目覚めはメイド幼女と共に。
「っ!」
目を覚ますと――メイド服を着た十一歳の少女が、僕の腕を枕にして眠っていた。
――ここは……ひょっとして天国? 僕はもう死んだのか?
とも思うが、どうやらそういう訳ではないらしい。
少女の、両耳の後ろ辺りで結んだツインテールが腕にこそばゆかったし、その白くぷっくりとした頬にも、微かに開いた桃色の唇から漏れる寝息にも、命の温かさが確かに感じられる。
それに何より、しばらくこうして少女に腕枕をしていたらしく、肘から先辺りの腕全体がじんじんと痛いほど痺れている。
――夢か……。
よく思い出せないが、何か酷い悪夢を見ていた気がする。
僕は腕を動かさないようにしつつ、横へ向けていた身体を少しだけ天井へ向けて、息苦しさを和らげるために深く息をつく。
明け方の部屋は、まだかなり薄暗い。どうやら、後ほんの少しだけは眠ってもよさそう――
「お兄、いつまで寝てるの! っていうか、ユーノ? ウチはアンタに『お兄を起こして』って頼んだはずだけど?」
不意に聞こえる、不機嫌そうな声。
戸口を見ると、そこには妹・リナの姿がある。
薄ピンク色のワンピースパジャマ姿で、セミロングの黒髪はそのままさらりと垂らされている。いつもはその髪をポニーテールに纏めているから、リナもまだ起きたばかりなのかもしれない。
リナはズンズンと足音を立ててこちらへ歩いてきて、「起きなさい」とユーノちゃんの肩を揺さぶる。
僕の腕枕で眠っていた幼女メイド――ユーノちゃんはパチリと瞼を開き、恥ずかしそうにもじもじしながら言う。
「だって、ロッジお兄ちゃんがすごく気持ちよさそうに寝てるから起こせなくて……それに、一度でいいから腕枕で寝てみたくて……」
「お、おはよう、ユーノちゃん。別に腕枕くらいならいつでもしてあげるけど……」
「ほ、本当、ロッジお兄ちゃん!? じゃあ、これから毎日――」
「毎日なんて呼ぶわけないでしょ」
とリナは毛布の中に手を突っ込み、ユーノちゃんの腕を掴んでベッドから引きずり下ろす。
半袖と丈の短いスカートという、やけに肌の露出が多いメイド服を纏ったメイドが、ずるずると僕の毛布から出てくるのはなんだか妙な光景だ。
「どうしてぇ~? リナちゃんのケチ~……」
「今日はたまたま私も少し寝坊しちゃったから頼んだだけ。アンタは自分の家の仕事に戻りなさい」
「大丈夫だよ~、わたしの仕事はまだ先だから~。ねぇ、リナちゃん、いいでしょ? 明日もわたしがロッジお兄ちゃんを……」
「だからそんなことしなくていいって言ってるでしょ。ってか、あんまりお兄を甘やかさないで」
などと会話しながら、二人は先に部屋を出て行く。
――流石はパン屋の看板娘、朝から元気だな……。
思わず笑ってしまいつつ、僕もベッドから起きてまずは服を着替える。麻のズボンと長袖のシャツを身につけ、ブーツを履いてキツくその紐を結ぶ。
窓の外は、気づけば朝の透明な光に白み始めている。
「よし、今日もいい朝だ……。頑張れ、僕」
そう自分自身に気合いを入れて、階下の店舗――我がアルトー家が営む花屋、名前はそのまま『アルトー』へと向かう。
通りに面した両開きの扉を開いて、店舗の中にしまっておいた荷台を外へと引き出す。
「じゃあ、行ってくるよ」
「うん、行ってらっしゃい」
「気をつけてね。ロッジお兄ちゃん。――って、腕枕をしてもらいながら一緒に起きて、それから仕事に行くのを見送るなんて、まるで新婚の夫婦みたい。きゃ~~~~っ!」
「おい、ユーノ! 店にパンを並べるのを手伝ってくれ!」
「はーい!」
向かいのパン屋の中から響いてきたダニエルおじさんの声に元気よく返事をして、ユーノちゃんは自分の家へと小走りに入っていく。
――ホントにユーノちゃんは朝から元気だな……。
その純粋で無邪気な姿には、本当にいつも元気を貰えている。僕もしっかり頑張らないとな。
じゃあ、ともう一度リナに声をかけてから、僕は空(から)の荷台を引いて歩き始めた。
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