彼に自国のおかしな所はないか、思いつく改善点などはないか聞く程度だ。 

 

 稀人の全ての人間が政治や何かしらの物事に精通しているとは限らない、歴代の中にはそういった知識は特にわからないって人間もいたし、粗暴な人間も逆にこちらが下でに出ている事をいい事に贅沢三昧するだけの人間なんかもいたと聞く、稀人の全てが素晴らしい知識をもっているわけではないのだ。 

 

 今回の稀人、斗真さんは庶民向けの飲食店を開く事を望んだ。 

 

 そしてその店には、貴族はもちろん高位冒険者、名だたる世界でも有名な人間が好んで店に通ってると言う。 

 

 そんな噂を聞く内についに我慢できなくなったヒルデガルドは、直接八百万に訪れ、ラーメンと言う中国発祥の麺料理であり、日本に渡り長い年月をかけ様々種類、ご当地ラーメンなどを生んだ、不動の人気料理と出会う事となった。 

 

 日本国内でどれだけのラーメンがあるだろうか?同じ家系でも店によって味わいが変わると言うのに、塩、醬油、味噌、だけに留まらず、豚骨、鳥、魚介、牛骨、店の名を冠した二郎系や青葉系、大勝軒系、がんこ系、と上げればきりがない。 

 

 チェーン店なども多いラーメン屋で、これだけの個人店が愛される理由はまさにチェーン店のまさに平均点ともいえるラーメンの味を個人店は更にその上を行き、個人店、まさにその店でしか味わえないと言えるほどの、唯一無二、これ!と決めたらその店の味でないと満足できない不変性がある事、家系でも自分の好みの店があり、ここの味でないと駄目と言う人間は多くいる事だろう、店が閉まっていて、仕方なく似たような他の店に入って物足りなさを感じストレスを貯める事になってしまった人もいるだろう。 

 

 そして安価な価格と戦い、顧客を喜ばせる為、他の店には真似されない為に研磨し続けた、現代のラーメン蓄積された味の歴史。 

 

 ヒルデガルドはその日本の錬磨されたラーメンの一旦と出会ってしまった。 

 

 高級料理では味わえない、味のぶつかり合いから生じる不揃いな旨味の濁流と言うスープ、豚や鳥の動物系の深い味わい。 

 

 一度知ってしまうと二度と忘れる事が出来なくなる、がつんとした味の衝撃力、その威力ときたら。 

 

 そして今日ヒルデガルドは新たな扉を開こうとしていた。 

 

 背油ちゃっちゃ系、見た目的には雪でも散らしたかの様に見える見た目だが、人によっては脂まみれの汚い見た目と判断する人間もいる事だろう。 

 

 脂は豚か?微かに感じる豚骨に似た香り、でもいざ麺をすくいあげてみれば、濃い醬油の色に家系の麺よりも太いむっちりとして若干ネジくれている面。 

 

 思い切って、すする! 

 

 口内ではじけ回る太目の麺!ぷりんとした噛み応えにはじける麺が口の中で乱舞して楽しい!麺の表面には濃い醬油と鳥の旨味を感じる味わいがするのに、中心部分の麺は小麦の香りがしっかりとする。 

 

 そしてとろとろの脂!甘味があり!濃厚であり!麺にしっとり絡んで動物性を語る! 

 

 塩とも家系ともどろ系とも全然違う!! 

 

 芯には醬油のタレに色々な具材の旨味!そして鳥!鳥のすっきりしていて強い鳥の旨味!脂がこんなにあるのにスルスルと飲める!飲めてしまう背油のスープ! 

 

 なんちゅう美味さの無双乱舞!!! 

 

 平穏な草原で動物たちのらんらんと楽しんでいたら、上から隕石が落ちきて辺りを更地に変えたかのようなインパクツ! 

 

 まず麺がいままでと違いすぎる!ぶりんぶりんの麺!ヒルデガルドの口の中で、オイラが主役じゃぁ!と暴れまわり、散々好き勝手して喉に消えていく。 

 

 チャーシュー!分厚いのにしっとりホロホロで、きゅきゅと噛み応えがある。 

 

 この肉だけで米が食える!むしろ食いたい! 

 

 タケノコの穂先、濃いメンツたちの中でさっぱりとしていて、サクサクと食べるとやめられない!あぁ溺れたい!タケノコの海に溺れていきたいくらいの濃い味に寄り添うあっさり感! 

 

 卵!しかも中はとろ~り半熟!ちょっと昔なら半熟卵も怖かった!しっかり火を通さないと怖くてしかたがなかった!今は違う!濃厚な黄身と麺!うひょぉ~なんじゃい!またこの黄身で味が変わるのか、マイルドになっているのにしっかりと黄身の濃厚さを感じる! 

 

 そしてまた背油をすする!なんでだ!なんで飲めてしまうんだ?脂のうっとなる嫌さが全然ない!見て!飲めるの!うちの背油って飲めちゃうのよ! 

 

 そしてネギ!こいつが実は曲者で、この濃い味とも脂の濁流とも絡み合って、それでいてネギの良さ!麺の良さ!醬油や脂をガンガンすすれる様に添えられている。 

 

 家系では忘れられない豚の濃厚な味だったが、このラーメンは家系とはまた違う!まさに背油!麺!そしてかえしの醬油と鳥がどんぶりの中で戦い!最後には見事に融合していく驚異のキメラアント!え?ラーメンってどれだけ種類があるの?中身が変わる事にこんなにも味も何もかも変わってしまうの? 

 

 塩味だけの時はお嬢様でいられた!家系の味を知って、豚を愛し!どろ系の味をしって豚や鳥にまみれて、背油の味を知ってはもう私ハイエルフのお姫様になんか戻れない! 

 

 ハイリューン・ゴリラゴリラゴリラ・ヒルデガルドの誕生ですわ!! 

 

 なんでゴリラかって!?そんな事知りませんわ!豚でもイノシシでもブラゴリラでも好きに呼べばいいですわ! 

 

 そしてこのラーメンに添えられた、ミニチャーシュー丼がうめぇんだよなぁこれが、丼をくって背油のスープで流し込む!かぁ!やめらんねぇ! 

 

 醬油とつぶつぶの背油が米を喉に運ぶ!もぐもぐ!うめっ!うめっ!もぐ!もうたまんない!

 

 今度は背油スープを思い切ってチャーシュー丼に回しかけて、米を掻っ込む! 

 

 はふはふ!うめっぇ!もぐもぐ!ズズズズ!かぁ~!!こいつはやべぇ!次いつこれは食えるんだい!?家系といいどろ系といい、どれだけ!どれだけ魅了すれば気が済むのか! 

 

 今度は体がきっと背油を欲しがる!そうに決まっているんだ!豚骨の時の様に!豚を求めてしまう様に! 

 

 どうにかレシピを知る事が出来たら複製できるのだろうか?挑戦してみる価値はあるかもしれない。 

 

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る