踏破完了
『神の箱庭』踏破の二日後。
ハイセは宿の一階食堂で一人、新聞を読んでいた。
見出しは『セイクリッドのサーシャ、そして仲間たち、禁忌六迷宮『神の箱庭』を攻略!!』とある。
やはり、目立つのはサーシャだ。
ハイセ、ヒジリ、エクリプス、ウルと四人の七大冒険者が参加したのだが、ハイベルク王国内での知名度ではサーシャに負ける。
城下町でも、S級冒険者たちがサーシャに協力し、禁忌六迷宮『神の箱庭』を踏破したと話題になっていた。当然だが、ハイセは評判などに興味がない。
新聞を読んでいると、シムーンがおかわりの紅茶を注いでくれた。
「どうぞ、ハイセさん」
「ああ、ありがとう」
禁忌六迷宮『神の箱庭』から帰って二日……『神の箱庭』の中は時間の流れが違ったので、シムーンたちから見れば日帰りだ。
今日は休日にした。報告の時に「 近いうち、ハイベルグ国王から呼び出しがある」とガイストが言っていた。
「ハイセ、おはよう」
「……ん」
エクリプスが部屋から出てきた。
階段を降り、ハイセの席に座る。
すぐに、シムーンが朝食を運んできた。
「ね、ハイセ……今日はお休みよね? その……私と、お買い物に行かない?」
「…………」
「だ、ダメかしら……」
「……お前、本当に別人みたいだな。『
「あの時は、まだその……恋してなかったから」
頬を染め、顔を逸らす。
エクリプスは美少女だ。こんなふうに顔を赤らめたら、男は見惚れるし意識もするだろう。
だがハイセは全く気にしない。でも……少しは変わった。
「……何買うんだ」
「え?」
「買い物するんだろ。俺も、コートの手入れを馴染みの防具屋に依頼する……そのついでならいいぞ」
確かに、エクリプスとはいろいろあった。
だが……同じダンジョンを、禁忌六迷宮『神の箱庭』を攻略した同士として、過去のことは全て水に流した。
今では、対等な冒険者として、ある程度は心を許していた。
「ほ、本当? ふふ、ありがとう」
「朝の修行終わりですっ!! 師匠!!」
「うるさい」
「はい!! あ、エクリプスさん。おはようございます!!」
「おはよう。ふふ」
クレアは汗を拭き、胸元をパタパタしながらハイセの席へ。
「シムーンちゃん、イーサンくんがお風呂入れて欲しいって言ってました。フェンリルちゃんを丸洗いしたいそうです」
「わかりました。クレアさんも朝ご飯用意しますね」
「お願いします!! あ、師匠」
「ん」
「今日、双剣を研ぎに武器屋行きたいんですけど……一緒に来てくれませんか?」
「いいぞ。俺も防具屋に用がある」
「やたっ……あれ?、エクリプスさん、どうかしたんですか?」
「……別に?」
こうして、エクリプスとクレア、そしてハイセの三人で出かけることになった。
途中、なぜか行き先を知っているプレセアが合流したり、焼肉屋巡りをしているヒジリがついて来たり、騒がしい休日となるのだった。
◇◇◇◇◇◇
その日の夜。
ハイセは宿を抜け出し、ウルが経営するバーに来た。
店は貸し切りで、店内にはマスター、ウル、ハイセだけ。
ウルの隣に座ると、マスターが注文を聞く。
「ご注文は」
「店で一番高い酒、二人分」
「かしこまりました」
マスターはロックグラスを二つ出し、氷をアイスピックで削って入れる。
そして、いかにも高そうな酒を戸棚から出し、丁寧に注いだ。
グラスをハイセとウルの前に置き、二人が手に取る。
ウルはハイセに聞く。
「何に乾杯する?」
「禁忌六迷宮『神の箱庭』の踏破で」
「じゃあそれで……乾杯」
グラスは合わせない。
酒を飲み干し、おかわりを注文。
「……まさか、本当にお前さんが奢ってくれるとはな」
「約束だしな……それに、こういう雰囲気の店、嫌いじゃない」
「そうかい」
カラン───と、氷が揺れてグラスに当たる音がした。
ウルは帽子を置き、ハイセに言う。
「なあ、『神の箱庭』での願いだが……」
「『
「ああ。すぐに挑戦するのか?」
「いや……まず、地図の複製をする。サーシャも、すぐには行けないって言ってた。それと……クレアと一緒に、フリズド王国にも行く」
「クレアちゃんと?」
「ああ。一度、故郷に戻って『やり残したこと』をやるんだとさ」
「……あのよ、ハイセ」
「ん」
「その……クレアちゃんのことだが。実は、個人的に気になって調べたんだ」
「おい、言うな」
「……気付いてんのか?」
「さあな。それは、あいつの口から聞く。まあ……ある程度、見当はついてるが」
「…………悪かった」
ウルはグラスの酒を一気に飲み干し、話題を変える。
「オレはしばらく、ここで冒険者を続ける。実は……サーシャちゃんに誘われてるんだ」
「サーシャに?」
「ああ。クラン『セイクリッド』に所属する弓士たちに稽古つけてくれ、ってな」
「受けるのか?」
「まあな。いろいろ考えて、実はオレ……人に教えるの、けっこう好きかもしれん」
「……なんだそれ」
ウルは、『神の箱庭』での経験から、後進を育てる意欲が沸いていた。
「まあ、ロビンもいるしな。久しぶりに……妹に、兄貴らしいこともしたいからな」
「ふーん」
ハイセは適当に返事をして、おかわりの酒を注文した。
◇◇◇◇◇◇
クラン『セイクリッド』にて。
禁忌六迷宮『神の箱庭』の踏破パーティーをクラン内で行い、大いに盛り上がった。
そして現在、サーシャはピアソラと二人で入浴していた。
「んふふ、サーシャと二人きり……ハァハァ」
「息が荒い。それと、あまり近づくな……あと、胸を触るな」
サーシャは、ピアソラたっての願いで、一緒に風呂に入っていた。
現在、レイノルドたちは二次会で盛り上がっている。
二次会ではクランの酒豪たちによる飲み比べ大会なども行われているようだ。
だが、主役であるタイクーンは『神の箱庭で気になったことをまとめたい』と自室に籠り、サーシャも二次会の費用だけ出して休もうとしたのだが、ピアソラが風呂に誘ったのだ。
大浴場ではなく、個室にある風呂なので、かなり狭い。
だがピアソラは、サーシャにべったりくっつけるので好都合である。
「ね、サーシャ……禁忌六迷宮、お疲れ様」
「ああ、そっちも、留守番ありがとう……と、言いたいが、ほんの数分の出来事だったとはな」
サーシャがクスっと微笑むと、ピアソラはサーシャにぎゅっと抱きついた。
「すっごく心配しましたわ。たった数分だけど……やっぱり、心配でした」
「ああ、心配をかけた」
「それと……『狂乱磁空大森林』の情報を手に入れたって聞きましたわ。もしかして、すぐに行きますの?」
「いや、まだ行かない。準備もあるしな」
「そっか。じゃあ、今度は一緒に……」
ピアソラは態勢を変え、サーシャの正面に向き直る。
互いに大きな胸がふれあい、サーシャが顔をこわばらせた。
「こ、こら!! 私はそっちの趣味はないと」
「むぅ~……ちょっとくらい、いいじゃない。ねぇねぇサーシャぁ」
「や、やめろ!!」
口をむ~っと近づけてくるピアソラを押さえ離れようと攻防…サーシャは長湯でのぼせそうになった。
こうして、ハイセたちの禁忌六迷宮『神の箱庭』の攻略は、終わるのだった。
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